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密会


 午前中の授業が終わり、学生にとってつかの間の休息の時。ひとり静かに本を読む少女に、少年が声をかけた。


「なあ、一樹(かずき)って、可愛いよな」

「……いきなりだね。どうしたの、急に」


 読んでいた本から顔をあげ、困惑した表情を隠そうともしない。

 昼休みだからなのか、人口は少なく、残りの者も担任と男子生徒が行っている絵しりとりの野次馬と化している。自分たちの会話を聞く者はいない。少女は、表情を困惑から苦笑いへと変えた。


「前も思ったけど、やっぱり一樹のこと好きだよね、みやもっさん」

「みやもっさんって何だよ…。当たり前だろ?あいつ可愛いじゃん」

「んー、まあ、そういうことじゃなくてね、」


 少年――宮本の肯定の言葉に、少女は肯定を返す…が、どこか言いにくそうな表情をしている。そして、一つ息を吸った彼女は、宮本の心の奥深くにある箱をこじ開ける。


「友情とか、私が言いたいのはそういうことじゃなくてさ…。みやもっさんが一樹に向けてるソレは、恋愛感情でしょってこと」

「…………は?」


 宮本の表情が抜け落ちた。しかし、それは一瞬のこと。前にもされたような質問に、無理矢理心を落ち着ける…ことは、できなかった。


「い、やいや、何言ってんだよ。あいつと俺は、友達だ。それに、あいつ彼女いるし…。あいつに向けてる感情は、LoveじゃなくてLike!」

「この前、自分で『俺、好きにLikeとかないから』キリッ!って言ってたじゃん」

「う’’っ…いや、キリッとは言ってねえよ」

「まあまあ、細かいことは置いといて。……その”彼女”が言ってるんだよ。ていうか、私にあんな目向けといて、よくそんなこと言えるよね?それ」


 取り繕ったように言葉を紡ぐ宮本に、ジト目で逃げ道をふさぐ少女。どちらが有利かなんて、分かりきっている。案の定、宮本はすぐに白旗をあげた。ため息の後、降参を示すように両手を上に挙げて再び話しだした。


「何で分かんだよ…」

「女のカンってやつですよ、兄貴」

「まじかー…なんかめっちゃうぜえ」

「うざくしてるからね」


 よっぽどその言葉が面白いのか機嫌よさそうに笑う少女と、どこまでも我が道を行く彼女に頭を抱える宮本。カオスである。しばらく笑い声が控えめに響いた後、深呼吸をした少女は思い出したように話し出した。


「あ、そうそう。実は、そのことで話しておきたいことがあったんだよね」


 緩みかけていた空気が、一瞬にして引き締まる。傍から見れば異様な光景を作り出した少女は、何も知らぬような無垢な笑みを浮かべていた。

 あきらめろ。そう言われてしまうのか。半ば無意識に奥歯を噛みしめた宮本だが、続いた言葉に別の意味で奥歯を強く嚙んだ。


「まあ、分かってると思うけど、みやもっさんのこと、一樹は友人としか思ってないみたいだから。何もしないならアレだけど…オトす気があるなら頑張ってね?応援してるよ」

「…………ッはぁ!?」


 ぎょっとして目を見開く。冗談を言っているようには見えないが、冗談であってほしい内容である。


「う、浮気じゃねえの、それ」

「いやまあ、うん、ぶっちゃけ言うとっていうか、周りから見たら普通に浮気だよね。でもまあ、私が言ってるし。私、自分で言うことでもないけど頭おかしいし。実は、一樹にも『男との浮気は許す』って言ってあるのよね。それに…あー、なんでもない。まあね、つまりそういうことですよ」

「どういうことだよ…」


 宮本にはなんのこっちゃだったが、目の前の人物は満足そうな表情だ。


「でも、嬉しくない?好きな人を自分のものにできる可能性があるんだよ?」

「…そりゃ、嬉しいだろ。でもよ…」


 お前に悪いだろ。その言葉は、表情として表れたが、音としては出てこなかった。代わりに、宮本の口からは深い深いため息が出た。


「…お前がそう言うんだったら、遠慮なく頑張らせてもらうわ。…なんかアドバイスとかあるか?」

「ん-、特にないね。地道にアピールするしかないんじゃない?まあ、一樹の方も意味は違えどみゃもっさんのこと大好きだし、なんとかなる!……と、思っとけ。ネバギバやでネバギバ!」


 ねばーぎぶあっぷ!とサムズアップしながら雑なことを言う少女に毒気が抜けた宮本は、つられるようにして笑う。

 偶然ではあるが指し示したように二人が話題の中心の人物を見ると、担任と行っていた絵しりとりが盛り上がっているようで、楽しそうな声が聞こえてくる。それを見た二人は顔を見合わせて笑いあった。

 よし!と声を上げて少女は立ち上がる。


「じゃ、私一樹んとこ行って野次馬してくるわ。めっちゃ楽しそう。みやもっさんは?どうする?」

「あー、俺はいいや。今行ったら、変なこと口走りそう…」

「あはは、そっかぁ。…まあ、悩みたいだけ悩んどけよ、少年。人生案外どうにかなるもんよ」


 そんじゃねー。手を振り少女はその場を去った。昼休みが終わるまで頭を抱えていた宮本の頭の中には、少女の言葉が永遠と反芻していたという。

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