2_依頼
白いモヤみたいなものが晴れると神殿?教会?っぽい感じの建物の中に立っていた。
思ったよりは広くなくて、入り口と思われる扉が正面にある。
視界に入る限りでは人はいなさそうだ。
「とりあえず外に出て誰か探すか」と思い、歩き出したのだが
ゴッ!
「がっ!」
何かを蹴った感触と叫び声がした。
恐る恐る足元を見てみると、スネを押さえて悶絶してる男の人が・・・
「すみません!まさか足元に人がいると思わなかったので!大丈夫ですか?」
「あ、あぁ・・・大丈夫です・・・」
涙目で大丈夫って言われても説得力がないなぁ。
「本当にすみません」
と膝をついた状態で目線を合わせて、もう一回謝った。
すると、男の人は大丈夫と言う意味なのか気にするなという意味なのか軽く手を振った。
落ち着くまで待っていると、その人はこちらを見て目を見開いた。
「あの、もしかして女神様が遣わしてくださった勇者様ですか?」
「えっと、はい。そうです」
「やはり!誰もいなかった場所に突然現れて、見たこともない衣服を着てらっしゃるので、そうではないかと思いました!」
「は、はぁ」
いきなりテンションが高くなったので、気が抜けた返事になってしまった。
あ、そう言えば服は女神様にお願いしなかったから、ネット小説を読んでた時のスウェットのままだ。
「あ、申し遅れました。私はこの国で司祭を務めております」
あぁ、この人が女神様に毎日祈ってた人か。
「まずは国王様に会っていただけますか?私が案内しますので」
スウェットのままだけど「着替えだけでも持ってきて」とは言いにくいので
「分かりました。よろしくお願いします」
と、とりあえずついていくことにした。
あ・・・靴もないや。
まぁ、靴下は履いてるし、さすがに国王様に会う前には着替えとか用意してくれるだろうから、それまでは我慢しよう。
案内してもらいながら司祭さんと話していると、どうやら昨日の夢の中で女神様が出てきて、「勇者を遣わす」ということを言ったらしい。
それで今日、神殿に来て、片膝ついて目を瞑ってお礼の祈りを捧げていたとのこと。
(俺が立っていた場所の後ろに、あの女神様の神像があった。)
その司祭さんの至近距離に俺が現れたんだけど、司祭さんに気づかずに歩こうとして出した足がスネにクリーンヒット!ってことだったみたい。
まぁ、何というか・・・
他に誰もいなくて本当に良かった!
だって、司祭さんの身長とか足の長さから考えて、多分片膝ついた姿勢だと顔がちょうど俺の股間に・・・
見る角度によっては誤解されていたかもしれない・・・
本っっ当ーーーに誰もいなくて良かった!
そのまま司祭さんについて行ってると、立派なお城に着いた。
司祭さんが衛兵さん(?)に声をかけて、一緒にお城の中に入っていったのだが、服の事は何も言わずに階段を登って進んでいった。
さすがに不安になって
「あの国王様に会うのに着替えなくていいんですか?」
と聞いてみたら
「その衣服のままの方が他の世界から来たことが分かりやすいので着替えない方がいいでしょう」
と言われた。
「なるほど」と納得したものの、さすがに靴下のままっていうのは変だし、正直言うと足の裏が痛い。
「すみません。靴下のままだと足の裏が痛いので、靴だけでも貸してもらえませんか」
「あ!今履かれているのは靴ではなかったのですね!失礼しました。では、靴はすぐに用意してもらいます」
「え?この世界には靴下ないの?」と疑問に思ったが、確かに司祭さんは裸足で靴を履いてるし、目に入る人を見ても同じように裸足で靴を履いている。
この世界の人はみんな石田・・・いや、やめよう。
不倫が文化な世界だとは思いたくない。
結局、庭師さんがたまたま予備の靴を持ってきていたらしくて、それを借りた。
ちょっと大きいけど紐で締めるタイプの靴だったので、ちょっとガポガポする程度だ。
そしてスウェットに靴という、"ちょっと近くのコンビニまで"スタイルで国王様の部屋に着き、司祭さんが声をかける。
「国王様、勇者様をお連れいたしました」
「おぉ!待っておったぞ!入れ!」
国王様の言葉で衛兵さんが扉を開いた。
「失礼しまーす」
と職員室に入る時みたいにちょっと小さな声でオドオドしながら部屋に入る。
いや、なんか目上の人とか偉い人の部屋に入る時ってそうなっちゃうよね。
部屋の真ん中ぐらいまで行くと、司祭さんが片膝ついた状態で頭を下げたので、真似して頭を下げたら国王様が話しかけてきた。
「ふむ。その見たことない衣服は確かに他の世界から来たようだな」
やっぱりスウェット着ておいて良かったみたいだ。
「畏まる必要はない。面を上げて楽にせよ」
とのことなので、顔を上げて立ち上がった。
「楽に」とは言われても、さすがに胡座をかいて座るのはねぇ。
