泣けない僕
僕には可愛い幼馴染がいた。
過去形なのは亡くなったとかではなくて今は綺麗とか美人の方が似合ってるから敢えてそうした。
そんな幼馴染の顔を僕はあまり知らなかった、なぜなら僕は目が見えないから。でも声も、性格も、手の大きさとか結構知ってる。目が見えなくてもただ彼女と一緒にいるそれだけで意外と多くの事を知れた。
彼女とは物心がつく前から一緒にいた。
その時は名前を覚えてはいなかったけど、いつも横にいて「ねぇ」と話しかければ笑って「なあに」と返事を返してくれた。
今となれば馬鹿げた話かも知れないけど、彼女は目が見えない僕にこんな事も言ってくれた。
「〇〇と、結婚してあげる。」
「結婚ってなに?」
「わかんない、パパとママみたいに仲良しでいつも一緒にいるってことじゃないの?」
「そうなのかな、わかんないけど。僕も結婚する」
「でも僕目が見えないから迷惑かけちゃうかも」
「大丈夫だよ。いつもみたいに私と手をずっと繋いでれば。〇〇もそれで安心するでしょ」
「うん」
積み木で遊んだり土遊びや絵本も僕にはうまくできないお昼寝もするけど普段と殆ど変わらない。
折り紙の時間だってうまく折れないしそもそも出来上がりを見れない。もちろん手で触れば大まかな形はわかるけどそれでも僕にはそれが限界だった彼女からどんな形とかそれを見てどう思うのかとか。教えてもらう事でやっとそれが人にとってどう言うものなのか知っていった。
その時の絵本の内容と最後だけ僕は覚えてる。
少し怖く感じてその日は一人でトイレに行けなくなったから。
「それでいっぱい生きてる人に悪い事をして、強くなって、死んだ後から好きな人と結婚をしましたとさ」
小学校に上がった。
僕は目が見えないから特別なクラスに入り彼女は「一緒のクラスじゃなきゃやだ」と駄々をこねてたけど結局無理があるとのことで別々になった。初めの頃は昼休みになるとよく遊びに来てくれたけど学年が上がるごとにその頻度も落ちた。そして6年生の頃には金曜日に先生がくれるお菓子をもらいにくるだけになっていた。僕は嫌われたんじゃないかと不安になって相談したすると先生がはそれは当然の事で相手にも僕以外のの友達ができるし僕とはできない遊びもその友達とはできる。だから、「その子を、責めないでね」って言われてそう言うものなんだと納得した。
もちろん責める気などさらさらなく、むしろそれまで一緒にいてくれた事に感謝したし、下校時間には殆ど毎日迎えに来てくれるから先生が心配する方向には気にしてなかった。
中学生の頃もなんやかんやあって彼女は僕に会いに来てくれた。ただ小学校の頃より、家に来て、僕に友達の愚痴を言ったり本を呼んでくれたりしていた。あと、普通の話もした。
「なんで〇〇は目が見えないのに勉強ができたの?
私なんて見えてるのに全然わからないんだよ。」
「それは、わからないけど、僕は目が見えない分一度で理解しないといけなかったりして脳がきたえられてるんじゃないかな?あとは目が見えない分神様が頭を良くしてくれたのかも」
「前も聞いたっけ?」
「聞かれたけど、」
「ごめん、」
「別にいいよ、謝る事じゃない。」
「僕の方こそいつもごめんね」
空気が暗い、それを拭うように彼女は話を終わらせようとした。
「また、私の話聞いてくれる?」
「うん」
普通の話と言っても基本僕について周りの子がどう思ってるか話を聞いているだけ。
どうやら彼女いわく僕はイケメンらしい、それでいて優しいし頭もいい、そしてその話を聞くたびに彼女は少し胸の内側が痛くなるそう。
これからの話もした。
「高校はどうするの?」
「高校はわかんない、でも先生が言うには今の学力で県内で行けない学校はないんだって、だから僕が選ぶ事になると思う。」
「じゃあ、私と同じ高校にして、そうすればこれからも色々教えてあげられるから。それに私がいた方が安心するでしょ?、、、なんてね」
「安心はするけど、これかも迷惑かけるわけにもいかないからよく考えからにする。だからまだまって」
「聞いても意味ないか」
「それはちょっと酷くない?」
