プロローグ
この物語はいわゆる「ざまぁ」系ではありません。
日常系?と言っても過言でないくらい戦闘シーンもありませんし、覗き趣味の主人公トムがのびのびとやっています。
どこかで差し入れ予定ですが忘れたかもなので、説明しておきます。
この世界の人間は大きく分けて獣人と有角種となっています、いわゆる人族というものが存在せず、猿獣人がそれに近いでしょうか。
大きく分けてと言いましたが、エルフとドワーフのような特異種も存在はしています。ドワーフは仲間に居るのでちょこちょこ出ますが、エルフは殆ど出てこないですけどね。
最初から最後まで一貫して「奴隷解放」をテーマとしてありますが、たまにシリアスがあるだけで気安く読める内容となっていると思います。
平穏な日々、起伏のない日常。
何の変哲もない高校生だった御手洗宗次は異世界であるここ、ファンタジー(過去勇者命名)に召喚された。
「魔王を斃すがよい」
召還された神殿、そこから連行された王城、その謁見の間らしき場所で王様らしき男。彼が一言だけ発してソウジの運命は決められた。
これに逆らうことはできない、なぜならば隷属の首輪を翻訳機だとして受け入れてしまったから。
最悪の日々だった。
まず最初の一週間は徹底した訓練の強制。
素振り2時間、型稽古3時間、真剣での撃ち合い6時間、食事の休憩はあるけれど生理現象は垂れ流し、首輪で強制されているから申告することもできない。
嘲笑する騎士たち。
かけられる声は嘲りの言葉、勇者という名の奴隷。
比喩でなく言葉のままの生活が続いた。
二週間目からは危険な森でモンスターの討伐訓練。
装備は与えられたけれど文字通り魔物の血肉をすすって生きた。
それが命令だからだ。
魔法の訓練はされなかった。
使えるのが当たり前だかららしいが、魔法のない世界から来たソウジには困難なことだった。
森で過ごしたのは凡そひと月、帰ってきたソウジを迎えたのは奴隷商人だった。
ここまで鍛えさせて売り払うつもりかとも思ったが違うらしい、お供の奴隷を見繕えとのことだった。
「国王様から奴隷選びはお前に任せると言われておる。魔王さえ倒せれば夜の処理用に使うもよし、戦力で固めるもよし。だが魔王城にたどり着く前に気取られてはかなわないから5人までとのことだ。好きに選ぶがよい。」
まず見せられたのは犯罪奴隷、戦闘奴隷ともいう。
これには戦争で負けた国の兵士も含まれていた、屈強な肉体に多くの傷は奴隷になる前かそれとも。
彼らの扱いはひどいものだった、それこそソウジと同等かそれ以下、剣闘士のような見世物にされていて、怪我のないものを捜す方が苦労したくらいだ。
次に見せられたのは借金奴隷。
本来ならば戦闘向きでないしこんな用向きで使われることがない奴隷だが、稀に戦闘力の高いものがいるらしく特例として見せられた。
彼らは比較的きれいな身なりをしていて、ソウジに選ばれないようにと戦々恐々だ。
最後は欠損奴隷。
怪我や病気のものだけでなく、奴隷として役に立たないと思われる子供たちもいた。
子供たちの主な仕事は欠損奴隷の世話、環境が悪く不衛生なこともあり彼らが病気になることも多いのだとか。
その他としてテイム用モンスターも見せられたが、ソウジにその才能は無かった。
選んだのは目いっぱいの5人。
まずは戦闘奴隷で槌を扱えると言ったガング、ドワーフで武具の整備もできる。
つぎも戦闘奴隷のティファ赤髪の戦闘種族で大剣使いだ。
借金奴隷からは学者のモンス、魔法が専門で教えを乞うために選んだ。
借金奴隷からはもう一人、最後後に選んだ一人から逆に戻って選んだ奴隷、彼女はエンジ、家族を養うために貴族のメイドをしていたが不義を働いたとしてここに落とされていた。
最後はリリ。
欠損奴隷を世話していた少女で、元の世界に置いてきた妹の面影を持っていた。
エンジはこの少女の世話をするために選んだのだ。
「こんなクズ連れていくのか?あ、お前そっちの趣味か。にしてももっといいのが居ただろうに」
「俺が逆らえないのは国だ。お前がそれに当てはまるのか試されたくなければそれ以上喋るな。」
リリを小突いた奴隷商の男に威圧を向けて黙らせると、5人を連れて商館を後にした。
ソウジは彼らを戦いに巻き込む気はない、リリを見てしまったから、彼女を護るための人選だった。
「あ、あの、選んでいただいてありがとうございました。体の不自由な人たちのお世話は大変だったけど、苦ではなかったです。でも暴力を振るう人たちから離れられてうれしかったです。」
リリはソウジが何のために彼女らを選んだのか説明されていない。
戦闘奴隷と借金奴隷の時は大臣が付いてきて説明をしたが、不衛生極まりない欠損奴隷の居住空間に嫌悪して帰っていったのだ。
もしかしたらこれから城に戻って報告や手続きをしなければならないのかもしれないが、ソウジはこのまま魔王討伐に出発することにした。これ以上無茶な命令を聞く気にはならなかったからだ。
大臣が先に帰ってしまったから抜け穴のような状態だが、最終的に魔王討伐に向かうならば今の状態は比較的自由な状態にあった。
代わりに路銀は全くない状態だが、冒険者に登録すればそれもなんとかなると思えた。
「拠点がねえと鍛冶はできねえからな。お前の武器は全部俺が作ってやる。」
「なんだよ、俺は連れて行けよ。剣を振るう以外になんもできねえ女なんだからよ。よくみるとお前いい男・・・でもねえけど、夜の相手もしてやれるぜ。」
「わ、私は戦えませんよ。魔法は得意ですけれど逃げ足は遅いし、足を引っ張ることしかできません。」
「養ってた家族が居たんだ。村が国に接収されてどこに居るのかもわからないけどね。ことが終った後にあんたが私らを解放してくれるなら何でもするよ。あそこに居たらいつまでも探しに行けないしね。」
「か、解放してくれるなら私も戦いたい。お金いっぱい稼いで奴隷の人たちをみんな買ってみんなで暮らすの。」
俺がどういう立場でこれから何をしなければいけないかを話したときの彼らの答えだ。
後のSランク冒険者パーティ『リリウルフ』誕生の瞬間だった。
「ありがとうみんな、期待してる。それからリリ、心配しなくていい。俺がみんな開放してあげるよ。俺に今かかってる制約は魔王討伐だけだから、魔王さえ倒せば自由だ。魔王の国を乗っ取ってそこに新しい国を作っちゃおう。」