15話 橋姫ガールとハヤテガールズ(後編2)
後編は2つに分割してます。この15話はその後半部分です。
「璃世ちゃんと茉里ちゃんの間でトラブルがあったのは確か。……これ見て」
陽菜から見せられたのは、知らないチャットのグループ。……これは女子専用のやつだろうか。グループのアイコンは水族館のクラゲ。……そういえば、茉里はクラゲが好きだとか何とか言ってたっけ。
……いや、そんなアイコンよりも気になることがある。それは、グループに所属する人数が『16』であることだ。
このクラスは35人いて、男子が18人、女子が17人となっている。女子の人数が17人であるはずなのに、チャットに入っている人数は『16』と示されている。
「なあ、なんでそのチャットにはあと1人足りないんだ?もしかして、その1人は──」
陽菜のスマホをじーっと凝視するオレが抱いた疑問を、文が淡々と答える。
「ハヤテ君の思ってるとおり、足りない1人は橋立さん」
「な、仲間はずれか……」
「いや、それは違う。橋立さんは、なぜだかこのグループに入りたがらなかったの。私や立花さん、鳴門さんだって何度もこのグループに誘ったけど、断られ続けた」
「そうなのか……。ちなみに、このグループを作ったのはいつだ?」
「4月の上旬。……進級してからすぐね」
4月──。
オレがまだ璃世のことを認識していない時期か。
「……それで、橋立さんがグループ内にいないことをいいことに、寺屋さんは自分がしたことをチャット内に書き込んだんです!」
「……どんなことなんだよ、紬さん」
陽菜が気まずそうにチャットの内容を見せてくる。
─────
あっ、そういえばぁ・・・
今日のはやて君ハナシ、きっとホント。
放課後、アイツを呼びつけて聞いてみたんよ。
そしたら否定しやがって。
まっ、ウワサが合ってようが間違ってようが否定するよねってことでさらに問い詰めたワケ。
で、アイツ泣き出してwww
イラつくよねー。被害者面しちゃってさ。
そのブサイクな面見て言ってやったの。
「お前みたいな奴がはやて君に釣り合うと思ったら大間違い。きっと迷惑してる。存在が邪魔だって思ってるよ」って。
言い終わるか言い終わらないかのくらいの時に、アイツ逃げてって。事実なんだから、図星でも最後まで聞けっつーの!
私もちょーっと、ちょびっとだけ言い過ぎたような気もするけど・・・私だって必死だから仕方ないよね☆
─────
「なんだよ、これ……」
「みんなも『なんなんだ、これ?』って状態だったんじゃない?それに対しての返信とかリアクションないし」
「……良くも悪くもみんな何も言わなかったんだな」
「……ごめん、ハヤテ」
みんな怖いのだ。クラスの女子集団の中心にいる寺屋茉里に逆らうのが。
陽菜に謝られたが、責める気はない。
今回の件、全面的に悪いのは茉里とオレなのだから。
「しっかし……ここまで白々しいと見てるオレまで清々しいくなってくるな。呆れるくらいに。……ひとつ気になることがある。なんでここまでオレを取り囲む人数が減ったんだ?」
「たぶんだけど、寺屋さん以外の子たちは離れざるをえなかったんだと思う」
文が、苦慮しながら口を開く。
「どういう意味だ、文さん」
「このチャットから、寺屋さんは暗に『私のはやて君に粉をかけようとしたら許さない』ってことを言ってるの。そんなことをしたら、橋立さんみたいなことをするぞって。今一緒に昼食をとってるのは、寺屋さんがそう指示したから」
「指示……?」
陽菜が画面をスクロールして、あのチャットに続く内容を見せてくる。
はやて君を取り囲んでるみんなーっ、明日から昼休みになってもはやて君のところに行かないでね☆
私のとこに集合!
こういうのは、一回『私たちがいないと寂しい』って思わせたほうが、後になって私たちに夢中になってくれるからっ!
