贖罪の宝玉
「すごいな…どこで手に入れた?」
隙間風の吹くルーベンスの部屋。
その中に置かれた雑貨袋から取り出した『それ』にアンナは驚く。
拳くらいの大きさの宝石がはめられたブローチ。
金色の装飾には複雑な模様が刻まれ、非常に高価な物だと素人目でもわかる。
『竜玉のブローチ』
アルトロが勇者時代に探索した古代神殿の奥地で発見した宝玉をブローチにしたもの。
太陽にかざせば虹色に輝く性質があり、婚約者であるクランに贈られた。
高級官僚の年収よりも価値があり、国外追放に対するせめてもの贖罪なのか追放時に彼女から手渡された。
「国を追われるときに孫娘から渡されたのじゃ。路銀の足しにとな」
「そうか、こんな高価な物を渡すことが出来るあたり、相当な孫娘だな」
「とりあえず、これを商人に売った金で冒険者を雇えば解決じゃろ?余った金は村の発展に回せばよい」
「それは…どうだろうな」
ルーベンスの提案に難色を示す。
「これだけの宝玉なら確かに莫大な金が手に入る。だがそうなれば金の匂いを嗅ぎつけた賊徒が村を襲撃してくる可能性が出てきてしまう。それに商人とはいえ、辺境に大金を運ぶような危険なことはしないからな。分割払いで少しずつ…という形なら可能だが…
いや待てよ?金銭ではなく物々交換、例えば食料や建材、道具類と交換という形なら賊徒に襲われるリスクは一気に減らせるな」
あれこれと思案しながら、最善の手を考える。
すると部屋の扉が開き、獣人の男であるデュオが入ってくる。
アンナ曰く、人狼族の男でありこの街が金鉱で栄えていた時代に労働者として雇われていたらしい。
「デュオか、どうした?」
「また難民がきた。五人の家族連れだ」