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4.5間話 裏庭に集う

 マリフスタ・メテルケインは追い詰められていた。目の前にいる高校生の女の子に、銃口を突きつけてくるスーツ姿の男に。

「マリフスタさん、どうして機関を裏切る様な事をしたんです?我々はあなたのこの世界での活動にある程度目を瞑る代わりに協力関係を維持していたというのに」エノードは彼女に向けた銃口を軽く泳がせながら尋ねた。

「今回も目をつぶってくれないのかい?それか、その協力関係ってやつに…できないかな?」彼女はその銃口がまた自分に向く瞬間を目で追いかけながら彼に問う。

「それが出来たら、私達はあなたをこんな風に捕まえないわよ」ミリアは彼女を見上げて言った。

「…そう、だね。でもさ、機関の力だけじゃ解決できない事も世の中には溢れてる。あたしの世界だってそうだろ?」

「その話をまた始めるならこの引き金にかけた指を…」

「わかった、わかった。やめるよ。でも、本当にアンタら機関の力だけじゃ足りないのさ」

「でも、“私達”だったら?」ミリアは彼女に提案する。

「……まさか、もう彼とは関わらないと誓ったんだぞ?」マリフスタは彼女の顔を疑う様に見た。

「あの少年とは直接的には関わらない。ただ、我々と協力すればいい。管理機関としてじゃなく、個人的なものとして」エノードは彼女に向けた銃口を真っ直ぐと保って言った。彼は彼女が断った瞬間にその引き金にかけた指を引き、彼女を殺すだろう。

「……わかったよ。アンタらも仲間に入れる」

「仲間に?」ミリアは彼女が一人で今回の事件を起こしていたと思っていたが、彼女の口ぶり的にはどうやら違うらしい。




 マリフスタに連れられて、第五区のとあるビルを訪れていたエノードとミリアは、長く続くその廊下をマリフスタの後ろについて歩いていた。

「ゼーテルもここを知っているの?」

「お嬢ちゃん、何度も言うけどあたしは彼とは協力していないし、彼がこんなやり方をする人間じゃない事も理解しているだろ?」

「…そうだけど」ミリアはまだ彼女を疑っているようだ。

「彼とあの少年は戦っているんだろう?あたしを疑うよりも、そっちの決着を気にしたほうがいいんじゃないか?」

「俺が何のために、あの二人の少女を連れて行ったと思う?」エノードはマリフスタに自らの意図を理解していないのか、と言いたげな顔で問う。

「…それでも、彼らが仮に勝ったって心の傷はいえないだろ」マリフスタは前を向き言った。その背中は遠くを見ているような、寂しさを滲ませて、何も語らない石像みたいだ。

「何があったんだ?」

「…あの少年は多くの物を失いすぎた。その結果、多くの事を忘れている。違うか?」

「そうかもしれない。でも記憶に触れられない以上わからない」

「お嬢ちゃん…そういう事を言いたいんじゃない。」マリフスタは歩みを止めて振り返る。二人も彼女が振り返るのと同時に止まって視線が、彼女に向けられる。

「あたし達を救った彼は、あの結末を回避する為に全ての犠牲になる覚悟でこの一年間ずっと……。一人で戦ってきたんだぞ―――」彼女は涙を堪えながら震える声で、二人を見る。

「わかっていて。わかっていて、あなたも一年前、彼との約束をした。そしてそれを、大怪盗マリフスタともあろう御方が律儀に守っている。約束は破るために結ぶものだって言ったのは誰だったかしら?」ミリアは彼女を上から見下ろす様に視線を向けて問う。実際に彼女の方が背が高いから見下ろす事など出来ないが、マリフスタは間違いなくミリアに見下ろされていると感じていた。

「それは…」反論を唱えようと口を開くが言葉が浮かばない。

「この世界の切り札として彼には役目を果たしてもらう。その為に我々は多くの茶番を演じて、多くの舞台を上演しなくてはいけない。管理機関とはそういう組織だ。七つの世界が全て滅んでも、この世界と星界の神々さえあれば何度でもやり直せる。だから、神が見下ろすこの世界だけは何としても守らなくてはいけない。彼もそれに同意して、全てを託してこの道を選んだ」エノードは淡々と事実だけを冷たく語って、言葉はどんな寒波よりもこの場にいる全員の心を凍えさせた。

「…でもそれでは救えないから、我々が集まった。そうでしょう」マリフスタの後ろに現れた男は言った。二人の視線が彼に向いた。

「あなたは……ハイリアス・ケルタス。まさか、あなたが彼女の仲間?」ミリアは予想外の人物の登場に驚きを隠せずに彼とマリフスタを交互に見た。

「そう、ボクが彼女の仲間。現状で唯一彼に忘れられていない人間であるボクと、完全に忘れられた二人を合わせた三人のチームだった」

「三人の?」エノードはハイリアスの背後にいる人物に気が付いた。

「あと一人は、俺様。そして三人のチームは今日までだ。今からは五人のチームだ」そこに立つ大柄の男の名はワシュリン・エイブリン。彼は幻族の中でも希少な狂竜の力を持つ者。