「こんなことも言ってたのか。寺屋は」
「寺屋さんはこれを目的に、寺屋さん以外は追随したって感じだと思う。一旦離れて、時期を見てまたここに戻ろうとしたんでしょうね。……今度は周りの人たちを自身の引き立て役にしようとするんじゃない?」
呆れにも似た、文の静かな怒りが伝わってくる。
ヒドイ話だ。
他人を蹴落としてでも自分だけが得しようとする……。
ある意味人間らしいが、関心しない。……したくない。
──────────
「……なあ、みんなはここにいていいのか?」
「なんでそんなこと聞くの?ハヤテ」
陽菜が質問を質問で返す。
険しい顔をしているのは何も陽菜だけじゃない。文も、それに紬だってさっきよりも険しい顔になってしまった。
いきなり話題が変わったのはそうだが、たぶん……言ってほしくはなかったんだろう。
「だって、寺屋は『私のところに集まれ』って言ってんだろ?……行かなかったら今度は陽菜や文、紬が次になじられる番かもしれないのに……」
「……そもそも、私らはここにいる目的が違うの」
「『目的』?」
黒の真っ直ぐで純粋な瞳をオレに向けて、声を震わせながら陽菜が答える。
「一緒にお喋りしたかった。そりゃ、私を見てほしいって気持ちも確かにあるよ?それでも、単純にみんなと楽しくハヤテと関わっていけたらそれだけで良かった。でも、茉里ちゃんたちは違う。自分が選ばれるため。自分のことを好きになってもらうため。一種のステータスのようにも思ってるのかも。……大丈夫だよっ、なじられたって私らは『強い』からさっ!」
寂しさにも、諦めにも似た顔を、オレだけでなく文や紬にも向ける。
この3人は、オレと璃世のことを気にかけて今ここにいる。
自分たちがたとえ選ばれる立場で無いと感じていても、今ここにいる。
それは、どんなに辛いことなのだろうか。
だからこそ、オレは覚悟を決めなくてはいけない。
残ってくれた『ハヤテガールズ』や、璃世に報いるためにも──。
──────────
「あ、あの……。これからどうするんですか?モテギ君がこのまま見過ごすとは思いませんし……」
「……寺屋本人には何も言わない」
「ええっ……!なんでですか。一番手っ取り早い方法だと、私は思うんですけど……」
そう思うのは、至極当然の話だ。
でも、それだけじゃ足りない。
紬は驚きを隠せない様子で、一人であたふたしている。
「いや、一番遠回りの方法だな。たぶん」
「……そうなんですか?」
「うん。もしもこれを本人に言ったところで何か変わると思うか?……オレの口から言うなら多少は変わるかもしれないけどさ、大部分はきっと変わらないままだよ。人の本性や性格っていうのはなかなか変わらないんだ。それに、ムリに抑え込んでも後には何も残らないだろ?」
こんな時に、『昔』の話が活きてくるとは思いもしなかった。
「じゃあ、どうするんですか……!」
「まー、オレも言いたいことはあるし『許せない』って気持ちは確かにあるからさ。『行動』はキチンとするつもり」
「私たちに何かできることは……」
「いや大丈夫だよ、紬さん。……みんなに累が及ぶようなことはしないから。まあ見てなって!」
左胸を『ドンッ』と強く叩いて宣言する。
みんなの顔が一瞬緩いだ気がするが、まだ険しい顔だ。
「モテギ君。頑張ってください。たぶん私たちにはこうやって応援することしか出来ないと思いますけど……。何かあればなんでも……」
「んー……。あっ、そうだ。璃世って部活とか入ったりしてるのか?委員会でもいい」
「……部活は確か書道部です。活動日までは分かりません。……すみません。委員会には入っていないです」
「それで十分だよ、ありがとう。……だったら、活動場所は書道室か」
どんな情報でも集めておくに越したことはない。
特に、この情報は璃世を助け出す一助になると思う。
──────────
6時間目が終わり、帰りのHRも終わろうとする頃。
学級委員の文ともう一人の学級委員の男子が教壇に立って進行をしていた。
「えー、これでHRを終わります。何か他に言いたいことがある人──」
「はいっ」
「……茂木君、どうぞ」
『どうぞ』と学級委員の文に許可されたので、席から立ち上がり、教壇の上に移動する。
周りからはザワザワとした声が響き始めていて、少しうるさい。
「ハヤテ君、いきなり──」
教壇に上がる直前、文から困惑の言葉も聞こえたが、関係ない。
ああ、ここは何でも見えるな。
璃世の席も、寺屋の呆気に取られた表情も全て。
『バンッ!』教卓に両手をついた鈍い音が、雑音でいっぱいの教室を静かにさせた。そして、オレは高らかに宣言する。
「2-Dの生徒全員に告ぐッ!」
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