死神契約
少年は死んでしまった。死因は生肉を食べてしまった事での食中毒、ようは単なる凡ミスであった。
意識が無くなり自然に目が閉じる。
そうして気がついた時には見知らぬ草原に立っていた。
見たこともない植物や生物から少年はそこが恐らく異世界であり、自身は所謂転生をしてしまったのだと断定する。
自身の死の苦しみやもう出会えない家族や友人を思い返すと少年は涙し、その場で立ち尽くした。
やがてその泣き声を聞いてか草むらから1人の少女が現れる。
少女は少年を一目見ると笑顔でその涙を拭き取り、家に連れ去っていった。
少年の目の前に置かれたのはコップ一杯の赤い液体と大鎌を手にした少女。
「さ、飲んじゃってください。」
「キエー!」
「どう?これがあの伝説の魔鳥よ!」
「シュルルル!」
「私のはかの伝説の戦士を呑み込んだ最悪の大蛇さ」
私達はリープと呼ばれる死神のエリート集団だった。
リープには自身の血液を見定めた魂に与えることで契約を結ぶ死神契約という術がある。
周りのリープはその契約によって伝説の生物や戦士を自身のパートナーとして使役していた。
そんな中、私だけどんな危険地帯や秘境にいってもそんな素晴らしい魂と出会うことが出来なかった。
私達の里では死神契約を終えたものから里を出て、使命の遂行を始める。
契約相手を見つけられない私はいつまでも里を出れず実家暮らし、年々冷たくなっていく両親の目。
そんなある日だった。突然聞こえてきた泣き声が気になって草原の草むらを覗き込んだ私は、ついに運命の出会いを果たしたのだ。
見た目は普通の少年。問題はその魂だった。その魂はこの世界の人間のそれではない、似ているようで違った凄まじいオーラを放つそれは間違いなく異世界人の魂だった。
数百年、数千年に一度別の世界から現れるという伝説の存在。
考えるよりも体が動いた。私は少年を担ぎ上げ家にいれるとすぐに血を流し差し出した。
「さあ、私と契約しましょう。」
おかしいですね…。大体の魂は私達が頼めば飲んでくれると聞いたのですが…。
この世界では一般的にリープと契約出来るのはとても名誉なこととされている。最も少年はそんなことを知る筈もないので飲みたいわけがないのだが。
あ、目の前で出したの不味かったでしょうか。やっぱり他人の血なんてそうそう飲みたい物ではありませんし…。
しかしようやく巡ってきた契約の機会。目の前の少年を逃すという手は少女の中には存在していなかった。
別にこの少女に常識が無いわけではない。ただ数年待ち続けやっと訪れた機会にたがが外れてしまっているのだ。
「これって飲まなきゃダメですか…?」
「あっ…やっぱり嫌です…?」
残念そうにする少女に少年は罪悪感を感じてしまう。
やがて、この世界では客人に血を与えるのが、元の世界で言うお茶菓子のようなものなのかも知れない。
と考えた少年は一思いにコップを飲んでしまう。
ぱぁっと明るくなった少女は微笑む。
「美味しいでしょう?人間の血とは違いますから」
もちろん味など分かるはずもないが一思いに液体を飲み干す。
「ふぅ…」
「契約…完了です!!」
空になったコップが契約の証だった。