1_転移
「はぁ・・・モテたいなぁ・・・」
良く読むネット小説の異世界モノを読みながらつぶやく。
俺はモテたことがない。
見た目・頭脳・運動・性格などを10段階評価したら、多分6と7ばかりになるぐらいなので、悪くはないのだが目立つほど良いわけではない。
今まで告白したこともあるがフラれたし、もちろん告白されたことなんてない。
フラれた時に言われたことが
「見た目もその他も悪くないっていうか結構いいと思うんだけど、特徴がないっていうかなんていうか・・・微妙なのよねぇ。ごめんね」
である。
もしかしたら影が薄いのかもしれない。
それに比べて異世界転移モノや異世界転生モノの男主人公は、だいたいモテている。
しかもハーレム化するぐらいにモテることが多い。
話によっては「会った女性が全員主人公に惚れてるんじゃね?」と思うぐらいである。
異世界モノのテンプレである勇者とかチートとか救世主的な感じになったら、これ以上の特徴はないし、影が薄くなることもないから俺もモテるんじゃないかなぁと思いながら
「でも、異世界転生だと1回死んじゃうからなぁ。痛いのも怖いのもイヤだし、残される家族とか友達とかに申し訳ないしなぁ。それなら帰ってこれるかもしれない異世界転移の方がまだいいかなぁ」
などと、現実にはないだろうことを真面目に考える。
そして、
「あー!、勇者として異世界転移してぇ!」
と叫んだら突然周りが白くなりだした。
「え・・・嘘・・・マジで?」
周りが完全に真っ白になった後、徐々に周りが見えるようになっていき、完全に見えるようになったら、目の前におしとやかそうで綺麗なお姉さんが豪華な椅子に座っていた。
「え、マジで異世界転移するために女神に呼ばれたの?」と思っているとお姉さんが椅子から立ち上がって微笑みながら話しかけてきた。
「良う来んしゃったね」
ん?
「いやぁ助かったばい!他の世界に魔王が生まれてくさ、その世界の司祭がうちの神像に向かって『このままじゃ世界が滅びるけん魔王ばどげんかしてください』って毎日祈りよったとよ」
え?これって多分博多弁だよね。なんで?
「うちもこのままじゃいかんって思いよったとばってん、直接手を出すのも良うないけん、どうすればいいやろかって悩んどったら、ちょうどあんたが『勇者として異世界転移してぇ!』って言うもんやけん、こらちょうど良かと思って呼んだとよ」
見た目と違う早口で話しかけられたギャップにびっくりした上に、博多弁を良く知らないので内容も何となくしか分からず思わず呆けてしまった。
「ん?どうしたと?ポケーッとしてから」
「あ、あの・・・言葉が分かりにくくて」
「え?なんで?あんたの世界の言葉で喋りよろ?」
「えっと、俺の世界の言葉ではあるんですが、馴染みのない方言なので」
「そうなん?」
「はい・・・」
「・・・」
「・・・」
「ちょ、ちょっと待ちんしゃい!」
そう言って女神様(?)は、後ろを向いてブツブツ言い出した。
「え?これで通じると思ったとばってん、いかんかったとかいな。なら、他の喋り方にせんといかんね」
考えがまとまったのか女神様(?)は振り向いて微笑みながら、あらためて話しかけてきた。
「おぉ、おぉ、よう来たのぉ」
ん?
「この話し方なら分かるかのぉ」
「えっと・・・はい・・・」
「うんうん、それなら良かったのじゃ。今までの話も分かりにくかったろうて、もう一回話すからの」
「はい・・・」
今度はお婆ちゃんっぽい喋り方になってる。
見た目は綺麗なお姉さんだからギャップが凄いけど、言葉の意味は分かるから気にしないようにしよう。
「実は他の世界に魔王が生まれてのぉ、その世界の司祭が儂の神像に向かって『このままじゃ世界が滅びるので魔王をどうにかしてください』って毎日祈っておったんじゃよ」
話すペースもゆっくりになりながら女神様(?)は続ける。
「儂もこのままじゃダメじゃって思っていたのじゃが、直接手を出すのも良くないでの、どうすればいいんじゃろって悩んでおったら、ちょうどお前さんが『勇者として異世界転移してぇ!』って言うから、これはちょうどいいと思って呼んだんじゃよ」
「なるほど。てことはお姉さんは女神様で間違いないですか?」
話し方がちょっとアレだから思わず聞いてしまった。
「そうじゃよ。そう見えんかの?」
いや、見た目じゃなくて・・・
「いえ、女神様だとは思ったんですけど念の為」
「ふむ。じゃあ続けるぞい。もう分かったと思うが、お前さんが勇者になって、その世界に行ってほしいんじゃよ」
まさに俺の望んでた展開!
これでモテモテに!
おっと、即答せずにいくつか確認しておかないと。
「その前にいくつか聞きたいことがあるんですが」
「ん?何じゃ?」
「まず、能力はどうなるんですか?普通の学生のままじゃキツいんですが」
「能力は人類最強にするから安心していいぞい。ただ、一人では魔王は倒せんから仲間は必要じゃろうがのぉ」
「なるほど。あと、言葉は分かるんでしょうか」
「話せないと色々困るじゃろうからのぉ。読み書きと話はできるようにするぞい」
「あともう一つだけ。元の世界には帰れるんでしょうか」
「魔王を倒した後に、最初に着いた神殿で祈れば、ここに戻ってこれるぞい。ただし、途中で死んだらどうしようもないがのぉ」
なるほど。つまり魔王を倒した後も神殿で祈るまでは異世界生活を続けることできるし、好きなタイミングで元の世界に戻れるわけか。
せっかくモテモテになるチャンスだ。
「他に聞きたいことはあるかの?」
「いえ、ありません。やります!」
「うんうん、いい子じゃのぉ。司祭には勇者を遣わすと伝えておくからの」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ頑張るんじゃぞ」
女神様がそう言うと徐々に周りが白くなりだした。
注:女神様の博多弁は分かりやすさ重視にしているので、丁寧語とタメ口が混ざっていたり、今はほとんど使われない言い方も含まれています。