ピーピングトム
「あ」会話
『あ』通常でない会話
(あ)解説
「(あ)」心の声。小声
「あ――」途切れた会話or続くが端折ったセリフ
|()るび失敗
・・・間
でお送りしています。
いやいやいやいやいやいやいやいや、なにが国を作っちゃおうだ。幸せに暮らしましたちゃんちゃんじゃねーんだよ。お前魔王みたいなの倒したよね、倒してから1年くらいは経ったよね。奴隷解放はどうしたよ。
そりゃあね、難しい問題はあるよ。
実際問題奴隷を解放した後の問題はどうするのとかさ、戦闘奴隷は犯罪者が居るかもだし、借金奴隷はそれほど惨い扱いはされないけど。
でもさ、リリと一緒に居た欠損奴隷の世話をする子供たちくらいは助けてもいいんじゃね。それこそエンジの家族みたいに冤罪を着せられて強制的に連れてこられた奴隷たちだよ。何の罪もなく閉じ込められたかわいそうな感じだよ。
リリは違うんだけどさ、リリは犯罪奴隷が産んだ子供だったから。
欠損奴隷と一緒に世話を任された俺がテイム用の魔物のおっぱいで育てた、罪がないってことは一緒だから同じっちゃあ同じだけど。
ああ、失礼。
あまりにもあれで鬱憤が溜まってました。
僕の名前は兜倍宗也トムって呼ばれてます。
そっちは姓だって言ったんだけどね、癖のある黒髪に黒い目、この世界の平均と言って過言でない平凡な見た目の、とにかく転生者だ。物心がついた時にはここに居たから、この世界での名前は知らない。
そのそも奴隷には名前がない、ちび、でぶ、のっぽ等とその場の見た目の状況で呼ばれるから分かりづらくて仕方がない。
さて、先に述べた通り僕は今、奴隷をやっているわけですが。
やっているって表現もあれだな、奴隷に落されている。が妥当かな。
捕まったのは2歳のころ、村の名前も覚えていないから、そこが国に接収された土地だったのか敵国だったのか知らない。
とにかくこの国では国民総奴隷の制度をとっている、偉そうにしている貴族や騎士だって奴隷なんだからさもあらん。そもそもの始まりは宗教だったか兵の鍛錬だったか、訓練の効率化が題目だ。
そのどちらが先か分からないタイミングで10年ほど前に発生した。
僕はその奴隷の奴隷、最下層に居る。
なんで奴隷の僕がこんなことを知っているかというと、それはスキルに依存する。
僕のスキルはピーピング、覗きなんていやらしいと思うかもしれないけど、それくらいしか楽しみがないんだから許してほしい。
もっぱらの目的は技術、子供の身体だしね。
そして歴史やそのほかにも興味がある。
困るのが目視出来ないと覗けないことと、僕がいる欠損奴隷用の居住スペースまで来る客はほとんどいないこと。
来るのは金のなさそうな冒険者か家族を捜すエンジのような人。
たまに身綺麗なのが来るのは回復魔法の使い手や義肢の技術者、回復させることが出来れば奴隷が安く手に入るからね。
こいつらにはかなり勉強させてもらった。
勉強って程でもない時でも、外に出られない僕の代わりに冒険を見せてくれるのだからありがたいしかない。
先に出した「技術」だけど、それはイコール魔法と言える。
で、かなり前に来た魔法の専門家が新しい魔法を生み出すところを見せてくれた。勇者に会う迄の僕は魔法の開発に勤しんでいたんだ。
それで知った今の僕はこんな感じ。
トマス:7歳:猿獣人Lv,10
HP(生命力):53/203
MP(魔力):305(000)
ATK(膂力):15
AGI(俊敏):30
INT(知力):26
先天スキル:ピーピング[][][][]
生命力が足りてないのは多分食事のせい。
そして隷属の首輪にはまず間違いなく封魔の印が彫られている。
つまり魔法の発動が出来ない。
できたのは魔法言語の解読と理解を深めること、そして分かったのが前世のプログラミングにとてもよく似ていること。
例えば火魔法、ファイアという言葉で十秒間火を燈すとする。
最初に必要なのは火の宣言、次に発現場所、威力、終わり時間の宣言。これらが組み込まれた発動キーが「ファイア」というわけだ。
一番簡単なのを例に挙げたけれど、他もこれの応用で出来ている。
これらによって魔法陣は魔法のプログラムを書き込んだ開発スペースだと理解した。
そうしていくつかの開発ソースならぬ魔法陣を読み解いていくと、難しい物ほど必ずある文言がある。
仮にこれを謎関数と呼んでいるのだけれど、魔力の残りを考えたストッパー的なものだろうと考察しているところだ。
「そういえば魔法が不発になることもあるな。」
ああうん、勇者に助けてもらえなくて奴らを見ることに飽きた僕は、また魔法の研究をしている。
だって他にやること無いし。
基本的に欠損奴隷のお世話が僕の仕事だけれど、そのほとんどが成人である15歳を見ずに死ぬ。そして僕たちのスレイブリングには定型の制限がない、「封魔」以外はね。毎朝奴隷商人の小間使いが命令をして終わり、逃げ出せはしないけど隠れて過ごすなら特に問題は無かった。
頑張ってるやつらには悪いけれど5年近く僕もその仕事をしてきたし、ここらで逃げ出す算段を付けないと普通に死ぬ。多分僕いま病気持ってるし、体調が悪いことが当たり前の場所だから多分マヒしてるんだと思う。
小児性愛で買われることもほとんどない。
首輪に法の尊守が書き込んであるから、通常のモラルは守られる建前がある。だから犯罪奴隷は大半が冤罪だ。
しかしまあ、王族の命令は法の前にあるらしくてやりたい放題であったりもする。
「僕は勇者と違ってちゃんとお前らを助けにくるからさ、もうちっと頑張ってくれ。」
いま解析をしているのは隷属の首輪という僕も付けている魔道具、先日死んだ同僚の死体から拝借した唯一の手掛かり。読み取れたのは封魔と後書きができる余白。それと、最初に宣言されている不壊ととれる文字。
「もしかしてこれ外したら死ぬとかのトラップなしに、ただ壊れない首輪ってことか。でも不壊ってことは全く曲がらないんだろうし、逆に言うと曲がる部分は壊せるはず。ヒンジの所は無理でも開閉の接合部なら壊せるかも。」
この世界にはまだネジという概念がないのか接合部に使われているのはカギのような部品、よく見てみると別パーツになっていて魔法陣を刻む余地がないように見える。問題はその別パーツが首輪が閉じた後だと全く見えない場所だということ。
「こんな量産物に貴重な金属は使われないだろうし、とりあえず鉄だと信じて錆びさせるか。酸性の何かが欲しいけど、果物なんか食事にないし、多少の塩っけでどうにかなるなら汗で錆びてるはず。なにかないか・・・・・!」
そうだ、テイム用モンスターにあいつが居る。
モンスターは基本的に直接奴隷紋を刻まれるから力を使えるか疑問なんだけど。いや、テイム用モンスターは戦闘が主な仕事のはずだから従属的な文言がメインかもしれない。
それならいける。
「久しぶり、ポリー小母さん。」