「早速だが、魔王の話はどこまで聞いておる?」
「魔王が生まれて、この世界が大変だということしか聞いてません」
「なるほど。詳しく話すとな、魔王が生まれて、この世界が大変なことになっておる」
「いや、俺が言ったまんまやん!」
「おぉ、良いツッコミだ!」
えぇー・・・
「まぁ、ちゃんと話すと、ちょっと前に魔王が生まれたみたいでな、『我が生まれたからには魔物を統率して、人間や他の生物を滅ぼし、この世界を魔物だけの世界にしてやる』と各国の王に念話みたいなので宣戦布告してきたのだ。それからは実際に魔物が街や村を襲うことが増えた。今は何とかなっておるが、このままではいずれやられるということで困っておったところ、司祭が『他の世界から勇者が来る』というので待っておったのだ」
「なるほど。それで俺が勇者として魔王を倒せばいいんですね」
「その通りだ。お願いできるか?」
「もちろんです!ただ、一人では厳しいと思いますので、同行してくれる仲間がいればと思います」
「うむ。では、同行してくれそうな者のリストを作っておこう。あとは、武器屋と防具屋、道具屋には話を通しておくから好きな装備や必要な道具を持っていくがいい。その他にも旅の資金として10万G渡しておこう。ちょっと心もとないかもしれんが、各国の王にも勇者が来たことを連絡しておくから、それぞれの国で援助を受けられるだろう」
おおう!
棍棒2本と檜の棒と旅人の服を渡されて、お金も50Gぐらい渡されて追い立てられるのかと思ってた。
「そんなに色々してもらっていいんですか?」
「無論だ!世界の危機なのだから各国が援助をするのは当然だろう?むしろ、国を運営する予算もあるから、できる範囲内でになってしまうのが申し訳ないくらいだ」
「いえいえ!とんでもない!ありがとうございます」
「ただ準備には多少時間がかかる。今日は食事と部屋をこちらで用意しよう。恐らく明日には準備ができるだろう」
というわけで、その日は国王様が取り計らってくれた食事を食べ、元の世界で使っていたよりもフカフカのベッドで寝た。
そして夜が明けた。
目を覚まして、用意してくれた朝食を食べていると、国王様の部屋に来るようにと言われたので、食べ終わってすぐに国王様の部屋に行く。
話が伝わっているようで、俺を見て衛兵さんはすぐに扉を開けてくれた。
「おはようございます国王様」
「うむ。昨日話していた準備ができたぞ。まずはこれを渡そう。失くさぬよう身につけておくといい」
と言って、見たことのある物(真ん中に青い玉が付いている黄色い冠?サークレット?)をくれた。
え?これを身につけるってことは長髪にしてツンツン頭にしろってこと?
「えっと、髪はすぐには伸びないんですが」
「ん?何のことだ?ひと目で勇者と分かるように身につけておくだけで良いぞ。別に髪型は関係ない」
「あ、はい。分かりました」
「それを身につけておけば、武器屋と防具屋、道具屋で買ったものの代金は国から払うようにした。あと、他の国の王にもそれを身につけている者が勇者だと連絡した」
「ありがとうございます」
「あと、同行者のリストも用意したぞ。勇者から声をかけられたら、同行してほしいことを伝えておる」
渡されたリストをチラッと見てみると、名前と戦闘系統と普段いる場所が記載されているようだ。
あれ?性別が記載されてない。
「あの・・・性別が書かれてないようですが」
「魔王討伐に役に立つのであれば性別は関係ないと思って記載しておらん」
まぁ、確かにそうですね。
女性ばかりのパーティにすれば、モテモテハーレムになると思ったんだけどなぁ。
名前を見ても、見たことない名前ばっかりだから性別の判断がつかないんだよなぁ・・・
しょうがないから真面目に戦闘系統から選ぼうと思って詳しく見てみると、戦士系・武道家系・僧侶系・魔法使い系・商人系など見たことがある感じに分類されている。
貰った冠(?)といい、この戦闘系統といい、これはあの有名RPGで一般的な「ゆせそま」(※勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティ)にするしかないだろう!
「リストありがとうございます。3人ほどに同行をお願いしようと思います」
「うむ。移動や路銀のことを考えても、そのぐらいが妥当な人数であろう」
「あと一つだけ伺いたいのですが、余ってる服などはありませんか?」
「ん?服は道具屋で買えば良かろう。では頼んだぞ勇者よ!」
ということで、スウェットのまま城を出た。
靴は借り物だったので返した。
つまり、スウェットと靴下という格好で一人で街中を歩くことになったのだ。
街の簡単な地図も貰ったし、まずは道具屋で服と靴を買ってから仲間に声をかけに行こう。