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俺の同期はなんだかおかしい

「おはようございます」


 週に二度ほど、十時少し前という遅い時間に出勤してくる同期に、新井は少しばかり不満を感じていた。

 通常、警察として採用される場合は警察学校に半年通うのが通例。そして正式に配属された後、年単位で経験と実績を積み、本人の希望と資格充分と判断されるとSPとして配属される。


「新井、警備部警護課への異動を命ずる……良くやったな、SPだぞ」


 前の部署の課長がそう言って笑顔で送り出してくれた。

 元々柔道と剣道の有段者で、拳銃の腕前も同期の中でも一、二を争うレベル。もちろん頭の方も常に努力を怠らず、現在はフランス語の学習中で、日常会話なら問題なくこなせるようになっている。

 そんな努力が認められたのだが四月一日付の内示が出たあと、もろもろの事情により正式な配属が遅れ、六月半ばに正式に異動。だが、ここまで異動が遅れた原因になったとしか思えない、SPとしての同期の一人がどうにも許せない。

 採用試験は合格しているが、警察学校は法務大臣が「不要」と無理矢理押し通し、さらに現場経験ゼロでいきなりSPに。

 これだけでも充分すぎるほどに異例中の異例だが、さらにその体格はSPの資格として求められる身長百七十三センチを大きく下回っているし、そのアニメから出てきたかのような容姿は緊張感という物が感じられず、ゆるっゆるな空気を纏っていてSPらしさが感じられない。

 おまけに頭の上に狐のような耳があり、背後に回ると尻尾もある。

 誰がどう見ても「イヤイヤおかしいだろそれは」と突っ込みたくなるところだが、どういうわけかそいつは通常は週に二度しか出勤してこない。

 だが、先輩たちがそこに何の疑問も持たず、当然のように振る舞っているので一番下っ端の自分が何を言えるわけもなく、もどかしさを感じる日々を送っていた。

 警察官としては先輩なのだが、SPとしては同期。配属タイミングのずれもあってなかなか話しかけづらい。




「終了!」


 宣言と共に膝をつく。

 SPは護ることを最優先とするため、人質救出のような突入を行うことは滅多にないが、戦闘訓練としては有用であるため、定期的に訓練に組み込まれている。

 犯人役となる相手側も、毎回いろいろな対応をしてくるため、一筋縄ではいかず、今回四グループ目の新井たちまで全グループが『失敗』であった。


「訓練だから失敗しても大丈夫」


 この考えは甘さを招きかねないのだが、


「失敗からしか学べないことがある」

「失敗から学び、次に活かす」


 この精神の元、各自が手元の紙に課題をメモしながら引き上げてくる。


「五分後、第五グループ開始。双方準備を」


 場内放送が響き、相手側がゴソゴソと準備に動き始める中、警察側がスタート地点の障害物の影に集ま……いや、一人だけだった。


「え、アイツ一人だけなんですか?」


 訓練はいくつもあり、ローテーションされるため、村田の突入訓練を見るのは初めてだったが、一人だけとはどういうことか?


「ほう、今日は村田は五番手か」

「三十秒かな」

「イヤイヤ、今回は相手も頑張ってるからな、三十八秒」

「そろそろ記録更新するだろ、二十一秒」


 先輩たちが妙なことを言っている。


「あの……アイツ一人なんですか?」

「ん?ああ、そうか。村田がやるのを見るのは初めてか」

「え、ええ」

「まあ、何の参考にもならないが、見ておいて損はないぞ」

「アレ見ちゃうとな、ハリウッドのアクション映画とかボンクラの社交ダンスに見えてつまらないんだよな」

「言えてる」

「ウチなんか、上の子がマー○ル大好きで付き合って観るんだが、こう……迫力がな」

「わかる!」


 何の会話だ?と思っていたら場内放送が開始まで残り一分を告げた。


「あの」

「ん?何だ?」

「アイツ、装備は?」

「えっ?」

「えっ?」


 訓練では当然実弾の入った銃は使わず、モデルガンの玉をインク入りの球にしてある銃を使用する。当然だが、怪我を防ぐためにもプロテクターを着用する。

 だが、アイツの姿は普段のまま、スーツに尻尾を目立たなくするためのコートのみ。

 銃を持っている様子も無い。


「ああ、アイツ……銃が壊滅的だからな」

「湯島さんが(さじ)投げたからな」


 警視庁でトップクラスの銃の腕前で指導もうまいと評判の男が匙を投げるレベルでSPっていいのかよ!と心の中で呟きながら訓練場を映した画面を見つめる。


「開始まで五秒」


 村田が両手にはめたグローブの具合を確かめ、目を閉じて集中し始めているようだ。

 隠れている塀(スタート地点)から建物までは十メートルほど。大した距離ではないが、この距離がどうしても難しく、今回の警察側四連敗の原因となっていた。


「つーか、何でグローブ?」

「ああ、知らないのか。あれ、殴るとインクがつくんだよ」


 訓練では撃たれた、つまりペイント弾のインクがつくとヒット扱いで退場だが、アイツはグローブと言うことは……


「銃相手に接近戦って事ですか?」

「アイツに取っちゃ普通だな」




「開始!」




 画面を見ると、既に塀の前にはいなかった。と言うか、いつの間にか二階の一室で二人を退場させていた。

 犯人側が人質がいるっぽく装った部屋にまんまと騙された形だが……


「どうやって二階に上がったんだ?」


 建物に近づくまでに三名が狙撃体制。中に入っても階段に二名が構えており、通路も数名が待ち構えていたはずだが。


「どうって……まあ、あとで録画映像見ろ」


 よくわからないが、あとで確認しようと思って画面を見たら、既に人質を救出し、最初に隠れていた塀まで戻ってきており、場内放送が終了を告げていた。


「終了……三十四秒」


 そのタイムに周囲が沸く。


「っかぁーっ、三十四秒か」

「人質ダミーが効いたな、アレが無ければ二十五秒切ってただろ」

「よく頑張った、犯人側よく頑張った!」


 称賛の仕方がおかしい。




 翌週、格闘訓練。

 講師役の八木が結構容赦ないので有名な訓練で初めて村田を見ることになった。


「どりゃっ!」


 ドガン!

 畳の上と思えない音をさせて八木が村田を投げ落とす。


「こうやって腕を引いて投げる」という手本を見せているのだから村田は無抵抗で投げられているが、どう見ても受け身を取っていない。

 大丈夫なのかと心配になるが、誰も止める様子が無い。




 何度も投げられ、髪がボサボサになり、舞い上がる(ほこり)まみれになった頃……


「うがああああ!いい加減にしてください!何回投げたら気が済むんですか!」

「ええい黙れ!お前しか手加減無しで投げられる奴はいないんだよ!」


 何だ?と思っていたら


「お、始まったな」

「今回はだいぶ我慢した方だな」


 先輩たちが微笑ましげに眺め始めた。


「とりゃっ!」


 村田の声と共に八木が大きく投げ上げられ、天井の(はり)に引っかかってぶら下がった。


「は?」


 天井までの高さは十メートルはあるだろうか……


「くっそ!おい!下ろせ!」

「イヤです!」

「コラ!」


 何だかよくわからない展開になってきた。


「村田がいると、だいたいこうなるんだよな」

「八木さんも程々にすれば良いのに」

「村田は投げやすいからな」

「体重軽いもんな」


 ハハハ、と笑う先輩たちを見ながら思う。


「何だこりゃ」


 あんなのが同期?認めてたまるか。




 勿論、一月もしないうちにその考えは百八十度変わることになる。

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