一章
週の折り返しをすぎた、とある木曜日のこと。今日は朝から抜けるような青空が広がっていた。
今は南からの停滞前線が肌寒い五月雨を降らせる六月の半ばで、実に三日振りの晴天である。
吹き抜ける風に雨の気配はなく、空に浮かぶ雲は綿毛のように白くてふんわりとしている。降り注ぐ陽光にも初夏の爽やかさがあり、文句なしの快適な一日……のはずだったのだが。
「――ってことを聞いちゃったわけなのよぅ。もう怖くて怖くて、授業どころじゃなかったんだからぁ」
そう言うや否や、結衣は頭頂部で結わえた黒髪を振り乱しながら傍らにある若草色のブレザーの肩口に抱きついた。
場所は校舎とグラウンドの間に広がる芝生の中庭。四時間目の授業を終え、朝から続く快晴のもと、親友と昼食を満喫しようとしていた矢先のことだった。
「へーそう。それは災難だったわねーかわいそー」
「……なんかあからさまに棒読みな気がするんだけど」
泣きついてものの数秒後。ふとかけられた言葉に結衣は思わず顔を上げてそう言った。
慰めの言葉をかけてくれたのはたった今結衣が泣きついた相手である親友の少女なのだが、言い方がぞんざいな気がしてならない。
こっちは本気で訴えているというのに、この対応は親友としてあまりにも薄情ではないか。そう思って結衣が抗議してみると。
「それでも慰めてることには変わりないでしょ。さ、話が済んだら早く退いて。わたし今すっっごいおなかすいてんの」
気のせいじゃない? と取り繕うわけでもなく、それどころかさらりと本音を零した。にべもない態度に結衣は愕然として親友を見る。
「ひどい! それが中学校来からの大親友にかける言葉なの!? さとの薄情者ーっ」
そんな言い方あんまりじゃない、と周りのことも気にせずに叫ぶと、さと――夏木聡恵から返されたのは盛大な嘆息と「薄情で結構」という一言だった。
「だってもう四年よ? あんたのそれに付き合うの。正直言って面倒なの」
「面倒って」
オブラートに包むわけでもなく、淡い栗色のベリーショートの下に覗く細い首筋に手を当ててどストレートに言う。その言葉に結衣は雷に打たれた気分だった。
確かに出会ってから三年、いや四年目に突入し、何度となくこんな泣き言を愚痴ったことはある。しかしそれは心から彼女を慕っているからであり、絶対的な信頼を寄せているからして。
なのに面倒って……。
「そんなのひどすぎる!」
そう嘆くや否や、結衣は今度は純白のプリーツスカートに泣き崩れた。
そんな冷たい女だったなんて、とその張本人の膝に突っ伏しながらいうと、聡恵は二度目の溜め息を漏らす。高校一年生にもなって人の膝の上でわんわんと大泣きする親友を見やり、呆れかえっている。
そもそも、何故結衣がこんな状況に陥っているのかというと、話は三時間目と四時間目の休み時間にまで遡る。
それは結衣が次の授業の準備をしていた時のこと。
「ねぇ、聞いた?」
ふと結衣の耳にそんな声が届いた。
発生源は自分の席から左へ二列、前に三つほど進んだところにある席に座る女子生徒で、彼女は自分の前の席に座っている女子生徒に話しかけていた。
結衣のところからそこまではだいぶ距離があり、おまけに休み時間で雑談する生徒達で賑わっている。にも拘わらず、不思議とその会話は鮮明に耳に入ってきた。
何故だろうかと思いながらもそのまま耳を傾けていると、その内容が今巷を騒がせているある事件についてのものだというのが分かった。
そのある事件というのは、現在起きている失踪事件に関するもの。
