12話 橋姫ガールとハヤテガールズ(前編)
今までは6月下旬と呼ばれていたが、次第に7月上旬と呼ばれ始めるようになった頃。
夏の日差しが容赦なく燦々と降り注ぐようになって、夏の本格的な訪れを予感させる。
そんな日の、4時間目が終わっての昼休みのことだ。オレは、いつも通りに10人程度いる『ハヤテガールズ』の相手をしていた。
『ハヤテガールズ』というのは、オレを取り囲む女の子集団のことを呼称したものだ。初めに言い始めたのは、隣の席に座る橋立璃世。……現在、オレが『恋』していると言われている相手だ。
正直、璃世に恋をしているのかは自分ではあまり分からない。こういうのは、当事者が一番鈍いものなのだ。
でも、杏樹や蓮太といったオレのことをよく知っている2人からそう言われてしまえば、逆らえない部分もある。
璃世のオレとの関わり合いがなくなるのは、イヤ。
璃世がほかの男と付き合うなるて、もってのほか。
人は、この気持ちを持っていることを『恋』と呼ぶらしい。でも、オレはどうしても不安だ。結局は、自身が傷つけ傷つけられるのが怖いんだ。
オレは恋なんて、『そんなものはしてはいけない』とばかり考えていたので、なんだかフクザツな気分だ。
ここ数日間、璃世の様子は落ち着いているように見える。前までのように、ムリに我慢している様子がないのだ。ここは、オレの予想を良い意味で裏切った。
あと、『気持ちが溢れそう……』と言ってオレに相談することも多くなった。その時には、一緒に深呼吸したりする。気晴らしに、校内を散歩したりもする。
璃世自身は、何か相談する度に『ごめんね』と言って申し訳ないという気持ちを滲み出しているが、正直オレは頼られるのがうれしかった。
璃世と一緒にいると、安心するんだ。
しかし、璃世の抱えている問題が解決したわけじゃない。
妹の杏樹のアドバイスの通り、『グイグイ接する』ということを実践してみた。
具体的な悩みの内容や、その解決のためにオレに出来ることを聞いてみても、璃世は口をつぐむばかりだった。
『悩みが解決した』という考えもあるのかもしれないが、だったら璃世は口をつぐむことはなく、相談することもないのだろうかと思う。
まだ、ハッピーエンドには遠いのだ。
うーん、どうしたもんか──。
「ねーえっ、ハヤテェー?ちゃんと聞いてるぅー?」
「えっ、あっごめん……」
最近、こんなことばかりだ。
璃世のことに集中して、周りの声に気づかないことがある。『妬ましい……』などと璃世に言われなくなってから、また『ハヤテガールズ』に集中できるかと思っていたが、現実は違った。
ハッキリいって、今のオレは璃世に夢中だ。
でも、こうしてオレの近くに集まってきてくれる『ハヤテガールズ』が現にいる。心に揺らぎがある状態ながら、ナアナアと今の今まで接し続けてしまっているんだ。このままじゃ、人の気持ちを弄んで結局はみんなを裏切ることになってしまう。
かなり早急に、『ハヤテガールズ』の行く道を考えなければならないな。




