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14話 橋姫ガールとハヤテガールズ(後編1)

後編は2つに分割してます。この14話はその前半部分です。

 ──わたしぃ……見ちゃったんだよ。最近、2人って一緒にいることが多いよねぇ。一緒の教室にいたり、2人きりで校内回ってたりさぁ……。


 『ハヤテガールズ』の一員である寺屋茉里(てらやまり)のこの一言によって、オレを取り巻く環境は翌日に大きく一変した。……大きく一変してしまった。

 自覚したのは、昼休みになってからだ。


 こう考える理由は、2つある。


 一つは、璃世が欠席したことだ。

 しかし、これだけではただの体調不良なのだと思っても仕方ない。

 学校で体の調子が悪い様子を見せていなくても、家に帰ってから体調が悪くなった可能性がある。そもそも、ただ用事があって来ていないだけかもしれない。

 しかし、後者のものと一緒に考えると、『何かがあった』ことを考えずにはいられない。


 その『後者のもの』でもう一つは、『ハヤテガールズ』が激減したことだ。昼休み、いつもは集まるはずの女の子が全然いない。3人だけになってしまった。

 途中で勝手にいなくなることを想定しても、10人くらいが一気に、そして何も言わずなんてことはあり得るのだろうか。

 しかも、抜けたガールズ同士で昼食を食べてるし。

 時々、ほくそ笑むような茉里のいたずらな笑みがオレに向けられる。まるで、『計画通り』といったような不敵なものだ。



 昨日のあの一言の後は、そのセリフ自体がなかったかのように、淀みなく普段の会話が進行していって普段通りにチャイムが鳴ったところで解散した。


 『結局、しばらくは何も起こらないだろう』と踏んでいたオレの爪が甘かったってことだ。

 結果的に『ハヤテガールズ』の人数は減り、璃世は学校に来なくなってしまった。

 ガールズたちの人数が減るのは別に構わない。でもっ……璃世に危害が加えられるのは何としても避けたかった……。オレは璃世を守ろうと思っても、どこか慢心していたんだ。きっと。


 どこがいけなかった……?

 寺屋茉里の噂をキチンと確認しなかったことが原因か?


 『人のことを引っ掻き回すのが好きで、これまであった仲をズタズタにする──』

 『独占欲が強く、邪魔になるような相手は陥れることも辞さない──』


 どこからともなく現れた噂を軽視するのではなく、キチンと自分の目で噂をチェックすべきだったのか?

 そもそも、オレに対する噂もある意味当たっていた。

 こんな噂がある時点で、取り囲むのをやめてくれと言うべきだったのか?


 何にせよ、こんなことを考えてももう遅い。

 茉里が璃世に何かしたと断定できるまでには至らないものの、関わっている可能性は高いのではないか。直接何かをしていなくても、他の人を焚きつけて行動させたことも十二分に考えられる。


 大事なのは、これからどうしていくべきかということだが……どうしよう。


 ──────────




「しっかし、今日は随分と風通しが良いねーっ!夏って湿度が高くてジメジメするものだと思ってたのに、今日はなんかカラッとした暑さのような……」

「……そうね。後ろからの声も気配も何もないし、ある意味過ごしやすい」

「……うう、ハヤッ……モテギ君……」


 残った『ハヤテガールズ』が、気まずそうな雰囲気を吹き飛ばそうと必死に話題を提供しようと頑張っているが、どのみちオレの心にくるものばかりだ。


 残ったのは、もともとオレのすぐそばにいることの多かった──


 立花陽菜(たちばなひな)

 辻堂文(つじどうあや)

 鳴門紬(なるとつむぎ)のこの3人。


「なあ、教えてくれ。……昨日一体何があった?」

「私らは何が起こったか知ってるけどさーっ。それをハヤテが知る意味ってあるの?」

「……え?」

「そうそう。別に、私たちとだけ関わってたらいいと思うんだけど……。去った人のことなんて、ハヤテ君は気にするタイプだった?」

「……モテギ君は私たちのことよりも……誰か気になる人がい、いるんですか……?」


 今までは無かった、容赦のない言葉が多くぶつけられている。

 3人とも顔が険しい。

 まるで、オレのことを試しているかのようだ。


「──知る意味……?あるだろ。このままで終わりなんて。去った人のこと……?苦しんで泣く泣くいなくなったかもしれない人のことを、放っておけないだろ。……こんなことを言うのは、オレに気になる人がいるからだ。……オレは、璃世のことを放っておけないよ……」


 言った。

 ……言ってしまった。

 この宣言は、『君たちよりも橋立璃世のほうが大切だ』と言っているようなものだ。


 沈黙が続く。

 しかし、この『苦痛』を、オレは甘んじて受け入れなければならないと思う。


 しばらくして、3人が顔見合わせて順に言葉を紡ぐ。


「……ごめんね、ハヤテ。試すような真似しちゃて……」

「私も……ごめんなさい。ハヤテ君を試すようなことを……。ハヤテ君は、どんな人でも気にかけるタイプだってこと、分かってたはずなのに……」

「わ、私は……薄々モテギ君が橋立さんのことを意識してるって気づいていても、あんなイジワルな質問しちゃいました……」



「……私らを中途半端な気持ちで諦められたくなかったからっ!……ちゃんと、ハヤテの口から聞きたかったの……!」


 陽菜が、寂しそうな笑みをオレに向ける。

 力の籠もった本心が、辺りに静かに木霊した。


「いや、『諦められたくない』なんて言葉も上から目線かもしれない。ハヤテ君の方から一方的に『来てっ!』なんて言葉はなくて、逆に私たちが押しかけてる状態なのに……」


 続けて文も、作った笑顔で自分たちを納得させようと頑張っている。声を震わせてまで。涙を見せまいと、必死に。


「私たちのことをもっと見てほしいって、素直に思いますけど……でもっ……!それ以上に、モテギ君が見る景色はキレイなものであってほしいんです……。橋立さんがいることで、モテギ君が見る世界がキレイなものになるならばっ……わ、私たちは協力したいです……」


 涙声になりながら、紬が必死に背中を押してくれている。自分たちだって思うところがあるだろうに、『オレと璃世のために決心して行動する』と声を振り絞ってまで伝えている。


「みんな、ありがとう。そしてごめんなさい。……オレに、昨日一体何があったか教えてください。茉里は関係しているのか?……オレは今、橋立璃世のことに夢中だ。……彼女が困っているなら、オレが助け出さなければならない。だから……」

 

 無我夢中で頭を下げ続けたオレを、彼女たちの目にはどう映ったのだろう。

 ……いや、カッコ悪く見えたって別に構わない。

 体裁よりも遥かに大切なものが、そこにあるだろう。


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