雨とリュック
ある日朝起きるとなにかが足りない気がした。胸にドーナツの形をした穴が浮かんでいた。いやおかしい、前まではこの穴はなにかが入っていてこんな空洞はなかったはずである。思い出そうとしても全くだめだ。このドーナツ型の筒は金属質で所々黒く、ドロドロとしている。そして内側から外側へとうごめいていた。そしてその穴に何かを埋めるとその蠢きをとめることができるようだった。きっちり埋まる何かがあったはずである。いや、穴を詰めるものは今まで本当に存在していたのだろうか?どこかに逃げてしまったのだろうか、それとも今まではあると信じていただけなのかもしれない。しかし私はこの社会に存在している。もし穴の詰め物がこの世に存在してなかったとしても私はこの社会に置いてけぼりになるわけにはいかないのだ。
私はスーツという透明マントをかぶり電車に乗る
そして会社に着くと私は仕事をし、仕事も仲間から透明マントを黒く塗りたくられる。
さて、私の家族の話をしよう。家族と孤独は距離がある言葉であるが、思い出してほしいあなたは家族の中で孤独を感じたことはないだろうか?家族は子供の父親と子供の母親から始まる。そしてその子供は親も子供だったということをいつか認識する。母親はいつ母親になり、父親はいつ父親になるのか。そう要は父親になるまでに父親ポテンシャルを持っておかないといけないのだ。
そう自分に言い聞かせ、ドーナツの穴の中には今後できるはずの家族をいれる代わりに取りあえず、自分を入れてみる。ドーナツの穴に比べていささか小さいが、これが大きくなってドーナツの穴を押し広げ、家族を穴な押し込まなくてもいいように準備しようと決める。
隣人愛は要求されても愛を受ける権利は私にはない
歌が上手くないと歌うことも許されないのだ
そして言語が話せないと海外に行くことも許されない。知識がないと好きな仕事に就けない。どこまでも広い形をしているくせに、行けるのはこの部屋の端から端まで8m、面積21m^2の中が僕の世界である。そして、それが僕がここにいることを形として示すすべてである。
爆発しない爆弾は物質に過ぎない。誰の心にも爆弾が宿っていたとして私達はそれを物質としてみるしかないのだ
一人で修学旅行で行った場所を巡った。しかしそこに僕の居場所はない。きらびやかな中学生高校生は眩しく、現在に生きる自分にとって意味のない木や砂の彫刻を観て何を思うのか。世界遺産の前でホームレスを見かけた。
靴は左右で違い片方はローファー片方はオレンジ色の運動靴を付けている。垣根に捨てられた発泡酒の缶を漁っている。
人はどれほど自分の中で生きていいのか?
彼らには足を縛る鎖がついていない。それを私達は羨ましがるだろうか、もちろんそうしない。なぜなら私達は彼らの足を縛る鎖がないことが原因で、この街を出ることができない事を知っているからだ。距離というのは偉大で非情なものだ。町はどれもすき間なくつながってるわけではない。町と町の間には寂れた道の駅や商店街が必要だし、中流階級の人が住む住宅街も必要だ。しかしそれはホームレスの彼らにとって天敵である。彼らは他人の目が人から個人に行くことを最も恐れている。
この心境は誰もが経験したことあるだろう。どれだけあなたが欠陥品だとしても、砂利の中ではあなたはその一欠片でしかない。しかし、その状況が崩れた瞬間あなたは、他の誰かになりたいと強く望むだろう。
しかし何度も言うが、君は君の頭の中から出ることはできない。
しかし、多くのホームレスがそうであるように、頭の中が世界のすべてだと気づいたら君はそこに世界の果てを見出だし、心地よく生きられるのだ。
顔の半分に大きな赤い痣がある女の子。下を向いて泣いているのか。痣を含めたその子に、かわいい、いや愛してるも違う、なんだろう?その子が彼女自身を好きでいられるような声をかけたい。しかし、もしそれを思い立っても僕はそれを伝えることは出来ないのだ。
その子にとって僕は宿敵なる外部であり、その心さえも貴方の助けにはならないのだ。
僕はそれを求めているのかもしれない。しかし、その言葉を知っているのは僕自身であるはずだ。そのくせ言ってほしい言葉を僕は思いつかないのだ
今までよく頑張ったとか、そういうのじゃないんだ。
期待して欲しくて、でも期待に応えられなかった時の恩人の顔はもうたくさんなのだ。
愛して欲しくて。でも何も返せないことが辛くて。よく頑張ってるよって言って欲しくて、でも頑張らずにスマホを観ていた時間は褒めてくれた人を裏切っていて。
毎日誰かに頼りながら生きて、何も返せず、生きるのに最低限のご飯を食べ、僕は僕のために学校に行き、社会と比べられることを恐れ部屋にこもる。
僕は社会と比べられるとき仮面をかぶる癖をやめるべきなのだろうか
しかし僕にも僕の言い分がある。
僕は誰かになることにした。
そいつはいつもニコニコ笑った仮面をつける。相手の顔色や言葉の節々から相手の中身を伺おうとして、そいつは相手が自分にどんな仮面をつけてほしいかを迷路を解くように尋ねる。仮面の悪口は幾ら言われてもそれは自分ではないと安心して、こちらだけ仮面をつけて相手と接するのだ。
君は正直な僕を社会に見せるべきだという。それは僕のためでもあるというのだ。しかし僕は何としても欠陥でいたくないし、欠陥を認めるわけにはいかないのだ。
お前は自分に正直でいるために四六時中を他人に説明できる時間にしなければならない。そういうものなのだ。君は世間に甘んじることは許されない。そういう性質なんだよ。




