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交戦

――――――カンカンカン


――――――カンカンカン


 異変を知らせる鐘の音が耕作地の方からけたたましく響き渡る。

「この鳴らし方はモンスターだ。ルーレイス、お前は集会所で仕事を続けろ。あそこが一番安全だ」

 それだけを言うと、アンナは彼を顧みることなく一目散に駆け出してゆく。


「モンスターが出たぞ―――!」

「武器をとれ―――!」

  アンナが耕作地に駆け付ければ、そこには剣や槍など、それぞれの得物を手に戦闘態勢に入ったダンをはじめとする男衆の姿。

 武器自体はアンナが傭兵だった時代に使用していた物の使いまわしではあるが、それでも村の防衛程度ならば問題はない。

「魔物の種類は?」

「はぐれゴブリンです、数は五体」

 獣人の男が見張り台から応える。


『はぐれゴブリン』

 過剰に繁殖した結果、住処を追われたゴブリン。

 基本は二、三体。多くても七、八体前後の数で行動し、作物や家畜などを喰らって飢えを満たす。

 大抵の場合は人々が寝静まる夜に現れるが、極度に飢えていた場合は昼夜問わずに襲い掛かってくる。

 装備さえ揃っていれば新人冒険者パーティでも撃破は可能である。


「よし、ダンはアタシについて来い。それ以外の者は食料庫を守れ」

 慣れた様子で指示を出すと、アンナは戦斧を持ったダンと一緒に門へと向かう。

 

 ドンドンドンとゴブリンたちがこん棒で(かんぬき)の掛かった門を殴りつける中、アンナがその前に立って剣を引き抜く。

「開けてくれ」

「おう」

 ダンが閂を外すと、途端に扉が開いてゴブリンたちが突入する。

 緑色の醜い顔の五体のゴブリン。

 うち一体が目の前のアンナにかざしたこん棒を振り下ろそうとするが、彼女の放った斬撃によって首を飛ばされる。

「ギャ!?」

 短い断末魔。

 続いてダンが戦斧を振り下ろすとさらに一体のゴブリンが見事に真っ二つになる。

 交戦開始から十秒足らずで五分の二体が屍と化した。

 これがただの賊ならばすでに戦意が消えているだろう。

 しかし相手は飢えに飢えたゴブリン。

 哀れな彼らには帰るべき巣はなく、村に備蓄されている食料を喰らう以外に今を生きる術はない。

「グギャァァ!」

 小さな体ながらも全身でこん棒を振りかざし、目の前の女の頭をかち割らんと三体が一斉に飛び掛かる。

「あまい!」

 バックステップで攻撃をかわすと、攻撃直後の隙だらけのゴブリン目掛けてそのまま前進。

 一回転しながら斬撃を放ち、ゴブリン三体の首をこん棒を持った右手ごと一気に切り離す。

 飛ばされた首が地面に落ちると同時に胴体がぱたりと小さな音を立てて倒れる。

「みんな、無事か?」

 剣を鞘に収めて周囲を確認。

 他の脅威がないことを認識するとアンナはダンたちと死体の処理を手早く済ませて集会所へと向かう。

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