ポリー小母さん
「あ」会話
『あ』通常でない会話
(あ)解説
「(あ)」心の声。小声
「あ――」途切れた会話or続くが端折ったセリフ
|()るび失敗
・・・間
でお送りしています。
「久しぶりポリー小母さん」
僕が会いに来たのはリリを育てる時に世話になった乳母的なモンスター、スライムである彼女(彼?)だ、勝手に僕がポリーと呼んでいるだけで意思の疎通はいまいち。でも攻撃はしてこなかったし、乳の代用品も用意してくれた。
通じているものと信じて頼んでみる。
「この金属吸収できないかな。」
ダメ元なのは意思の疎通だけではない、首輪に定義付けされた対魔法印も懸念の一つ。それがスライムの特性である吸収が生物的特徴なら、つまり僕のスキルであるピーピングのようなものならば制限の範囲ではない。そこに賭けた。
「まじか、こんなに簡単に・・・・。今までの僕の時間・・・・。」
とにかく成功したからにはこんな場所に用はない。
都合のいいことに丁度いい先日入ったばかりの欠損奴隷さんが居た。サイクロプスの血縁と言われる種族、キュクロ人のイシュターだ。
彼等はこの国の種族より頭一つ大きいのが特徴だけれど、イシュターはさらに大きい。
足が一本足りないくらい何とでもなりそうなほどだ。ポリーに頼んで彼を解放、暴れている隙をついて逃げ出す算段っだった。
決行は夜、怠慢な警備しかいないのはスレイブリングを過信しているから確実に緩い。
奴隷仲間は今回は据え置き、ポリーをはじめとして仲間になってくれそうなモンスターの奴隷紋を解除して彼等にも暴れてもらおう。
モンスター用奴隷紋の解除は比較的簡単だった。
生物に直接刻むのは難易度が高く、少し崩れただけで破綻した。慎重に考えた僕の時間の行き場のなさよ。
開放をするのはスライム1オーウルフ2ガオーク4、これ以上は怖くてやめた。
オーウルフは角のある狼型の魔物で、比較的頭がいい。でも猪のように牙が突き出たガオークは一匹開放したら全部解放させられた。無茶苦茶こわかった。
あー、そうだよね。夜まで待てないよね。知ってた。
これはもうイシュターさん要らないかも。ガオークさん大暴れだもの。不壊の刻まれていない檻は彼らにとって障害にならない、武器の代用でしかなかった。
「待て、杖になるものをよこせ。俺も手伝う。」
イシュターさんです、いつの間に居たの。
いきなり頭の上から話しかけてくるから超ビビったんですけど。イシュターを解放するのは当初の予定通りだ、躊躇うことは無い。
でも杖か、多分今の僕なら回復魔法が使えるんだろうけど、必要な魔力量とか知らないし不安定要素があるまま使いたくない。
「ぶごぐご!ぐぐごぐぐごご」
ガオークさん大興奮です。
多分何かを伝えようとしているのだろうけれどオーク語は不勉強で・・。でも、なんだろう。イシュターさんと通じ合っているように見えるよ。
ガオークが武器に使っていた鉄格子の残骸を受け取ったイシュターさんは、丁度いい場所でそれを折り曲げて松葉杖兼鈍器にしたそれを振り回し始めた。
なぜか僕を抱えて。
「ちょ、ちょ、ちょっと、お、おろ、降ろして。吐く。」
盛大に振り回された僕は惨い乗り物酔い状態でやっと解放された。
どうやら近くの森に逃げ込んだらしく丁度いい木陰でキラキラエフェクトを解放させているよ。しばらくして落ち着くと、オーウルフの二匹はついてきたようだ。
「お前たち、ついてきてくれるのか。ありがとう、うれしいよ。」
狼系モンスターの中でも角を持つオーウルフは人間にとって一番なつきやすい魔物だ。
こちらの言うことを本当に理解したように行動する。しかし、ポリーは来なかったか。もしくは野生に帰ったかもしれない。
ちょっと寂しい。
「っておーい!え、いやえ、ちょっと待って。え、それは有りなの?てか、え?どういうこと?」
気を落としてイシュターに声を掛けようと彼を見ると、足が生えていた。
いや、正確に言えば生えているわけじゃない。杖に使っていたものを芯にしてスライム状の何かが足を象っていた。
多分、いや間違いなくポリーだ。
