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クラスメートの穂乃香ちゃん

 ここは久瀬原中学校。1、2年生は1クラス、3年生は2クラスしかない小さな公立の中学校だ。もう一度言う。小さな中学校だ。そんな学校には、個性豊か……。というか、癖が強すぎる生徒たちが集まっている。

 チラチラと視界に押し入ってくる触覚に、私は辟易としていた。久瀬原中学校1年1組の教室は、肌寒い風が吹き込んでいる。今何月だと思ってんだよ。12月だぞ。貧乏校が。それもまた、私をイラつかせる立派な材料となった。

 自己紹介が遅れました。私は森未来です。今現在1番嫌いなものは触覚。あと、風。それ以外は特にありません。自己紹介苦手なんだよな……。

 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく私は今ムカついている。原因は右斜め前に座っている、種村穂乃香という女。名は体を表す。種村という名字の通り、私の苛立ちの種だ。鎖骨辺りまでのばしている触覚が特徴の、クソぶりっ子女である。そういえば、このこととはあまり関係ないが、ぶりっ子は死語らしい。これだけでは情報量が足りないな。私が変わりに自己紹介して見せよう。想像で。

『みんな、こんにちは!私の名前は種村穂乃香。青春をエンジョイしてる中学1年生!みんなから天然って言われちゃうけど全然天然じゃないもん!ほのっちょって呼んでね!』

お分かり頂けただろうか。このような、自称キラキラ陽キャ女子なのだ。アヤツ、授業中だと言うのにまた触覚をいじっている。かく言う私も、授業中だと言うのに阿呆らしいことばかり考えている。


 授業中のただただ低いテンションから一転、私は、今にでも踊りだしたい気分だった。時刻は19時。もうすっかり日が沈んでいる。しかし私の心は浮きだっている。久しぶりになる姉と電話ができるのだ。なる姉こと篠谷なるは、私の従姉妹だ。18歳で、今年上京して東京の大学に通っている。何でも話せて、かっこいい。私が最も尊敬している人だ。なる姉と色々話をするうちに、学校の話になり、私はあの触覚女への愚痴を繰り広げた。プリント回収のときに提出が遅れた際、「天然が出ちゃったぁ〜」とか言って悪びれることなくぐちゃぐちゃになったプリントを押し付けてきたこと、班会のときに意見ひとっつも出さずに仕切るだけ仕切ったあと、ギリギリになって丸投げにしてきたことなどなど。それをひと通り聞き終えたなる姉は言った。「それ、本人に言ってみてもいいんじゃないかな。もちろん、もっと柔らかい感じで。真剣に何が嫌か話したら、きっと伝わると思うよ」

確かに、そうかもしれない。なる姉の言葉は、いつだってスッと入ってくる。ちょっとだけ、明日話してみようかなと思った。


 そして、翌日。事件は起こった。例の触覚女が、インスタクラムにこんな投稿をしたのだ。

『どうせみんなうちのこと嫌いながやろ』

朝、眠たくて半分閉じていた目も、爆睡していたであろう頭も一気に起こされる。これは……ない。起きた瞬間に感じたのは、穂乃香に対する今までで1番の怒りだった。


 急いで登校し、教室に入ると、そこにはまだ穂乃香しかいなかった。ちょうどいい。ゆっくり話ができる。おはよう、と声かけると、しばらくの沈黙の後、おはよう、と小さく返ってきた。それを見た私は、胸の中にもやっとするものを感じた。いつもの、語尾をのばした馬鹿ウザい返事の方がまだマシだ。ぶちっ、という音を、人生で初めて聞いた気がする。気がつくと、私は穂乃香が座っている前に立ち、机を思いっきりぶっ叩いていた。バンッと大きな音が、静かな教室、廊下に響く。

「なんなんだよ。昨日の。馬鹿なんじゃねえの。どういうつもりだよ!」

出したこともないような低い声で問い詰める。

「だって!みんなうちのことウザいって言うんだもん!うちは嫌われてるんだよ!未来もどうせ、うちのこと嫌いなんでしょ!?ウザいんでしょ!?」

後半はほぼ超音波。ヒステリックに叫ぶ穂乃香にを、私は更に苛立った。

「ウザいよ!そりゃ!逆にウザくないヤツとかいねーだろ!誰からも嫌われてないヤツとかいねーだろ!あんたもウザいよ!たまに!てもそれはみんな一緒じゃん!というか私が言いたいのはそれじゃねぇよ!あんたのこと大切に思ってる人に、あんたのこと大好きな人に失礼すぎんだよ!謝れ!詫びろ!詫びて訂正しろ!」

ひと息に言ったから、さすがに息が切れる。そんな私を見る穂乃香の目には、いつのまにか涙が溜まっていた。 不意に思う。つい昨日まで嫌い嫌い言って愚痴りまくってたヤツが言えることなのか?そんな考えは、穂乃香のか細い「ありがとう」に打ち消された。こっちこそ、と小さく返し、何がこっちこそなのかも分からないまま、席につく。なる姉の言う通り。真剣さって大切なのかもしれない。


 翌日、穂乃香はいつものぶりっ子を勃発していた。昨日、あの後はまだ静かだったから、もうやめたものだと思っていたので、ひどく驚いた。この態度は相変わらずムカつくが、ちょっと、ほんのちょっとだけマシに思えた。本当にちょっとだけど。でも、これからも仲良くはしていきたい、ということにしておこう。

読んでいただき、ありがとうございました。

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