事件が起きたのは今から一週間前の水曜日。被害者は同じ町内に建つ公立校の二年生の女子生徒で、部活帰りの帰路で忽然と姿を消した。しかしその日はちょうど入梅の情報が発表され、生憎の雨模様。そのため目撃者がおらず、翌日から警察が聞き込みや捜索活動をしているのだが、少女はまだ見つけられずにいる。
そしてその一人目から間をおかずして今度は女子中学生が行方不明になった。こちらも雨の降る夕刻時。同じくその場所に通行人はいなかった。
警察は誘拐失踪両方の可能性を視野に入れ捜索しているが、なんの手がかりもない。非常に難解な事件である。が、結衣が怖がっているのは事件そのものではない。
結衣を震え上がらせているのは、その事件にまつわるある噂話の方。その噂とは何かというと。
「犯人はあの廃洋館の魔物の亡霊だっていうやつでしょ? それなら知ってるわよ」
そう、犯人は人間ではなく亡霊。しかも廃洋館に住み着いていた魔物の、だという。
にわかには信じ難い話ではあるのだが、これには裏付けられるだけの逸話がある。
先程聡恵が何気なく放った『あの廃洋館』。それは町の中心から外れた山の上にひっそりと建つ古い西洋館のことで、珍しい木造の洋館だ。開港後に建てられたとかで百年以上は経つ、かなり年季の入った代物である。
その洋館には昔から語り継がれている話があった。
「――その洋館に住んでいたのは、夜な夜な人をさらっては生き血を求める不死身の人間だったっていう話だよな」
がたがたと震えていた結衣の耳にそんな恐ろしい言葉が入ってきた。声のした方を見れば、そこには一人の男子生徒が立っている。
少年らしい短髪を掻きながら近寄ってくるその顔は、良く見知った顔。
「り、りゅう!」
「まーた夏木に迷惑かけて」
お前も飽きないな、と呆れた息を吐きながら結衣の後ろに立った男子生徒は名前を水沢龍夜といい、結衣の幼馴染みだ。
家が隣同士で、幼稚園の頃からずっと一緒。もはや腐れ縁と呼べる間柄の存在である。その龍夜が、心底情けなさそうに結衣を見下ろしている。
「教室にいないからもしかしてと思ったら。毎度毎度、お前も良く泣きつくよな」
「だ、だってぇ、いやな話聞いちゃったんだもん……」
「逆にその噂を知らない人なんていないんじゃないの? あの洋館が心霊スポットとして有名なのは昔からじゃない」
「良く聞くのが、白いワンピースを着た女の霊が出るって話だよな」
何食わぬ顔で聡恵も言う。未だに膝にしがみついていた結衣はまん丸に目を見開いてからその顔を見上げた。
「知っててそんな平然としてられるの!? 頭大丈夫!?」
どっかおかしいんじゃ、とつい本音が出てしまい、次の瞬間、結衣の額に衝撃が走った。もちろん、結衣の額にデコピンを食らわせたのは聡恵だ。
ぱちぱちと瞬けば、弾いた仕草のままで聡恵が結衣を見下ろしている。その双眸は呆れを通り越し、もはや半目に据わっていた。
あ、まずい。
そう思った時にはもう、雷雲はそこまできていた。
「わたしがおかしいんじゃなくて、あんたが人一倍怖がりなだけでしょーがっ」
引き気味だった結衣の頭をがしりと掴み、我慢が限界を超えたらしい聡恵が頭ごなしに叱りつける。どうやら空腹も相成り相当機嫌が悪いようだ。
そんな肉食獣のような親友の一喝に結衣は肩を震わせた。
目の前でキシャーッ、と肩を怒らせる聡恵に怖気づきながらも、結衣は何とか言い返す。
「そんなこと言われても、怖いものは怖いんだもん……」
ほぼ消え入りそうなほどの声量で、眦には再びうっすらと涙をにじませながら言う。いつの間にか側で弁当を広げていた龍夜もほとほと呆れた様子で結衣を見ている。
「本当、つくづくお前も面倒な性格してるよな。――視えるくせに超ド級の怖がりだなんて、あり得ないだろ?」
