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奈良の休日

作者: Totty

ローマの休日のパロディ


 

西園寺雅美は、初めての一人旅に奈良を選んだ。普段欧州に両親や姉との旅行が主で、ましてやコロナ禍で海外など行くことすらできなかったからである。西園寺家。鎌倉では名もしれた名家である。資産は数兆円。祖先に西園寺公望公を持ち、広大な実家は、母屋を含む広大な敷地の中に雅美の両親の住む三階建の自宅。江戸時代の調度品、磁器漆器など蔵を改造して一般に公開した蔵などがあり、女子大生憧れの地になっている。

そうした中、やっと一人旅できる年齢になったと言うのにコロナ。

さて、緊急事態宣言もやっと終わり、海外は諦め、さてどこへ行こう思った時に心にフッと浮かんだ場所が、奈良。行ったことがなかった。

修学旅行もほぼ海外だったから。

奈良といえば鹿と大仏。

いいんじゃない、と思った。

サンピエトロとかサクラダファミリアとか、見飽きてるし。


さて、奈良。JR奈良から、人の流れについていく。コロナ禍なので外人はいない。静かでいいんじゃない、ハンサムな外人なんてもう見たくはないわ。

さて浮いたところが猿沢池。


奈良の休日 続き

なにこの池、柵がないじゃない、危ないわ。

と思った途端、車止めの石に蹴つまずきドボンと池へ。

池時代は浅く、立てるぐらい。

どうしよう、嫌どうしてくれるの奈良市、柵ぐらい作りなさいよ。

グッチの鞄が、セリーヌの靴が、ティファニーの時計が、ブルガリの洋服が、全部で500万よ、どうしてくれるの、

とまず心の中で湧いたのがそれである。

ふと我に帰ると、観光客が集まり、中に腹を抱えて笑う輩もいる。

ああどうしよう、着替えもないのに、


お嬢さん、さあ、手を掴んで

と、声が聞こえた。声の先に、ハンサムな青年

ではなく、紺の作務衣を着て、托鉢したらしく、寺の見習い僧らしい若者。

あ、ありがとう、と雅美


とりあえず妹が近くに住んでいるので、そこで着替えませんか、僕は近くで待ったますので

関西弁が優しい。

す、すいません

お願いします。


もはやハイブランドの洋服も亀の糞にまみれた泥水では、何の価値もなく、泣きそうな顔を必死に抑え、彼の原付の後ろに乗って、若僧侶の背中にしがみつくこと約10分。事前に、連絡をしていたのであろう、妹さんはマンションの玄関先に出ていた。


お待ちしてました。たんへんでしたね。


まずはバスタオルでお身体拭いて


そのあとは、妹さんのマンションの一室で、とりあえず妹さんの洋服借りて、靴はサンダル、財布はグッチの鞄のおかげで大丈夫。携帯は防水。

携帯で大阪の支社の支店長へ連絡。

部下を1時間半後に到着とのこと。


ありがとうを十何回言ったことやら。

妹さんは、水に濡れた洋服を絞ってビニル袋へ入れ、ノースフェイスのバックに入れて渡してくれた。

このバッグ処分してもらっていいから、取ってください


こんなに親切にしてもらったことってあったっけ、

私の人生、困ったことなかったわ。災難すらあったことなかったもの。


外に出ると、お兄さんが作務衣を着たまま待っていてくれた。

お迎えが来るまでこのあたり案内します。


ええ?いいんですか。甘えちゃって。

後で、お礼をいっぱいさせていただきます。


お礼、結構ですよ。私はまだまだ仏様への見習い僧、これも修行だと思っています。


あ、ありがとう。


若僧は再びバイクに雅美を載せて、東大寺へ。

ここ東大寺です。

その前に鹿せんべいを鹿にやってみませんか?


鹿煎餅?


やってみよー

雅美は煎餅を一枚目の前にいる鹿にやろうとすると

お辞儀するではないか


なにこの鹿お辞儀してる!

