4_結末
魔王討伐の旅はすこぶる順調だった。
なにせ人類最強の勇者と世界一の魔法使いがいるのだ。
戦士(本当は騎士)と僧侶(本当は神官?)もそこそこ強いし、道端の魔物なんて敵じゃない。
ただ、大きな問題があった。
いくつもの街や村を訪れて困ってる人を助けて回ったりしたのにのにモテない・・・
2つの国ではお城に訪れた時に金銭的な援助と物理的な援助をしてもらえたけど、お姫様とは会ってもいない・・・
勇者だからモテるはずなのに。
いや、もしかしたら最初の国も含めて、どの国にもお姫様は生まれてなくて、王子しかいないのかもしれない。
きっとそうだ!
・・・でも、気になるから聞いてみよう。
「あの、今まで行った3つの国って、お姫様はいないのかな?」
「突然なに?いるわよ。3つの国全部」
「え?じゃあ、なんでお城を訪問した時に出てこなかったの?」
「そんなの当たり前じゃない」
「え?勇者が来てる時って普通出てくるもんじゃないの?」
「はぁぁぁぁ。あのね。お姫様が出てくる時は偉い人が訪問してくる時とか将来の結婚相手になる可能性がある人が来てる時とかだけなの」
「俺、勇者なんだけど」
「勇者っていうのは称号だけで、別に貴族じゃないでしょ。しかも、まだ魔王を討伐したわけじゃないから偉いわけでもないし」
「じゃあ、魔王を討伐したら会わせてもらえるのかな?」
「会わせてはもらえるでしょうね」
「それを切欠に結婚とか」
「ないわね」
「なんで!?」
「だって、魔王を討伐したら勇者一行は"世界"を救ったってことになるのよ。どこかの国のお姫様と結婚なんてしたら、一つの国が独占することになっちゃうでしょ。そうなると他の国が妬む可能性もあるし、関係が悪くなる可能性があるから。どこの国もそんな厄介事になる可能性は避けるでしょ」
う・・・
そっかぁ、お姫様とキャッキャウフフはないのかぁ。
「でも、街とか村で色々助けたりしたのに普通の女の人にもモテないんだけど・・・自分で言うのもなんだけど顔はそこそこいいと思うし、勇者なのに!勇者なのに!!!」
大事なことなので2回言いました。
「そりゃあそうでしょ」
「なんで!?」
「確かに見た目は結構いいと思うわ。でも、さっきも言ったけど、勇者っていうのは称号だけで職業じゃないのよ。しかも勇者は他の世界から来たから国籍もない状態で旅してるわけ。つまり今の勇者は住所不定無職の状態。モテると思う?」
「住所不定無職・・・」
「ちなみに魔王を討伐した後も、さっきの独占の話と同じで、どこかの国の騎士団には入れてもらえないだろうし、他の仕事も"世界を救った勇者"にさせるのは恐れ多くてできないし」
「ぐっ!」
「それぞれの国は生活の援助をしてくれると思うけど、一つの国に居着くと結局独占になっちゃうから、定期的に色んな国を回らないと行けなくて安定した生活とは言えないし」
「がっ!」
「さらに、いつ元の世界に帰るのかも分からない。突然いなくなるかもしれない人と恋人になろうなんて思わないし、ましてや結婚なんてねぇ」
もう精神力が尽きそう。
「つ・・・つまり、この世界で俺がモテる可能性はないということ?」
「そうね。可能性はゼロね」
チーン・・・
なんてこった。勇者として異世界に来ればモテると思ってたのに。
ネット小説は都合よく書かれてるだけってことか・・・
あっ!でも、ネット小説に良くある「スキル」とか「特殊能力」で「女の子にモテる」ようにしてもらえれば良かったんじゃね?
でも、もう遅いんだよなぁ。
「チクショウ!こうなったらサクッと魔王倒して、元の世界に帰ってやる!」
それからの勇者一行は、街や村も最低限しか寄らず、困っている人がいても魔王に関係なければスルーして、最短で魔王城に到着し、本当にサクッと魔王を倒した。
魔王を倒した後の帰り道でもパレードのお誘いなどは全て断り、最短で最初の国に帰ってきた。
国王への挨拶もサクッと済ませて神殿に向かう。
そして、最初に蹴ってしまった司祭さんに元の世界に帰ることを告げて中に入れてもらい、女神像の前で祈った。
(魔王倒したので、さっさと帰してください!)
すぐに周りが白くぼやけ始めた。
周りの景色が見えるようになったら、前と同じように、おしとやかそうで綺麗なお姉さんが豪華な椅子に座っていた。
「おぉ、おぉ、良くやったのぉ」
相変わらずお婆ちゃんっぽい喋り方だ。見た目は綺麗なのにもったいないなぁ。
「すぐに元の世界に帰りたいじゃろうが、実は別の世界にも魔王が生まれてのぉ」
「え?もしかして、そっちも倒してこいと?」
「うむ。もちろん今のままとは言わんぞ。追加でスキルを1つ付けようと思っておる」
「それって、女の子にモテるスキルでもいいんですか?」
「良いぞ。お前さんが行ってくれるのなら女の子にモテるようにしてやろう。ただ、無理にとは言わんから、元の世界・・・」
「行きます!行かせてください!女の子にモテるスキル付きで!」
「最後まで言う前に決断しおったのぉ。分かった。では、また別の世界に送るから頑張ってくるのじゃぞ」
こうして俺はまた別の世界に行くことになった。
スキルも付けてもらったし今度こそはモテモテになる!
そして・・・
「ゆうたたまー♡」
「ゆうちゃちゃまー♡」
「ゆうしゃさまー♡」
俺はモテモテになった。
ただし、小さい子限定だけどね!
俺の言い方が悪かったんだろうなぁ。
【女の子】って言ったもんなぁ。
【俺と+-5歳位の女性にモテるスキル】って言わなきゃいけなかったんだろうなぁ。
女神様はかなり正確なスキルを付けてくれたみたいで、14・5歳から上ぐらいの子には全くモテない。
「チクショウ!こうなったら、魔王倒した後もこの世界に居座って、この子達が大人になるまで待ってやる!」
勇者は知らない。女の子達は年齢が上がるごとに勇者への興味を失い、15歳になる頃には全く見向きもしなくなることを。
完
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「異世界の勇者がモテるのって現実的に考えたらおかしくない?」と思って、モテない理由をつらつら並べるために書いてみました。(異世界に転移してる時点で現実的じゃないだろというツッコミはご遠慮くださいw)
ちょっとでも「そうだよね」と思ってもらえると嬉しいです♪