声を聞かせてよ
旅にあまり多くの時間を費やすと、しまいには自分の国で異邦人になってしまう
byデカルト
さー、聞かせて
君の声を
ナイフで開かれた肌から、君の声、君を構成する有機的な感情、君自体が外世界に溢れ、それは糸となった。
君は手から赤黒い糸を指先に垂らしながら、その眼光は外に流れ出た。糸は束になりながら広がり、君の制服を伝って足元へ落ちながら僕との思い出を繋げていく。僕らが座って笑い話をしたフローリング、その板の間を糸は這うように進み、ベットへと繋がり、僕がプレゼントしたネックレスの入った戸棚と繋がった。その糸は僕にさえ絡みついてくれた。
君はこの居場所がほんとに好きだったんだね。
アラームが鳴っている.僕は重い目をあけた。温かい涙が頬を伝っていた。また同じ夢だ。まだ僕は君のことが好きなようだ。
そして、椅子に座ったままこっちを見上げる顔を思い出し僕はまた君に恋に落ちる。
ノロノロと立ち上がり、特にこだわりのない服を着て、寝癖のついたまま家を出た。
桜は満開を迎え、その花はより朝を白く清潔に染め上げる。大学が始まって2週目である。大学のメインストリートには部活やサークルの看板があり、その近くで部活動の勧誘がされている。
僕は何を見ても心を引きつけられなかった。どれを選んでも君のいない場所に意味はない。
他の同学年の人たちは何かのコミュニティに属することに必死であり、自分もそうするべきだとはわかっていた。しかし、何をやろうにもそれらの行動全てに意味がないのだ。ここに君がいたならそれは全て鮮やかだっただろう。
僕は君の優しさに、声に、甘くてカリッとしたリンゴのような心に触れたかった。
大学1年生はこの2週目から本格的に授業が始まる。
ノロノロと教室に行くと、教室の前の2列しか空いた席がなかった。僕は2列目の席に座った。剥げた黄色のシャツをきたおじさんが教壇に立ち、
ダラダラと授業をし始めた。
僕は先生が目の前をいったりきたりしているのを何も考えず目で追っていた。
僕は何を求めてここに来たのか。欲しかったのはこれではない。僕は記憶をたどり、座標を変換して君の青と重ねる。時間の断面を蠢いている楕円の進む方向を探っている。裏返してもとに戻して座標をこねくりまわすとどこかで見た心のザラザラが見えてくる。これが何でここにあるのか
ガタガタッ
ハッと頭がピリッとしてつまらない具体の世界に引き戻された。
周りには授業が終わってリュックを背負っている人が出口に向かっているのが見えた。