13話 橋姫ガールとハヤテガールズ(中編)
「ねぇーっ、ハヤテェー?最近ボーッとしてることが多くない?マジで浮かない顔しちゃってさーっ。どした、どしたっ?」
「ああ……。最近考え事をする機会が多くてな。悪い」
「考えゴトォー?あっ、もしかして期末テストのこと?まあ、あんま根を詰めすぎないほうがいいって」
「気遣いありがとうな、陽菜さん」
オレの真正面に座る立花陽菜が、心配を吹き飛ばそうと大げさに笑う。
オレのことを取り囲む『ハヤテガールズ』の一員で、その姿や性格はまさに陽キャギャルタイプ。
1年の時から同じクラスで、その時からオレを取り囲んでいた。
ロングストレートの金髪。
顔は十二分に整っていて、綺麗。
身長はオレよりも大きい。
そのグラマラスな見た目は、男女問わず惹きつけるものがある……が、惹きつける要因としての外見は一部分でしかなく、実際には誰に対しても明るく接しているからなのではないか──とオレは踏んでいる。
「いいっていいって!……それよりも、ずーっと文ちゃんがハヤテに話かけててスルーされてたから、謝っておきなーねっ!」
「えっ、あっ……!悪い文さんっ!ごめんっ、え、ホントごめんっ!」
「いいの。……ハヤテ君、なんか困り事があったら私たちに遠慮なく言ってね」
「うう……。ありがとうな、文さん……」
オレから見て左側にいる辻堂文が、これ以上罪の意識を感じさせまいと優しい眼差しで見つめている。
しっかり者で、2-Dの学級委員。そんな彼女も、『ハヤテガールズ』の一員だ。2年になってから同じクラスになって、5月頃からオレを取り囲んでいる。
混じりっ気のない、艶のある黒髪は肩ぐらいまでの長さ。今日は、『ゆるふわハーフアップ』のヘアアレンジをしているようだ。
華奢な体型。
ハッキリ言って、文が『ハヤテガールズ』になるとは思っていなかった。真面目で一匹狼的な存在の彼女は、むしろこの集団のことを冷たい目で見ていると考えていたので、会話に参加してきた時には驚きの感情を持ったことを覚えている。
「ここから本題。……最近、体育の授業でプールが始まったじゃない?……女子の方では平泳ぎや背泳ぎをやってるんだけど、私、うまく泳げなくって。だから、今度教えてもらえないかなーって……」
「プールか……。悪い、泳げないんだよねー。こればっかりはオレでも教えるのはムリだ。ごめん」
「そ、そう……。気にしないで。……ハヤテ君、変なこと聞くけど、この高校に入ってきてから水泳の授業って参加したことある?」
「いやー、それが実は無いんだよね。なんか水泳の授業の時に、毎回水着忘れちゃってさ。ずっと見学しかしてこなかったんだよ」
「そんなことあるの……?」
「うんっ。あるんだよなー、それが。どうやらオレは水着に嫌われてるみたいで……」
「……なにそれ」
文が口元を隠してクスクスと笑う。
「だから、オレは泳げないんだよ。授業でも何でも泳いだことがないから。だから、ごめんな」
「ええ、大丈夫。……それよりも、鳴門さん。ハヤテ君に何か言いたいことがあるようね」
「……ハ、ハ、ハヤ……モテギ君。こんな噂、聞いたことはありますか?」
「噂ぁ?なんだそれ。もし良かったらどんな内容が教えてくれないか、紬さん」
オレから見て右側にいる鳴門紬が、ビクッと体を震わせる。
今、オレに話題を振られて『あわわ……』と挙動不審なしどろもどろな態度をとっている。体も小さく、『大人しめの妹キャラ』を体現したような子だ。6月の中旬くらいからオレを取り囲んでいる、一番の新入りさんだ。
しかし、そんな大人しめの性格と言動とは別に、容姿はやや特徴的だ。
両耳の下で作られたツインのお団子。
前髪を見てみれば左右で長さが違っていて、右側は目が見えるが、左側は目が隠れるくらい長いのだ。
「あ、あの……。私もチラッとしか聞いてないんですけど、『茂木颯は、隠したいものがあるから水泳の授業はずっと見学』って噂です……」
……。
『隠したいもの』ねえ。
抽象的過ぎて正解のゾーンが広いのはあるが、当たってて困るな。
さて、どう誤魔化そうか。
「……なーんだ。所詮噂は噂だなー」
「それって……違うってことですか?」
「違う、違うっ!」
「じゃあ、本当にただ水着を忘れてるってことですか?」
「そうだよ。まー、ずっと忘れてたらこんな噂が出てくるのは仕方ないことだな」
「そ、そうなんですねっ!『隠し事』はしてないってことですねっ」
堂々としてれば、やっぱり嘘ってバレないな。
ごめんな。
本当に申し訳ないことをしてると思ってる。
でも、言いたくないことはどうしても言いたくないんだ。
璃世に対してだって躊躇ってしてしまうことを、オレが出来るはずがないんだ。
──────────
「ねぇ〜。わたしぃ、はやて君の考え事の理由、知ってるかも〜!」
この一言で、一斉に後ろにいる寺屋茉里に視線が集まる。
『ハヤテガールズ』の一員だが、あまりいい噂は聞かない。……所詮、噂は噂なのであまり気にしてはなかったが……。
「ソレってぇ……隣の席の橋立さんが関わってるんじゃないのぉ〜?」
次に、隣の席にいる璃世に視線が集まった。
『何か?』みたいな顔をして平然を保っているが、内心ではきっと驚いているだろう。……怖がっているかもしれない。
何にせよ、後で謝らなきゃな。勝手に巻き込んでごめんって……。
「わたしぃ……見ちゃったんだよ。最近、2人って一緒にいることが多いよねぇ。一緒の教室にいたり、2人きりで校内回ってたりさぁ……」
見られてたのか……。
しかし、茉里の璃世に向ける視線が『敵』を見るような、鋭いもののような気がするのは気のせいだろうか。
イザコザは起こってほしくないが、もし、万が一が起こった場合、オレは璃世をキチンと守りきれるのだろうか──。
……いや、そんな弱腰じゃダメだ。
必ず守らなきゃいけないんだ。
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