思わず声を出す


あ、お辞儀するんですよ。

奈良公園の鹿は長年人間と暮らしているので、人間のお辞儀の習慣が身についているんです。


そうこうしている間に鹿がたくさん集まってくる。しかも全部がお辞儀しているのである。


あ、煎餅なくなっちゃった


しかし、それでも鹿が寄ってくる。


やだー

思わず声を上げる雅美。


そんな時は両手をあげるんです。こんなふうに、若僧はギブアップのように両手を上げた。


ギブアップのジェスチャーをすると鹿達は諦めたかのように去っていった。


この辺り臭いわねー。


東大門のあたり鹿が固まっている。そこそこにチョコボールのような糞が落ちている。


あらやだー


踏まないでくださいね。雨の日など最悪です。


さて、大仏殿内部である。


大きいわねやっぱり。社会の教科書のグラビアでよく見たわ。

でも不細工だわ。頭が大きすぎる。しかも何この、パンチパーマみたいな頭のぷつぷつ。眉間に大きなホクロがあるし。


そのホクロ実は、ホクロじゃなくて、毛なんです。

と若僧が答える。


毛って見えないけど


でしょうね。悟りを開いた者が生えると言う眉間の毛、それをくるくると巻いたものか、ホクロに見えるんです。


なるほど、ずっとホクロと思っていた。教科書で見た時から。


大仏の隣に金ピカの衣装に身を包んだ女性らしき像が


虚空蔵菩薩ですね。木造で、金箔で覆われています。大仏の向かって右には、似たような菩薩如意輪観音が座っておられます。両者とも悟り半ば修行半ばの身。なので、現世に未だいらっしゃるので豪華衣装を身につけて、悟られましたら、衣服の豪華さなど意味をなさないので、中央の仏様のようなシンプルな衣装となっています。

例えればブランドの洋服を着ていらっしゃるのが観音様….


と言いかけて、若僧はしまったと思った。

この女性、そういえば、ハイブランドの洋服を着ていたな。


雅美も、ありゃ私じゃない、まるで。

私なんか道半ばというより、世間知らずも甚だしい。ブランドと海外旅行、海外のナイスガイばかり追い求めて、その都度、金の切れ目が縁の切れ目。私なんか、観音様の足元にも及ばない。


この奥に、大仏の鼻くぐりという名所があるんです。とにかく大仏殿の厳かな雰囲気ではなく、ちょっとしたアトラクションですかね。

とにかく行ってみましょう。


ちょうど大仏さまの背後、裏に巨大な守護天王が悪魔を踏んづけて立っているのだが、四番目、多聞天像の近くにある柱の下にある穴をくぐろうとする人で列ができている。


やってみませんか。くぐれたら願い事が叶うと言われています。穴の大きさが大仏の鼻の大きさと同じと言われています。


若僧はそういうと、列に並び、その後に雅美も続いた。


さあやってみますよ。


彼は早速スッと穴に頭から入り、スッと出てくると思った。が、なんか違う。もがいている。出られないらしい。


雅美が反対側に回ると、真っ赤な顔になった若僧が苦しげに。


ダメだ、通り抜けできない。どうしよう。挟まってるみたいです。身体が。


えー、大変。どうしよう。


雅美が慌てていると、スッと穴から楽勝に通り抜けているではないか。


えー!騙したの。ひどい。


ちょっと半泣きになりそう、でも笑いが止まらなかった。


こんなに笑ったことないわ。


じゃあ今度はあなたの番です。


大仏の鼻くぐりで、雅美も試みたが、スレンダーの彼女に取っては、何の支障もなく、向こう側にたどり着く。両腕を取って引っ張り出してくれのは、若僧だった。笑顔が素敵と思った。


じゃあそろそろお迎えの車が来る頃じゃないですか。そこまでおくりましょう。


LINEでは、まもなく到着とのこと。

若僧は、バイクに雅美を乗せて、近鉄奈良駅に近くで止まった。


ほんとに楽しかったです。あの、よろしければどちらのお寺でしょうか。お名前を教えていただけたら、日を改めまして御礼に行きます。


あ、御礼なら結構です。

私は、日照寺で、修行の身の上、武田と申します。

では、お元気で。


と、僧侶はさわやかに頭を下げるとその場を去った、と、ほぼ同時に会社のアルファードが止まり。


お嬢様、お乗りくださいと、支社長。


後日、日照寺に電話を入れ武田という僧侶の所在を確認したところ、そのような人物はいないとの事。さらに妹さんの住所をGoogle mapで確認し、マンションの管理人に電話で聞いたところ、そのような女性は住んでいないとの事。


爽やかな若い僧侶の横顔は未だに目を閉じれば浮かぶ。恋?観音様?

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