農作業
一家が越してきてから翌日、早速アーディル達は耕作地での農作業を行う。
金鉱の街として栄えていたのは昔の事で今は生活を維持するのが精いっぱいだと伝えられた時は困惑していた一家だったが、商人の取引や今後の農地拡張計画を話して何とか安心してもらった。
「『ここにはこの種を植えてくれ。植える間隔は―――』
ルーベンスが一家の通訳として同行しながら、ここでの仕事のやり方を丁寧に指導する。
耕したばかりの畑にぎこちない手つきで一通り種をまき終えると、今度はカマルを連れて大きな貯水槽に向かう。
農業用の大きな二つの貯水槽。
普段は川から汲んだ水や雨水を貯めているが、遠くの川へ汲みに行くために時間と人手を割いているのが現状である。
「『この貯水槽に水を入れてくれ』」
「『わかりました』」
ルーベンスの指示に頷くと、カマルは貯水槽に付いた梯子に上り、貯水槽のふたを開けて底を指さす。
「#')&&)==|=&'#!―――」
魔法言語を口にしながら詠唱を行うと貯水槽の底が淡く光りだし、複雑な模様の魔法陣が発現。
大量の水が滔々とわき出す。
「すごいな、これが彼女の力か」
大きな二つの貯水槽から溢れだす真水をみてアンナをはじめとする村人が感嘆の声を上げる中、ルーベンスは疑念の表情で彼女を見つめる。
「浮かない表情だな、どうした?」
ルーベンスの様子にダンが心配そうに話しかける。
「うむ、彼女たちはサーディン王国から来た難民というわけじゃが、かの国は砂漠に囲まれた国で水資源に乏しいのじゃ。
そんな環境で大量の水を生み出せる魔法は千金の値打ちがある。王宮直属の魔導士としての登用も十二分あり得るのじゃ」
「そうなのか…そう考えるとその地位を捨ててまでここへ来るのは不自然だな。」
「かの国でなにかが起きているのかもしれぬな」
腕を組みながら、渋い顔で勘案する。
「そうはいっても遠国の話だろ?この村にはあまり関係ないんじゃないか?」
「直接は関係ないのう」
「なんか意味深だな。まあ、俺には政治とか難しいことはわからねぇや」
そう言って鍬をもって残りの畑を耕し始める。
ザックザックと心地よい音を奏でながら、元傭兵らしい力強さで鍬を振り下ろす。
「おーい、こっちにも種を植えてくれ!」
ダンが手を振りながら大きな声で呼びかけると、種袋を持った村人たちが駆け付けて作業を行う。
アンナ曰く、傭兵団時代はその力と戦斧で敵を打ち倒したダン。
その力強い戦いぶりと倒した敵の様子から両断のダンと同業者たちに畏れられていたという。
しかしながら、村人たちと談笑しながら作業を行う姿からはそんな物騒な過去を想像できない。
「おーい、ルーレイス。ボーとしていないで作業を手伝え!」
「おお、すまんすまん」




