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17話 橋姫ガールと書道部(前編)

 クラスに覚悟の宣言をしてから4分後、オレは書道室の前にポツンと一人立ちすくんでいた。人の気配のしない、陰気なカンジのところだ。


「……あれっ、これはもしかしなくても今日は活動日でない……?」


 虚しく独り言が辺りに響き渡る。


「……あっちゃー……。これは困ったな。このままじゃ璃世の家に行けないぞ……」


 虚しく、独り言が辺りに響き渡る。



 ……この書道室を尋ねた理由は2つある。

 1つ目は璃世の家を知るためで、2つ目は璃世と連絡を取るため。

 助けたいと思っても、現状家も知らなければ連絡先も知らないのでどうすることも出来ない。

 だから、紬に聞いたんだ。『璃世と接点があるコミュニティーはないか』と。部活でも、委員会でも何でもよかった。

 本当は、海に行った時や校内で一緒に散歩した時に聞ければ良かったのだけど、まあ、そんなことを後悔したところでどうにもならない。今はやれることをやるだけなのだが……。


 書道部が今日活動していないとなると、話が変わってくる。

 書道部は、運動部か文化部のどちらに当てはまるかといえばもちろん文化部なわけで、その文化部は週あたりの活動日が少ないことが多い。

 もっとも、委員会よりかは活動する日が多いわけだが……。


 一応、これは賭けだった。

 そして、オレはその賭けに勝たなくてはならなかった。

 ……そして、その賭けに負けてしまった。


「おーいっ!書道部は今日は活動しないのかーっ!」


 虚しく、独り言が、辺りに響き渡る──



 







 ──かと思われた。3度もこの言葉を思う必要は無かったみたいだ。

 

 ドン、カカッ、ドンッ、カカ、ドン──。


 独特な足音だ。

 書道室の目の前にある階段を降りてくる少女の姿というのは、女神にも救世主にも見えた。


「あー、なんですなんなんですっ!そんな大声を出して。近所迷惑になりますよ。き、ん、じょ、めー、わくっ!……分かりますか?」


 ……何だろう。

 さっきの『女神にも救世主にも見えた』なんて思ったのはオレの気の迷いだったのか。

 言動が全くお淑やかでない。

 姿もよく見て見れば、全体的にふんわりとした形の黒髪のポニーテールで、あずき色のシュシュが付けられている。リボンもちょびっと曲がっていて、スカートもそれなりに短い。

 これじゃ、『おてんば娘』じゃないか。小柄な体も相まって、よりそう思わせる。

 

 ……切羽詰まっている状況なので、勘違いしても仕方ないよな。うん。


「……君、書道部の子?」

「はいっ!その通りです!」

「……名前はなんて言うの?」


 ……急に、そそくさと2歩3歩と距離を取られてしまった。


「……そんなことを聞くなんて、もしかしなくても変態さんですねっ!」

「同じ学校に所属する者同士じゃないか。そこに変態も何もないだろ」

「まー、いいです。どうしてもって言うなら教えてあげても──」

「あっ、『どうしても──』までとは言ってないから別にいい──」

「あーっ、この流れは聞く流れってやつですよっ!セオリーはちゃんと守ってください。……私の名前は秋津撫子(あきつなでしこ)。この本町高の書道部の部員です。ちなみに、クラスは1-Eですね」


 あたふたと慌てた様子だ。

 そのせいか、自己紹介がめっちゃ簡潔なものになっている。

 案外、『セオリー』とか重視するタイプか。

 その『セオリー』がズレてるかもしれないことは、黙っておこう。


「……ありがとうな、教えてくれて。オレの名前は茂木颯。クラスは2-Dだ」

「あっ、知ってます。モテモテでカンペキな男代表の茂木さんですよね?」

「なんだ、知ってたのか。……ちなみに、1年の間にはそんなカンジで思われてるのか?」

「いえ、蓮太さんがこう言ってましたっ!」


 おっと、ここでなんか聞き馴染みのある名前が……。

 えっ、知り合いだったの??


「蓮太っていうと……西條蓮太か?」

「はいっ!その西條蓮太さんです!」

「驚いたな、蓮太と知り合いなのか。……でっ、その蓮太が撫子さんに『モテモテでカンペキ』だって言ってたのか」

「まっ、憎たらしいとも言ってましたけど……。てゆーか、『撫子さん』呼びやめてください」


 なんかめっちゃ気になることを言われたような気がするが……それよりも、その呼び方はダメなの?

 撫子が顔を『ムスッ』とさせて拒否の表明をしている。


「……なんでだ?」

「……名前呼びってなんか馴れ馴れしくないですか?茂木さんの情報は知っていても、会うのは初めてなんですから」

「じゃあ、秋津さんでいい?」

「ええ、それならっ!」

「蓮太と知り合いなんだろ?蓮太にはなんて呼ばれてるんだよ」

「蓮太さんからは『撫子ちゃん』って呼ばれてますね」

「何だろう。なんかオレよりも馴れ馴れしいような……。秋津さんはそれでいいの?」

「ええ!……蓮太さんは特別な人……なのでいいんです」


 顔を真っ赤に染めながら、さっきまでの活発さを潜ませて照れながら答える。まさに、『恋する乙女』といったようなカンジだ。


 てか、お前らはいつからそんな親密になったんだよ!?いや、素直におめでとうだけどな?


 良かったな、蓮太。お前にもとうとう春が訪れるってよ。オレは今から極寒の冬に立ち向かうわけだが……。


「なあ、秋津さん。今日って書道部の活動日なのか?」

「……あっ、はい。木曜日は活動日ですよ?」

「良かったーっ。書道室は暗いし、鍵も空いてなさそうだったからヒヤヒヤしたぞ……」

「茂木さんが来るのが早すぎるんですよ。何ですか、途中でHRを抜け出してきたんですか?」


 ……図星だ。何も言い返せない。


「そんなに急いで……この書道部に何か用です?あっ、もしかして私個人に用がありましたか?」

「……いや、書道部に用といえば用があるが、部員だったら誰でもいい」


 一瞬、秋津が顔をしかめた。


「『誰でもいい』というのはなんかイラッとしますが、一体何の用があって急いでたんですか?」

「……人助けだ」

「『人助け』……。それがこの書道部と何か関係が?」

「……オレが助けたいのは橋立璃世という人だ」

「橋立璃世……。ああっ!璃世先輩のことですねっ!……えっ、先輩に何かあったんですか?」


 いきなり知ってる名前を出されて驚いたのか、秋津はキョトンとしたまま聞いてきた。それでも、オレは一歩踏み込んで答える。


「ちょっとしたトラブルがあってな。それで今日学校を欠席してんだよ。それで、ちょっと書道部の部員の秋津さんに協力してほしいことがあってさ」

「……分かりました。私に協力できることがあれば何でも。しかし、ここで立ち話もあれですから、一回書道室に入っちゃいましょうか」


 少し錆びた銀色の鍵を、秋津は『フフンッ!』得意げになって見せてくる。そして、それを鍵穴に差し込んで、『カチッ』という気分のいい音を響かせる。



 ……まだ、神様はオレたちのことを見捨ててはいないようだ。


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