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ホームランボール争奪戦

「アメリカ出張ですか」

「このご時世だが、平和友好アピールは必要でな。外務大臣の護衛だ」

「行き先がサンディエゴ海軍基地」

「日米同盟の強固さアピールだな」




 外務大臣の護衛と言うことで外交官に準ずる扱いではあるが、一応は入国審査を受ける。


「何だこのふざけた写真は」

「何だと言われても、一年前に撮った写真ですが」

「ジャパニーズコスプレか?普通こう言うのを正式な……写真……に……What?!」

「髪型は少し違うかも知れませんね」


 訓練の一環として叩き込まれた英語はきちんと通じたようである。




「すっげえ!」

「村田、落ち着け」

「だって見てくださいよ!空母ですよ!空母!」

「アレは空母じゃない、揚陸艦だ」

「へえ……わ、あれ、戦艦ですか?!」

「村田……今どきの海軍には戦艦ってほとんど無くてな、あれは巡洋艦って奴だ」


 ミリオタでない幹隆にそんな知識を求めるのは酷である。


「だが、村田が興奮するのもわからんでもない。あんなデカい軍艦、ワクワクする気持ちはわかる」

「ですよねー」

「だが、仕事だ」

「はいっ」




 同盟国の外相として相手国の軍事基地を表敬訪問。外相の訪問に何の意味があるのかと言われそうだが、木下外相は欧米を始めとした各国の受けが良く、平和的な訪問というのは現在のアメリカが平和のために行動してるんですよアピールにとても役に立つ。体よく担ぎ上げられたワケだが、水面下では色々な交渉も進められ、アメリカから色々と引き出せているらしく、長い目で見れば損はない。日本政府側の判断としては無事に訪問が終われば何も問題ない。


「本日はこのような……」


 外相の長い挨拶が始まったが、SPは話の内容よりも周囲の警戒に専念。セキュリティがしっかりしている場所ではあるが、一方で武器庫の中にいるのと同じ。そこらを歩いている連中が軒並み戦闘訓練を受けており、武器も普通に携帯している。


「一班、状況を」

「問題なし」

「二班」

「問題ありません」


 各班と連絡を取っている八木から少し離れて立っていた幹隆がその異変に最初に気付いた。


「八木さん、なんか聞こえませんか?」

「何だ?」

「……ヘリの音?」

「!」


 ガバッと周囲を確認するが見当たらない。


「全員警戒、ヘリの音がする」

「了解」


 八木には何も聞こえていないが、幹隆の能力はイヤというほど理解しているので、即座に対応を開始する。


「どっちだ」

「外相の左後方。あの軍艦の向こう側っぽいです」


 仮に幹隆の聞いた音が軍用ヘリだった場合、ミサイルでも重機関銃でもここまで届かせるのは苦も無いだろう。八木がすぐにアメリカ側のSPの元へ駆けていった。




「ありがとう、これは君への友情の証に」

「おお、ありがとう」


 地元メジャーリーグの有名選手のホームランボールが手渡され、がっちりと握手して挨拶が終わった瞬間、巡洋艦の向こう側水面スレスレにいたと思われるヘリが急浮上した。どこから持ってきたのか陸軍に正式配備されている軍用ヘリで、弾を素敵な勢いで連発しそうな機関銃に対戦車ミサイルがいいアクセントになった……ぶっちゃけ殺しに来ている感じである。


「何だ?!」

「急げ!」

「逃げるんだ!」


 大騒ぎをしている集団に向けてミサイルが発射される。あんなもの、直撃しようがしまいが、この密集状態では大惨事間違い無し。

 木下がはっきりとその弾頭を目に焼き付けた瞬間、


「収納っと」


 いきなりミサイルが消える。


「あとの処分が大変だな……っと、木下大臣、隠れて」


 距離を詰めてきたと言うことは機関銃による無差別発砲に切り替えるだろう。範囲も広いので幹隆一人では守り切れない。

 八木が素早く大臣の手を引いていくのを確認し、


「迎撃します」


 一言断りを入れて――誰も聞いていないが――手近にあった物を掴む。


「でいっ!」


 投げられたそれは、そのままヘリの風防ガラスを突き破り、天井を抜けてローターの軸を破壊。そのままヘリは墜落していく。


「で、折れたローターが飛んでくる、と」


 空中で掴んで人のいない方へ放り投げて、墜落したヘリの近くに着地。既に燃料に引火して燃え始めており、中で二人の男がもがいている。見殺しにしてもいいのだが、色々と吐いてもらう必要があるだろうからと、ガラスをぶち抜いて引きずり出し、アメリカのSPの方へ放り投げた。あとの対処は向こうに丸投げ(物理)でいいだろう。


「村田、大丈夫か?」

「こっちは問題ありません」

「了解、戻ってこい」

「はい」


 通信を受けてすぐに向かう。

 幹隆の耳は頭の上の狐耳である。当然そんなところにはまるイヤホンなど無く、特注品。耳に軽くクリップで止めると、髪留めのように見えるのだが、実用重視のために武骨そのもの。茜が見たら激怒すること間違い無し。勿論持ち帰らないし、テレビなどに映ることも無いから気付かれることも無いが。


「一旦、あの建物、ブリーフィングルームで待機になった。村田は少し周囲を見てきてくれ。怪しいと思った物を見つけたらすぐに連絡を」

「了解」


 返事と同時に目の前から消えた部下を頼もしいと思いつつ、プレゼントで渡されていたホームランボールはどこへ行ったのだろうかとどうでもいいことを考えていた。この後の報告書をまとめる苦労からの現実逃避である。




 ちなみに、ボールはミサイル巡洋艦の装甲を突き抜けた船内で発見された。かなり酷い状態だったが、かろうじて原形を留めていたのは奇跡と言えるだろうか。

 そのボールの扱いについて、アメリカ野球殿堂博物館に収蔵すべきと言う野球ファンと、アメリカ海軍国立博物館に収蔵すべきと言う軍関係者、ヘリの装甲改良のための提供を求めるメーカーと、捜査上の証拠品として引き渡しを要求するFBIが長いこと揉めたのは、幹隆にとってどうでもいい話である。

軍用ヘリについてたのは機関銃じゃなくてチェーンガンだろうって?

幹隆にそんな区別がつくわけ無いでしょう。

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