そう。実は結衣は幽霊が視える霊感体質なのだ。それもかなり強い方だと言える。
そのせいか、幼い頃からいろんなモノが視えていた。良いものも悪いものも、全てが日常生活の中で普通に視えるから他の人には視えていないとは思っていなかった。
「し、仕方ないでしょ! 物心ついた時にはもう普通に視えてたんだもん。トラウマになるよっ」
「でも、普通見慣れるもんじゃねぇのか?」
ご飯を口に頬張りながら龍夜が首を傾げる。結衣達もようやく包みを開いてから昼食に箸をのばした。卵焼きを口に放り込み、結衣は不満げに言う。
「まだね、普通に人の姿をしているのはなんとか大丈夫よ? でもそんなのって逆に少ないんだから」
血まみれだったり身体の一部がなかったり、既に人の原型を留めていないもの。人ですらないものも稀にいたりする。
「そんなのに話しかけられるわ追いかけられるわ、挙げ句の果てには憑依されたりしたらそりゃあ怖くてしょうがないでしょ」
それが原因で結衣は自他共に認める超ド級の怖がりになった。呆れられても責められても、これは結衣のせいではない。
「本当、幽霊が平気だって言う人の言葉が信じらんない。あんなの見たら絶対泣き叫ぶ、命懸けても良い」
「胸張っていうことかよ、情けねぇ」
異様に力説する結衣を呆れた眼差しで見やりながら龍夜が嘆息した。皮肉げに言う幼馴染みにむっとして脇に肘を入れてやれば、見事にハマりげほげほとむせる。結衣はぷいっとそっぽを向く。
そんな子供染みたやりとりをしている二人を、聡恵は呆れかえった眼差しで黙って見ていた。
「でも、今回の事件って明らかにソッチ系っぽいじゃない。警察の捜査でもまったく手がかりが掴めてないってところが信憑性あるし」
先に食べ終わった聡恵が弁当箱を片付けながら言う。
「それに昔、今みたいに突然人が消える事件が起こってたらしいんだけど、その犯人っていうのがあの洋館に住んでたやつらだったって話だよな」
「そう。だから今回の事件の犯人も、その一族の亡霊だなんて言われてるのよね。でもなんで亡霊なのかしら。亡霊ってつまり幽霊ってことでしょ? 不死身って言われてたんだったら、まだ生きてるんじゃないの?」
「まぁ、本当に不死身の人間なんていないだろ。もし生きてるんだったら、そりゃもう人間じゃなくてゾンビだ」
同じく片付け終わった龍夜もそれに加わり、身の毛もよだつ話が再び始まる。
しっかりと耳を塞いだまま結衣はガタガタと身体を震わせながら念仏を唱えた。
なんでそんな平然と話せるの。
(うぅ、信じらんない)
結衣は再び前のめりに突っ伏した。聡恵は「あーもう」と肩を竦める。
「いつまでもメソメソしてないでご飯食べなさいよ。あくまで噂話なんだから。実際、失踪した子達の所持品は全く別のところで発見されてるんだし、洋館も警察が捜索して、いなかったってニュースで言ってたじゃない」
そう。犯人は亡霊と噂されてはいるが、洋館にはその姿はなかった。失踪者達の持ち物も、問題の洋館ではなく住宅街の路地で発見されている。二人ともだ。
「でもよ、さすがにこれだけ騒ぎが大きかったら、おばさんに相談しに来る人とか出てくるんじゃないか?」
「……それはないと思う。お母さんのところにくるのって身近な知り合いの人とかだから」
龍夜が言うように、結衣の母親もまた霊感がある。が、母は別に霊媒師というわけではない。ただ心霊現象に悩まされている友人知人達の相談を受けたりしているだけだ。まぁその際、実際に霊を祓ったり解決させることもあるが。
そういったわけで今回のような騒ぎになるような心霊現象の話はくることはない。……はずなのだが。
