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第25話 蜘蛛

 カップの中で大きな蜘蛛が動いた時の、嫌悪感。

 先ほど聞いたばかりのフレーズを口の中で転がしながら、私は問いかける。


『……イザベル様は、どうしてそれらの最低な行いをミリア様がやったとお思いなのでしょう?』

「それは、見てしまったからです。ミリア様は誰にも見つからないようにそういうことをしていたのですが、偶然私だけが目にしてしまって。もともと3人でよく使っていた場所でしたから、ふと訪れた時に見てしまったのです。それから、私は、こっそりと、ミリア様の後をつけていましたから、全てをこの目で見ました。……わかっているのです、その時誰かに相談していればよかったと!」

『いえ。ミリア様はイザベル様にとっても、大切なご友人だったのでしょう? 迷われるのも当然です』

「ありがとうございます」


 すみません、取り乱してしまって。

 そう言ってカップに伸ばされた手が、空を切る。倒れたそれを困ったように見つめている彼女に、私は重ねて問いかける。


『他の方々は、そのことをご存知だったのですか?』

「いえ。きっと誰もがうっすらと察していたとは思いますが、皆様関わらないようにしていらしたので。当然のことで、責めるつもりはありませんが。皆、見て見ぬ振りという状態だったと思います」

『でしたら、協力者などもいなかったのですか? 全てはミリア様の暴走だということでしょうか?』

「はい。……すみません、暴走という言葉はやめていただけませんか? 事実かもしれませんが、私、ミリア様のお気持ちも思わずにはいられなくて」

『申し訳ありません。感情のままに話してしまって』

「いえ、私の方が非常識なことを言っているのはわかっているのです。すみません」

 

 ミアがエイミー様に嫌がらせをしている現場を見たのは、イザベル様だけ。


『……辛いことを思い出させてしまって、ごめんなさい。本当に、苦しかったですよね』


 ぎゅっと、手元のテーブルクロスを握りしめた。できた皺を見つめるように、顔を伏せる。


 蜘蛛を見るたびに飛び上がっていたミアを思い出す。あの家に住み着いていた小さな蜘蛛でさえ、ミアは本気で嫌がっていた。聞いた話によると、幼い頃、朝起きたら目の前に張り付いていたことがあってトラウマになっているのだという。いつもは微笑みをたやさないミアの顔が本気で引き攣っているのは珍しく、内心密かに面白がっていた。

 そんなミアが、嫌がらせに蜘蛛を使う?


『私、悔しくて。何か、エイミー様のためにできれば良いのですが』


 協力者はいない。もともとミアの方が家柄は低かったという話だから、ミアが嫌がらせをしたとしても、協力するような愚かな人間はいないだろう。

 だとすると、実行犯はミアだけ。


「ありがとうございます、レイリア様。エイミー様も、それをお聞きになれば喜ばれると思いますわ」

『イザベル様。私に何かできることがあれば、なんでもおっしゃってください。私ごときが差し出がましいことですが、私、イザベル様のお力になりたくて。今までにも、たくさん助けてくださいましたから』


 この人は、信頼できない。


「ありがとうございます、レイリア様」


 顔を合わせて、私たちは微笑みあった。




 そこから、当たり障りのない話をしたのだと思う。正直なところ、内容はあまり良く覚えていない。

 帰りましょうか、とイザベル様が言って。もしよければ、と差し出された、彼女のお気に入りだという香りの良いお茶を膝に乗せて、私は馬車に揺られていた。

 

 久しぶりに乗った、馬車、というものにも最近やっと慣れてきた。最初はふわふわと揺れるのが気持ち悪くて、なかなか馴染めなかったのだが。


 イザベル様の真意が掴めなかった。

 彼女の話を聞くと、ミアの行動だとは思えない。けれど、嫌がらせの現場を見たと言っている以上、ミアの行動でないなら、エイミー様に嫌がらせをしたのはイザベル様、もしくは彼女と協力関係にある人だということになる。

 そうだとしても、イザベル様がエイミー様に嫌がらせをする理由が見当たらないのだ。彼女は、よく知られているように、彼女も言っていたように、エイミー様と親友だったはずだ。

 

 考えたところで、わからない。

 真相を知っているのは、きっとその当事者の3人だけだ。エイミー様に話を聞くのは、無理だろう。私もそんな酷なことはしたくないし、ルーカス様が許すとも思えない。

 そうなると、ミアに話を聞かなければならない。


 覚悟を決めるしかない。



 

「どうぞ」


 帰宅し、ゆっくりと午後の時間を過ごしていると、紅茶が差し出された。いつも通りの微笑みを浮かべたつもりが、緊張が見えてしまったのだろう。そのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、ミアが少しだけ躊躇ったように腕を引いた。


『ミア。……この紅茶、イザベル様に頂いたの』

「そう、ですか」


 一瞬で、ミアの表情が凍りつく。手を伸ばして、彼女の腕を掴んだ。

 まさに退室しようとしていたミアは、強張った表情で、掴まれた自分の腕を見下ろす。


『ミア、少し話をしても?』


 諦めたように、ミアは笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに真相が…!?ミアは良い子だって知ってるからそこは安心だけど、何故そんな事件が起こったのか全く分からないのでドキドキです… 更新が待ち遠しいです…!
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