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第5話 邂逅

スコット君のカウンセリングから1週間。


あれから三人のカウンセリングを行った。


分類グループの周辺ジョブに適正があった女子生徒が一人。

親兄弟とは分類グループが違うが3代前の祖先と同じジョブに適正があった男子生徒が一人。


もう一人はなかなか青い霞が出ないので、再度家族や一族のジョブ構成を洗い直してもらっているところだ。


ちなみに記念すべきカウンセリング第1号であるスコット君の結果が判明するのは当分先になる。

何しろ、剣士・弓士・槍士・斧士・盾士の五つのジョブの取得条件である、各ジョブ基礎技術を全て網羅する必要がある。単純に5倍の労力だ。


ただ彼の場合、近親に弓士や槍士がいた。多分才能自体には恵まれているはず。最短でも半年は掛かるだろうが。



カウンセリングが無ければ、今のところ俺に降って来る仕事は無い。

ここ一週間の空き時間は学園の校内探索と、授業の見学に充てていたが、そろそろ一段落というところだ。


実家には生存連絡も兼ねて現状報告の手紙を出しておいた。

他国とは言え、再び貴族社会に接する様になった事を伝えておかないと、大事にしてくれた家族に申し訳無いからね。


ついでに家を出る時に整理した過去の研究資料が残っていたら送ってもらえるようにもお願いしておいた。五年経っても大部分は記憶の中に残っているが、書類として整理してあるのと無いのでは大違いだ。



そういえばあれから、ミーシャさんとアメリーさんと三人での昼食がすっかり定番になってしまった。

相変わらず男性諸君の目が厳しい気がするが、カウンセリングした四人やその友人たちは会うと挨拶をしてくれるので、認知度も少しづつ上がっていると思われる。


噂をすれば、そのうちの一人の女子生徒がこちらに近づいてくる。


「アイゼル先生、先日はご指導ありがとうございました。先生から勧められたジョブの取得条件ですけど、何だかびっくりするくらいスムーズに進みます。来週くらいには達成出来そうです」

そう笑顔で話す様子からは本当に順調らしい。


確かに、覚醒できるジョブの取得条件は、出来ないそれよりもかなり順調な事が多い。適正があるから当然と言えば当然だが。


「失礼します」

彼女が去ると、ミーシャさんが話を変えた。


「ところでアイゼル先生。そろそろ講義についても本格的に準備に入って頂きたいと考えていまして。午後は不定期でカウンセリングが入りますので午前中として、中等部と高等部で毎週1枠づつになります」


いよいよ授業か。俺も考えていた事を口に出す。

「毎週午前中に2枠というのは了解しました。実は帝国の家から研究資料を取り寄せていまして。研究資料が届いて整理出来たら開始という事でお願い致します。なるべく急いで支度しますので」


「そういえば、アイゼル先生はエーダライン帝国のご出身なのですよね。ご実家は帝都ですか?私帝国には行った事が無いのですが、経済大国で有名ですよね」


「ええ、家は帝都です。と言っても侯爵家に仕える、しがない騎士爵家の出なので、普通の家ですよ。身分も暮らしも平民と変わりません」


昔の素性を突っ込まれたくないので、サラっと流すが、興味が尽きない様で、また話を聞かせて欲しいと頼まれた。





今日明日は学園がお休みなため、平民区に買い物に出掛ける事にした。

夕食の時に、アメリーさんに「レオ様、お出かけしたいです!」と切り出され、ヘリング卿にも娘を頼むよとお願いされたら、まあ断れないよな。


ここ一週間はへリング邸と学園の往復だったし、その前の1週間はヘリング邸に来たばかりでバタバタしていたので、インドア派の俺とはいえ気分転換に出掛けるのは嫌じゃなかった。


このコルティラ王国の王都は、王城を中心に貴族区があり、その周辺に平民区がある。平民区には商業区や工業区が含まれているが、それほど厳密な感じじゃない。その辺は肥大化を重ねて何度となく拡張区画整理と再開発を進めたエーダラインの帝都とは大違い。


国民の気質も、幾分穏やかでゆったりしていておおらかな、農業国コルティラらしいっちゃらしいな。


アメリーさんと雑貨や服なんかを覗きながら、お茶して、一日まったり過ごす。そういえばこの国に来てからこれ程のんびりしたのは初めてかもしれないな。


こういう日も悪く無いな。とヘリング邸に戻ると、入口に豪華な馬車が停まっている。来客の様だ。

ん、何かこの馬車違和感がある。何だろう。





「おかえりなさいませ」

珍しく執事のゲオルグさんが玄関で出迎えてくれる。

「ゲオルグ、お父様にお客様が来ているの?」


アメリーさんが訪ねると、俺の見て少し緊張した様子で答えが返って来た。

「いえ、レオ様宛にお見えになられています」



俺に客?

と、さっきの馬車の違和感に思い当たる。

あんなに豪華な馬車なのに、家紋や意匠など、誰の所有なのか推測できる特徴が省かれている。むしろ意図的に特徴を排除して所有者を悟らせない様な工夫が施されていると言い換えても良い。


これほどのお忍び専用車を用意できる相手で、俺の客と言えば、思い当たる節しかない。


「ゲオルグさん、ご対応ありがとうございます。お客様はどちらにいらっしゃいますか?」


アメリーさんと別れ、ゲオルグさんに案内してもらい、扉の前で一呼吸してから扉を開いて部屋に入った。


はい。予想通り。

そこにはマティアスさんと向かい合せに座る、俺の兄。

そして。驚くべき事に予想外のもう1人が後ろに立っていた。



「お久しぶりです。兄上」

「逞しくなったか?元気そうで何よりだよ」


アイディング侯爵家次期当主のクリフォード兄上は、俺に優しい視線を向け微笑みながらそう言ってくれた。


思えば、父も母も兄も姉も、家族全員、俺のジョブの事に一緒に取組んで、そして一緒に心を痛めてくれた、大切な家族だった。

貴族からの離脱も、家を出るのも最後まで思い留まる様に言ってくれたのも兄上だ。


俺なんて迷惑しか掛けてないのに、こんな所までわざわざ来てくれるなんて。ああ、本当に頭が上がらないな。


「本当は、父上も母上も絶対会いに行くと譲らなかったんだが、まさかアイディング侯爵家が家族揃って出国する訳にも行かないしね。ひとまず素早く動ける私が様子を見て来ますって事で飛び出して来たんだよ」


兄上の言葉が身に沁みる。


「こんな俺のために。。。ありがとうございます。クリフ兄上。手紙にも書きましたが、こちらのヘリング卿に拾って頂いて、つい先日から王立学園の講師として勤務する事となりました。今はこちらでご厄介になっています」


そうらしいね。と兄上。

俺が到着する間にマティアスさんにこれまでの経緯を聞いていた様だ。


「お前がその気なら帰国して家に戻って来れば良いとも思ったが、手紙を読む限りこちらで講師をするという事について前向きな様子が汲み取れたものだから、まずはお土産を持って様子見に来たという訳だよ」


兄上、変わらないな。

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