(どうしてだろ。今回はそう言い切れないような気がする)
今日は朝から何だか落ち着かないのだ。こういう時は必ずといっていいほど何かが起こる。
(そういう予感ほど的中するものはないんだよね)
澄み渡る空を見上げ、結衣は胸中で思ったのだった。
□□□
「ただいまー」
憂鬱な気分で午後の授業を乗り切った結衣は、家にまでその陰りを引きずっていた。
どん底にまで落ちていた気分で帰宅を告げれば「おかえりなさーい」とリビングの方から対照的に明るい声がする。
母だ。夕飯の用意をしているのだろう。覗くと、エプロン姿でお玉を手にした壮年の女が結衣を見つけて口角を上げた。
娘の帰りに笑みを零す母は「今日はクリームシチューよ」と軽やかに献立を告げる。そこまではいつもと変わりないのだが、次に発せられた言葉に結衣は妙な違和感を覚えた。
「あと、食後には結衣の大好きな《ラメント》のガトーショコラもあるから」
ととと、と小走りでキッチンから離れ、そう言って結衣に近寄る。その声が嫌に上機嫌で、結衣の違和感はますます膨れ上がった。
微かに眉を顰めて母の顔を見ていると「ん?」と小さく首を傾げられた。
「あら、嬉しくないの? どっちも結衣の大好きなものでしょ?」
「それは、そうだけど……」
《ラメント》とは、この町では有名な老舗洋菓子店の名だ。結衣は無類の甘党で、特にその《ラメント》のガトーショコラが大好物だった。
「だったらもうちょっと嬉しそうな顔しても良いじゃない。せっかく結衣のために買ってきたのに」
お母さん悲しいわ、と母はわざとらしく目元を擦った。その仕草に、結衣の中に芽生えていた違和感が疑惑へとすり替わる。
「――何か企んでない、お母さん?」
結衣が怪訝な顔で問う。すると母は「え?」と妙に甲高い声を上げた。
泣きまねをしていた寂しげな顔が少しだけ引きつる。その表情はどこからどうみても図星をつかれた人のする顔。そんな母の様子に結衣は疑惑を確信へと変えた。
「まさかお祓いの手伝いをさせようとか考えてないよね?」
眦を吊り上げてから言うと、途端に母から「えー、そんなこと言わないでよ。今回の依頼はお母さんじゃ無理みたいなんだから」と駄々をこねる子供のような声が上がった。
どうやら嫌な予感は当たったらしい。それもドンピシャで。結衣はやはりか、と剣幕を凄めてから母に迫った。
「じゃあ何でそんな相談受けるのっ。自分で分かるでしょ、無理だってことくらい」
そう言及すると「だって、すごく困ってたみたいだから」とばつの悪そうな顔で言った。
「ほら、結衣も知ってるでしょ、最近起こった失踪事件。あの事件にまつわる噂話があってね」
「……それってもしかして、廃洋館の魔物の亡霊が犯人っていう。まさかそのお祓いを頼まれた、とか?」
恐る恐る結衣が問うと「あら、知ってるの?」と母は表情を変えた。なら話が早いと、早速本題に入る。
「そんな危険なことじゃないわ。その噂が事実なのか確認するだけ」
曰く、今日の昼過ぎに事件を捜査している知人刑事が相談に来たのだそうだ。その刑事は母の中学の時の後輩で、今までに何度か相談に来たこともあるのだとか。
「事実か確認するって、本当に魔物の亡霊がいるか確認するってこと?」
「そう。で、実はもう、あらかた視てはみたのよ」
相談に来た時にそのまま一緒に廃洋館へと行ってみたのだそうだ。が。
「特に危なそうな気配はなかったのよね。まぁ、何かしらはさまよってはいるようではあったんだけど」
「それって、昔、魔物にさらわれたっていう人達の霊?」
「どうかしら。あの洋館、いろんな噂が絶えないから。さらわれた人達がいたかどうかも怪しいし」
