1話 橋姫ガールとプロローグ
正直、人生ってチョロいなって思った。
望むものは大抵手に入ったからな。顔も学力も、運動神経も、それに環境だって……。文句を付けるところなんて、そんなにない。
順風満帆に、これまでの人生を謳歌してきた。
友達も男女問わず多い。告白だって何度されてきたことか……。しかし、あいにく彼女は作ったことはない。
だって、望んだモノをすべて手に入れられると言っても、本当にすべてを手中に収めてしまったらそれはそれでつまらないじゃんか、うん。
1回、学校で定期テストが行われれば、
「えっ〜!ハヤテ、今回も学年で成績上位じゃ〜ん!!すご〜い!!!」
「ハヤテ君、この問題解けた?……私、分からなかったの。良かったらこの後……」
1回、体育の授業でやってるバスケでシュートを決めれば、
「キャーッ、ハヤテくぅーん!!ハヤテくんがシュート決めたー!!ホント、カッコいいんですけど!?」
「ハ、ハヤ……モテギ君……。3Pシュートだなんて……。いつ見ても、やっぱりスゴイ……」
オレの行動の一挙手一投足に声が上がる。
『キャーッ!?』とオレに対する黄色い声援がアチラコチラに響いている。
決してオレだけが主役じゃない。
それぞれが、自分の『人生』という舞台で輝いている。そこに異論はない。
でも……それでも、そんな中で特別輝く一番星は、このオレなのだ。
──────────
そういえば、この高校に通うこともオレが『望んだこと』の1つだったな。
都立本町高校──。
『都立』とついているように、東京にある公立高校だ。場所は……まあ、スカイツリーがよく見える所だ。
本町駅から徒歩3分のところにあるのが理由か、熱心な進学指導が施されるからか、倍率がメチャクチャ高かったのを覚えてる。よく言われる、『進学校』に分類される。……頭に『自称』は付かないぞ。
受験は成績上位で乗り切った。1番手──、というわけにはいかなかったがそれでも競る位には点数が良かったと、入学したての頃に1年の時の担任が教えてくれた。
1年の時は、だいたい思った通りの学校生活を送ることが出来た。……まー、1つや2つ、3つくらいは叶わなかったこともあるのかもしれないが、今の時点で忘れているということはそんな大したことはなかったんだろう。
でもな、2年になってからがダメだ。問題が発生した。
天はオレに二物も三物も……何物も与えた。だが、何物も与えすぎたせいで、中にあるパンドラの箱には気づかなかったらしい。このパンドラの箱というべきものは、2年になってから授けられてしまった。
そんな箱に納められていて、オレが関わりを持つべきで無かった 奴こそ──、
「ああ、妬ましい……妬ましいの……。颯君には人が集まって人気者で……。頭も良くて、それでいて運動神経も抜群で……。欠点が……欠点がないの……。それに対して──」
橋立璃世──。呪詛を唱えるかのように嫉妬・憎悪を紡ぐ女。その姿は、まるで日本の伝承に現れる『橋姫』を思わせる。苗字に『橋』が入っているのも余計にそう思わせる原因だ。
クラスの女子たちがオレの席から各々の自席へと戻っていく昼休みの終わり際にコイツの独り言がヒドくなる。普通にめんどくさいし、鬱陶しいし、気分が良くない。
……あと、いついかなる時にもこんな独り言を吐いてくるので心が休まる時間がない。
おかげで、こんな風に『自己暗示』する機会が増えたような気がする。
2年に進級してから橋立と同じクラスになったのが初めの不運。
その2か月後の6月に行われた席替えで橋立の隣の席になったことが今年最大の不運だ。
1番後ろの席で、尚且つ窓側。端っこではなかったが、数えて2つ目のところだったため席替えの当初は喜んだものの、2週間後の今になって、喜ぶべきでなかったと痛感している。
こんな隣の席で独り言を言われ続けることは想定してなかった。だって、普通こんなに言ってくる奴がいるなんて思わないじゃん。
思えば、コイツと深く話したのは橋の上だった。
どこまでも『橋』に縁がある奴だ。
席替えをした日の、夕方のことだ。……あの時の会話や態度から、コイツのことを楽観視するべきでなかったんだ。
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