イシュターのダンジョン
治癒の魔女の話を聞いてから全力でそちらに注力していた僕だけど、イシュターがなかなかこの場所から離れようとしない。それどころかひっそりと何処かに行っている様子。
何処に行ってるんだろう。
「僕達だけで魔女が居るワンドって国に行こうか。」
独り言である。
スライムのポリーはイシュターの足になっているし狼たちとも会話はできない。有角種同士の通信が魔法だと仮定した僕はこれを解析してみようと考えたのだが、角のどこにも魔法陣がないし何かを唱える風でもない。
手掛かりなしなしでとっかかりもつかめていなかった。
「イシュターのおっさん、歓楽街にでも行ってるのかな。僕ももうそろそろ7歳だし、この世界では15で大人のはずだから言ってみようか。いやまだ早いか。」
「どうしたガキ、独り言か?」
聞かれてた。
このおっさん気配全く出さないからすごくびっくりするんだよ。何処に行っていたのか聞こうにも遊郭だったら気まずいし、そもそもイシュターの行動を制限する必要もつもりもない。
一人で遠い国に向かうのは多分かなり厳しい。
せめてポリーと行きたい。
ポリーが今のままがいいなら仕方ないけど、何を話すにしてもイシュターを通さないといけないわけで、イシュターに都合よく言われても反論する術がない。
それでも夜は一緒に寝てくれるので、ポリーはどっちかと言えば僕についてきてくれる気がする。
ポリーは野宿の時の枕で布団なのだ。
それはそうと、待たされ続けたから検証する時間が大量にあった。
今は魔封じもないから普通に魔法が使えるので研究はかなり捗っている。
そして、一番の収穫は謎関数の正体だ。
「これは・・・、間違いないよな。」
謎関数はランダム関数だった。
同じ魔法でも発動したり失敗したりすることがあるからほとんど最初から見当は着けていたのだけど、魔法が謎関数を排除した魔法式ではすべて成功した。
おそらく危険と言われる魔力欠乏を防ぐための数式だったのだと思われる。
ランダム関数の中身が探れないのが残念だが、使用魔力量を念頭に入れて忘れなければなくてもかまわない。
検証をやめる気はないけれど一定の結果があるのだから、欠乏を起こすほどの大魔法を使わない限り気にしなくても大丈夫、だと思う。
「よし、これ以上ここに留まるなら強引にでもポリーを返してもらおう。」
「それはまだ困るな。・・・仕方がない、教えるか。明日だ、準備しておけ。」
おうふ、また聞いてやがったよ。
呼吸泊まるかと思ったわ!あれ?僕こいつ助けた感じだよね?なんか僕に恨みでもあるの?
振り向くとポリーが飛びついてきて包まれる。
僕、ごまかされてる?
で、連れてこられたのがダンジョンだった。
いや、は?しか出ないけど。
「は?」
「少し危険だ、あまり離れるな」
お金とか持ってないだろうから昔の女の所にでも行ってると思ってたのにダンジョン。
しかもこれ国が知らないダンジョン、不認定ダンジョンだよ。絶壁にある入り口に木が生えてて入り口がほとんど見えない、国に認定されていたら間違いなくこの木は切られているし入り口に番が居るはずだ。
これピーピング知識ね。
イシュターは入り口の木を揺さぶって落ちてきた剣を一本僕に渡してきた。
自衛しろってことらしいけどどう見ても僕にはデカすぎるよね。長いこと奴隷やってて栄養不足だから7歳でも一メートルくらいの身長しかないんだけど?!
イシュターは逆に2メートルくらいあるから剣がちっさく見える。
「この階層はゴブリンしか出ないから大丈夫だが、目指してるのは4階層だ。まだここ何日か潜って2階層までしか行けてない。魔法の練習してたな、期待しているぞ」
「・・・・。」
それも知ってんのかよ。
この男ダンジョンに潜ってるより僕のストーカーしてた方が多いんじゃないだろうな。何だよ二階層って、雑古しかいないだろ。知らんけど。
確かに僕は魔法が使える。
しかもショートカットキーを見つけてレ点のような手の動きで発動ができる。でもまだ練習中だ、記号を簡易にしすぎてあれ?これ火であってたよな?ってなるのに。準備が必要なんだぞ!心の!
一階層はイシュターがサクサク倒して進んだけれど、二階層はまじで大変だった。
一階層で単発で出てきたゴブリンがいきなり5~10の集団で襲ってきた。しかもたまに豚頭のオークもいる。オークめちゃくちゃ強いし。
「炙れ!弱ったのは片付ける!」
「アイヤ!」
噛んだし。
べつに発動キーにしてないから大丈夫なんだけど。僕のショートカットはふり幅を大きくすれば大きい魔法が出る。
つまり怖がって縮こまった僕では小さい魔法しか発動できない。
必然一匹に一発以上発動する必要が出て、コストパフォーマンスめちゃくちゃだ。しかも外れるし。
「なかなかやるな。こんなに魔法を発動できると将来は大魔導士か。」
「はは」
実は僕の魔力量はかなり大きい。
隷属の首輪で発動が制限されていたけれど、ピーピングや魔法研究で魔力を消費していた。筋肉をトレーニングすることは食事が貧相で出来なかったけれど、魔力のトレーニングはがっつりできていたのだ。
今くらいの魔法ならまだ100発は余裕で撃てる。
「ごめん、セーフポイントで休もうよ。疲れた、精神的に」
「いや、ここのセーフポイントは四階層でしか見つけられていない。これだけ順調に進めたんだ、もう少し我慢しろ。」
いや目の前にセーフポイントあるんだけど。
何言っているのだろうこの男は。もしかして魔力全くない人なのかな。いや、ウインドウが表示される僕がおかしいのか。
そういえばピーピングが進化して鷹の目が使えるようになったけど、もしかしてこれマッピング機能なのか。
「あー、うん。そっちの穴入ったところ、セーフポイントらしいよ。」
「ぼうず、こんな場所で嘘は命取りだぞ。」
困った。
でもとりあえず休みたい。
ポリー回収して強制休憩に入ろう。
「本当・・・、なのか」
「ごめん、後で説明するからちょっとだけ眠らせて。」