「なら、亡霊もいないんじゃ?」
「――いや、そうとも言い切れない」
ふとそんな声が割って入ってきた。振り返ると細目の眼鏡をかけた壮年の男が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。父だ。
おかえり、と目を細めて近寄ってくる父に向かって結衣は首を傾げる。
「そうとも言い切れないって?」
「今回の事件の被害者の子達ってみんな十代の女の子だよね? だから、それくらいの年齢の子の前にしか出てこないんじゃないかって思って」
「だからあたしに確かめてほしいって?」
「そう。結衣なら年齢的にもぴったりだし視えるし」
だからね、ともみ手で詰め寄ってくる母は、結衣の肩を掴んでとびきりの笑顔を浮かべた。だからこの夕飯のメニューか、と結衣は納得した。
つまりは、これで結衣を釣ろうとしていたのだ。
何か頼みごとがある時母は、毎回と言っていいほどこの手を使う。さすがに今回は釣られない。
「いや。今回だけは本当にやだ。なんか嫌な予感がするんだもん」
「そんなこと言わずに。ね? この通り!」
両の手を合わせて必死に懇願する母に結衣は「やだ」と貫き通す。頑なに拒み続けていると、母は奥の手を出してきた。
「あーあ、代わりに行ってくれたら、ガトーショコラだけじゃなくてうちのケーキなんでも好きなだけ食べさせてあげようと思ったのになぁ」
「……好きなだけ?」
「そ。結衣、うちのケーキ全部好きでしょ?」
実は《ラメント》は、母の実家なのだ。
「本当に? どれでも? 何個でもいいの?」
「もちろん。ホールでもどんとこいよ」
「…………ほんとに危なくないんだよね?」
「ええ、神に誓って」
「……」
頼み込んでくる母をよそに、結衣の心中では凄まじい葛藤が繰り広げられる。
幽霊はもちろん怖い。だが、ケーキの食べ放題とは何とも魅力的な響きだ。そんなことを言われては、心が揺らがないわけがなかった。
娘の弱点をついた、見事な策略である。
「その顔は引き受けるととって良いわね?」
眉間に深い皺を刻んではいるが、口元が若干緩くなっている。その器用な表情を見た母は満面の笑みで「ありがとう」と娘の手を握った。だが、その内心では「ふ、まだまだいけるわね」とほくそ笑んでいた。
「でも、本当に視るだけだからね。それに今回限り」
「分かってるわ」
大喜びで母は表情を崩す。つられるように父も笑みを浮かべる。
「いやー、噂は知っていたけど入るのは初めてですごく良い経験が出来たよ」
「お父さんも行ったの?」
「うん、今書いてる原稿が少し行き詰ってしまってね。何か刺激がもらえないかと思ってついていったんだ。すごく楽しかったよ」
「楽しかったって……」
そう笑う父は作家だ。心霊現象の実録本やホラー小説を主に執筆している。母はそのファンだったそうだ。
「危ない心霊スポットって落書きとかがないっていうけど、本当だったね。あんなにきれいな心霊スポットも珍しいと思うよ」
「……え?」
「あなた、しっ」
ちょっと待って。『しっ』てなに?
「……ねぇ、本当に大丈夫な場所? あたしちゃんと帰ってこれる?」
「大丈夫大丈夫、私達だって何事もなく帰ってきたんだから」
「あ、でも、木造だから痛んでたところは多かったから、そこは注意しないといけないよ」
「…………りゅうとさとにもついてきてもらおう」
娘が怖がりなのを承知で呑気に笑う両親。
お気楽なものだ、と内心悪態を吐く結衣だったが、釣られる自分も大概だと口を噤むしかなかった。
しかしその安請け合いが、後に人生最大の厄介ごとを招くことになるとは、この時結衣は知る由もなかった。