高校に上がった。僕らは同じ高校に結局進学した
だけど僕には友達は増えなかった。ずっと君と一緒にいるかひとりぼっちだったから。一学期もあっという間に終わった。
「ねぇ、高校も楽しいね。目は見えないけど君がいてくれるから楽しいよ。僕たちずっと一緒にいれるかな。」
「一緒にいようねっ約束したでしょ!」
「もう、声が大きいよ、今日は特別な日なんだから怒らないでよ」
何故か彼女は声を荒げた。僕の言葉のどこに問題があったかは分からないけど。次気をつけるしかないだろうから笑いながらはぐらかす。
それから、夏休みに二人で遊びに行った。帰り道に僕は不意に彼女の話を聞いた。正確には二人じゃなくて彼女の友達もいたけど。
「××ちゃんはさ好きな人とかいないの?」
「いないよもう」
「もう、って前までは好きな人がいたみたいじゃん。どんな人、」
「一回しか言わないからね、その人は優しくて、かっこよくて、誰よりも私を頼ってくれるのそれと頭も多分いい。そんな人」
大学生になっても社会人になって働いても、彼女と僕は毎年会う。
成人した時には、彼女がお酒を持ってきて二人で飲んだ。
社会人になったら、僕と似た人が先輩にいるってわざわざ教えてくれた。
それから2年程経つと彼女は重大な話をしたいと言って許可もしていないのにこんな事を話してきた。
「〇〇、私、結婚しようと思うの、この前言った先輩と。」
「いいんじゃない」
僕からは何も言えないだろう、彼女の人生なんだから。でも少し悲しい気持ちがあるのは多分隠した方が彼女のためでもあり一番幸せな方法だと僕は思う。
僕がした事は彼女を悲しませる、中学生になって彼女が泣いた事には大抵僕が関わっているから。
「〇〇さ、優しかったじゃん。先輩も優しいけど、〇〇ほどじゃない。でも仕方ないよね。
先に結婚しよって約束を破ったのは〇〇だもん。
来年は先輩を連れてくるよ。〇〇の事紹介させて」
「わかった。スーツでも着とこうかなぁ。幸せになってね。僕じゃ君を泣かせる事しか出来ないから」
「止めてくれないんだね。」
そんな事言われても、僕には言えないよ。
振り絞って出した声はあまりも力が入ってなく言った僕ですら本当に口を動かしたのか疑うほど小さな声だった。
「じゃあ、、結婚しないでよ」
「聞こえないよ」
「なんでもない」
「やっぱり何も言わないのね。あの時みたいにあなたは」
僕が君と一緒に出かけられるのは夏の13日から15日
だけ、僕は死んでいるから
小学6年生の頃僕をいつもは迎えに来てくれるはずだった彼女は友達と帰ってしまったから一人で帰った。
そしてその帰り道に車に轢かれて死んだ。
死んでから49日間僕はずっと君に謝られて、その光景を僕は見ていた。だから僕も謝った。
沢山謝った。
「ごめんね、僕の方こそ約束守れなくて」
彼女が老衰で亡くなる間際、驚いたような顔した後、笑って最後にこう言った。
「〇〇、会いに行くね。もう二度と離れないから」
「プチッ
」
やっぱり君は笑った時の方が可愛いよ。昔の君みたいだ。なんてね、死ぬ前は目が見えなかったからよく知らないはずなんだけど
脈拍が止まったのを確認して少し離れた位置で僕は独り言を言う。これまでのように。
「僕はずっと横にいたんだけどな、それに僕は××と同じとこには行けないんだ。だって僕は」
「自殺したんだから、だからほら君はしわくちゃなのに僕は12歳の頃の体のまま」
「君が生まれ変わってくるのを楽しみにしてる、、早くしてね。××ちゃん」
それにしても本当に自殺すると成仏できないんだな。
今日初めてその事を嫌に思ったよ。
そして久しぶりに目があった。
久しぶりに僕は目が痒くなって、目をかいて死んでいる事をまた自覚させられた。死んだら涙もでいないでただ胸がイタイ、車に飛び込んだあの時よりずっとずっと辛い。
「君がいけないんだよ、今も昔も僕は君だけだったんだから」
「本当にごめんなさい。」
「それよりごめんね僕の方こそ、君に見えるようになるまで時間をかけすぎて」
「絵本覚えてたのね、それと仕方ないわ〇〇は優しいから」