老婆(ロリババア)
話が終わるころに身綺麗になった少年は、少女になっていた。
「もともと女じゃったからな。」
チビという言葉のどこに男を感じたのかは知らないが、年寄りのような話し方をする少女は僕の失礼な目線に気付いていたらしい。
まあでもあんなみすぼらしい恰好をしていた方が悪いと僕は主張します。
「まあよいわ。イシュターの坊主が知っていたかは知らん。じゃがノクトかエイダのどちらかは確実に知っていたであろうな。」
「うん、まあ何となく理解した。でもさ、さっきの話に君自身は全く出てこなかったよね?あ、もしかしてダンジョン学者の老婆さんの孫?年齢的にひ孫?玄孫?」
答えは凡そ検討していた通り学者老婆ご本人だった。
いや、本質的には違うのかもしれない、なぜならば彼女の身体はダンジョン産だったから。若返っている理由はイシュターの目に触れたときにごまかすため、姿を任意で変えられるドッペルゲンガー系の身体だからという。
彼女の話によると、ダンジョンの魔物はダンジョンが取り込んだ魔物の劣化コピーらしい。
何を劣化させるのかというと、その魔物が一番欲している以外の記憶だ。これによって殆どの魔物は食欲のみで行動することになる。
老婆の場合は知識欲だった、だからこそこうして理性を持って行動が出来る。
「ダンジョン学者がダンジョンの魔物になって本懐を遂げたというわけじゃな。他のダンジョンは知らんが、このダンジョンで知らぬことは無いぞ。何でも聞くがよい。
まあそれよりもまずはイシュターじゃな。坊主の話によるとようやっと落ち着いた感じに思えるが、有角種は長命じゃからな。60を超えて成人したばかりの小僧と同じように考えておってもなんらおかしいとは思わんぞ。」
老婆ことフィンの目的はイシュターが何かをやらかす前に、彼に気付かれないようにここで鍛えておけというものだった。ノクトをはじめとしたイシュターたちの建国妄想はフィン生前はまだしも、愛国心を失った現状では不合理な点しか見当たらないらしい。
「なるほど、エイダってやつが怪しいね。イシュターはどうか分からないけど、そいつらの動向は気になるし、強くなるのはこちらから頼みたいくらいだ。よろしく、婆さん。ところでイシュターの要件は何だったんだろう。」
「里帰りじゃろ。知らんが」
実はフィン、これを知っていた。
イシュターが脚を失う前は何度もここに足を運んでいたのだ、これまでに要請されたのは皇帝ノクトとの橋渡し。
フィンはダンジョンを出ることができないが、ここに連れてくるからと言って聞かない。
そして一度もノクトを連れてこないのに、橋を渡せとうるさかったのだ。
フィンが嫌になるのも仕方がない。