「そうか、お前は有角人種じゃないから知らねえか。角がある生物は言葉とは別のコミュニケーションが取れる。お前はこのスライムとよく話をしていたから勘違いをした。」
イシュターが言うには僕達獣人と角付きと呼ばれる種族が会話をできるように、有角種たちはテレパシーのような会話ができるらしい。もちろん仲がいいというわけではないし、会話と言っても単純なものがほとんどのようだけれど。
とにかくオーウルフを介してポリーと意思を交わして義足代わりになってもらったという。
ガオークは牙が角の役割なのだとか。
「いやちょっと待って、それポリーだから。もちろん本気で小母だなんて思ってないけど、そんな扱われ方をするのはちょっと許容できない。」
「そうか。」
僕の言葉に納得がいかなかったのか一瞬鬼のように表情を変化させたイシュターだったけれど、助けられた恩を思い出したのかすぐに従ってくれた。ありがたい、つい勢いで口に出てしまったけれど、彼を敵として相手にするにはまだ時間が足りない。
時間が足りないだけで、そのうち勝てると考えるのは少々驕り過ぎだろうか。
でもスレイブリングを解析したばかりの僕は自信に満ちていた。そして使えるはずの魔法を試したくて仕方がなかったんだ。
「開発環境構築。」
いま僕の前にはパソコンの開発画面のようなものが展開されている。
これは僕が扱いやすいように設定した固有魔法とでもいうべきもので、スレイブリンクのせいで発動が出来なかったけれど、試行錯誤した研究の成果そのもの。
表示されているソースはピーピングで得た治癒魔法。
これまでは発動が出来なかったからセーブ機能が使えなかったけれど、発動させれば新しい魔法として世界が認識するものだと予想している。それがセーブの代わりになる。
プログラミング言語のように整数を宣言、細胞活性に増殖と造血の関数を組み込んで完治するまでループ。完治が整数となるように設定して帰る信号でエンドを宣言。発動する言語キーは「欠損補填」理解できていない謎関数も一応組み込んでおく。
「欠損補填」
む、発動しない。
まあいきなり人体実験は無謀だったし失敗してよかったかもしれない。もう一度開発環境を開いて確認をすると、欠損補填という名前の魔法が出来ていた。
この世界に認められた魔法になったらしい。
つまり成功したということだ。
なのになぜ。
「ごめんなさい。できると思ったけど無理だった。僕的には納得ができないけど、ポリーが納得しているなら義足にしてあげてください。」
「突然何をしだしたかと思ったが回復の魔法が使えるのか。欠損部位を修復するのは聖女と呼ばれるような者の業だ。でも開いていた傷口は完全に塞がった、感謝する。」
ん、発動したのか。
魔法ってもっと発動してますよエフェクトが出るものだと思ったけど、そういえば僕が覗いた治癒魔法師もそんなのだしてなかったか。でも発動したのに回復しきってないのはどうしてだ、もしかして終了の整数計算を間違えたか。
「あ、もしかして整数だから駄目だったのか。そういえば1+2=3とか宣言してないな。そのあたりの関数があるのかもしれない、もう一回探してみよう。」
「大きな独り言の最中悪いが移動する。オーウルフの背に捕まっとけ。」
残っている一方の足の長さを整数として取り込んで・・。などとぶつぶつ言っているうちにオーウルフに咥えられて移動することになった。よほど集中をしていたのかそれともオーウルフが気を使ってくれたのかは分からないが、今度は酔うこと無く野営の場所にたどり着いていた。
「欠損部位は片方とは限らないからやっぱりミトコンドリアの情報を得ないとだめか。謎関数は絶対に違うから・・・・。うーん、聖女の回復魔法を一回見てみたいな。」
「それならばワンド王国に向かうか。いまかの国には治癒の魔女と呼ばれる聖女が居るらしいからな。その前に少し寄り道をするぞ。」
肉を焼くような匂いに誘われて気をやると、なにか理解できない言葉が聞こえた気がした。「肉が焼けたぞ。」は、その後の言葉。いまイシュターさんなんて言った。魔女、魔女って言ったよね。世界に厄災を齎すって言われる魔女のこと?
え、てか魔女と聖女はぶつかり合わない性質なの?