「奇しくも、かつての仲間が揃うとは。これも運命ってやつのせいなのかな?」ハイリアスはふっと笑みを浮かべながら冗談のつもりで言った。

「それをお前が言ったら俺様は運命を疑うぞ」ワシュリンは彼に呆れた顔で言って二人を見る。

「これなら、俺はいない方がいいかな?」エノードは四人に向けて尋ねる。

「そんな事はない。お前がいれば裁定者側の動向が知りやすい。」ワシュリンは彼を歓迎して受け入れた。

「それに、いずれは彼女をこちらに引き込むつもりでしたからね」ハイリアスは少し遠い所を見つめるようにエノードを見て言った。

「……彼女ならきっと『喜んで彼の力になる』と言って今すぐにでも協力してくれますよ」エノードがそう言うとマリフスタとハイリアスとワシュリンの三人は少し間が悪い様な表情で顔を見合わせた。

「何か、都合が悪いのか?」

「実はね、あたしら的には問題ないんだけど、その……裁定者には側近がいるだろ?」

「ボクらは全員を仲間にしたいのさ。それも今の三人だけじゃない。第六、第二、そして初代の裁定者も含めてね」

「何…それが何を言っているか。理解は……しているか」エノードはハイリアスの目を見て彼が何かを間違えてそう言ったのではないと理解していた。が、それがあまりにも衝撃的な言葉だったため、つい口を出してしまった。

「理解している。まあ、最も第六代目と第二代目の裁定者は既にいないが、それもいずれ解決する。星界の暗闇を満たす星光海、それを織りなす一片、星光の紐を手繰り寄せ、彼らに会いに行く―――こちらか行かずとも、いずれ必ず、彼らは訪れる。でもそれを待っていられるほどの余裕はない。だから、こちらから迎えに行く。それには彼女の協力が必要だ。でも、今はまだその時じゃない。」ハイリアスはまた遠くを見ている様な目でエノードを見て言った。今度はより遠く、深いどこかを見ている様だった。

「…でも、どうしてそれに模造神器が必要だったの?」ミリアは彼らに尋ねた。

「模造神器はあくまでも戦うために必要な武器として集めていたのさ。ゼーテルがなんで龍火を狙っていたのかは知らないけどな」マリフスタが盗んだ模造神器の一つを召喚して見せる。

「おいおい、馬鹿か。それを片付けろ。間違えても、ここでそれを使えば全員ただじゃすまないぞ」それの詳細を知っているエノードは慌てて言った。

「これは何なんだ?」マリフスタはエノードの顔にそれを近づけて尋ねる。

「おぉ……これはな、クォンデッサーって言って機関の衛星兵器に搭載されている物の予備だ。っていいから早くその球体を戻せ、頼む」彼の慌てぶりにその危険性を理解したのか、マリフスタはそれをまたどこかへ片付けた。

「ていうか、どこに片付けているんだ?」エノードは適当に投げるようにして消えたそれを不安げな顔で周りを見ながら尋ねた。

「あたしの超能力は鏡。その辺の反射する物の中ならどこでも武器庫にも部屋にもなる」

「そういう事か」

「そもそも模造神器が必要な程の相手って何?」ミリアは彼らのやり取りを横目にハイリアスに尋ねると彼は少し不得意そうな顔で答えた。

「管理機関とか、外側の世界の敵とか、かな?」彼が曖昧な答えを出すのは答えられない事情がある以外に、曖昧な答えになる程に選択肢が広がっている場合だ。きっと今回は後者なのだろう。答えとして出て来た言葉の範囲の広さからミリアはそう思った。

 それから五人はその場所からハイリアスの力で一瞬で拠点に移動した。広いホテルのロビーの様なそこについてすぐにマリフスタはソファに腰を掛け、ワシュリンは奥にあるバーらしき場所に入って行った。

「さて、これからこの場所を案内するわけだけど。一つだけ、約束してほしい。それはこの場所への入り方を誰にも言わない事だ。その為に、今回はボクの力で空間を移動したが、二人には自分だけの方法で入ってもらう。」

「どういう事だ?」

「あの二人、マリフスタは彼女自身の能力で鏡、反射する物の中からここに移動している。ワシュリンは共通の入り口―――」ハイリアスは二人の後ろにある扉を手で案内して視線を向けさせる。

「あれから入っている。ただ、彼の狂竜の力と瞳による認証でしか開かない。君たちは……」

「パスワードとかあるのか?」

「あるけど、あまり好ましくないな」

「私なら誰かに記憶を見られないからパスワードでもいいでしょ」

「確かにミリアならそうだな。後でパスワードを教えよう。エノードはどうする?」

「俺は……まあ俺も生体認証にするかな。力……は旧裁定者の力とかは認証に使えるか?」

「もちろん、使えるはずだ。」

「じゃあ、それで頼む」


 二人の生体認証に必要な情報を一通り入力し、ミリアにはパスワードを教え、エノードには旧裁定者の力の入力をさせて準備が整った。ハイリアスに連れられて二人は奥に続く大きな扉の前に立つ。

「ようこそ、舞台の裏庭へ」

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