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秘密特訓って響きに、心惹かれる


 戦闘訓練:刃物を持った相手を想定

 刃こそ潰してあるものの、突いたり切りつけたりすれば怪我は免れないという訓練用の刃物を使用したが、素手で掴んで握りつぶしてしまうため、訓練が成立せず。




 戦闘訓練:格闘

 殴る蹴るも含めた、まさに総合格闘のような戦闘訓練だが、幹隆がドン!と踏み込むだけで半径数メートルの地面が陥没する。そんな打撃を受けて無事な人間に心当たりのある者がいなかった。




 射撃訓練:拳銃により数メートル先の的を狙う

 意外にも射撃の腕が絶望的であった。拳銃を触ったばかりだから仕方ないのだが。何となく薬莢(やっきょう)を指で(はじ)いてみたら的が粉砕されて向こう側の壁にめり込み、「銃より強いのかよ」と総突っ込みを受けた。




 射撃訓練:ライフルによる遠距離射撃

 全く当たらなかったのにイラッとした幹隆が、足下の小石を投げたら的の後ろの土嚢(どのう)ごと吹き飛んだ。「感情のコントロールを覚えろ!」と叱られた。




 実践を想定した訓練:護衛対象が車で連れ去られた場合を想定

 通常は車のナンバーを控え、即座に緊急配備を要請するのだが、アクセルベタ踏みの車に追いつき、ロックされたドアを引きちぎって無傷で救出。訓練用の車の修理費がなかなか経費で処理され(信じてもらえ)ず、課長が少しやつれた。




 実践を想定した訓練:夜間の強襲、救出作戦を想定

 救出対象のいる場所まで暗視スコープも使わず、何も迷うこと無く進み、一分もかからずに相手役に気付かれること無く救出。訓練終了を告げても相手側がなかなか信用しなかったため、その後しばらくギクシャクした空気になったので仕方なく課長が親睦のための飲み会を開催。コツコツ貯めていた小遣いが一気に吹き飛んだ。




 訓練の詳細はもちろん機密事項のため、幹隆は家に帰っても「いやあ、今日も色々勉強になったよ」とごまかすしか無く、川合家の三人も「頑張ってるならいいか」と何の疑問も持たない、実に平和な時間が過ぎていった。




 一ヶ月ほど訓練を重ね、課長に呼ばれた。


「村田、君がいるとな……訓練が訓練にならない」

「ですよねー」


 そんなことはわかっているのだが、自分から言い出すのは何か違うので黙っていた。

 と言うことで、幹隆の訓練は週に一回、射撃を中心とした基礎訓練と実践を想定した訓練で「自分が何ができるか」を仲間に知ってもらう事を目的にするという、謎のスケジュールが組まれるようになった。

 そして、訓練以外では……


「村田といつも組んでいると甘えが出る」


 と言うことで本来の業務である護衛も、多くて週に一度となった。その護衛も基本的にバックアップのバックアップ。つまり、後方支援の手に負えなくなったときに動くという……ぶっちゃけ待ってるだけの仕事である。


「お前はウチの秘密兵器だ」


 中学の頃、そう言われ続け、ベンチ入りすらしなかった奴がいたっけなと思い出していた。




「八木さん、準備出来ました」

「よーし……ちょっと待てよ……うん、あと二分で十時だから、十時ちょうどスタートで」

「わかりました」


 電話をかけたまま、靴を履き、玄関を出る。


「あと三十秒」

「今玄関出ました」

「映像送れ」

「これです……見えますか?」

「おーし……じゃ行くぞ、用意……スタート」


 合図と共に電話を切り、「(せわ)しないけど行ってきます」と家の中に声をかけるとタタタッと駆け出し、すぐに広い道路へ。そのまま近くのビルに飛び込み、階段を一気に駆け上がると屋上へ。


「風向き良し、方角はこちら……」


 そのまま屋上を駆け抜け手すりを飛び越えてジャンプし、百メートルほど先のビルの屋上に着地するとすぐにジャンプ。これを繰り返し、最終的に辿り着いたのは……


「この山を飛び越える……のはちと無理か」


 角度があまりよろしくなかったので断念。タンッタンッタンッとリズミカルに山を駆け上がり、


「どりゃあああああ!」


 全力でジャンプ。そして、


「落下速度のコントロール……狐火の浮遊!」


 数キロ先のビルの屋上にふわりと着地するとさらにジャンプを重ね、海が見えてきた。


「っと、砂浜にクレーターを作るのもマズいな。狐火の浮遊っと」


 ゆっくりと着地し、そのまま海へ向かって走り出す。


「右足が沈む前に左足を出し、左足が沈む前に右足を出す!」


 簡単な理論に従い、基本に忠実にやれば誰でも水の上は走れる。

 水面は幹隆の脚力を生かすには充分な強度はないが、いくら(えぐ)っても大丈夫という安心感があるので、全力疾走が可能だ。


「うおおおお!」


 水しぶきを上げながら海上を駆ける。文字通り二本の足で。




「八木、どうだ?」

「課長、今十八分経ちました」

「そうか……どうだ?」

「多分そろそろ着くと思います……ほら」

「おい、あれ……無事に着地出来るのか?」

「本人からは大丈夫だと聞いてますが」


 桜田門と呼ばれることもある警視庁は東京湾からわずかに三キロ程。海上を駆け抜けて最後に目一杯ジャンプして、狐火の浮遊でコントロールすれば……


「無事到着です」

「二十分かからず、か」

「じゃ、緊急時はこれで出動でいいか」

「いいんですか?」

「俺たちの緊急ってのは、発生した時点で国家の危機だからな。ヤバそうなときにはあらかじめ出勤させて現場に入れるだけ」

「わかりました」

「と言うことで、寮を出て伯父さんたちの家だっけ?そこから通いでいいぞ」

「新幹線の距離なんですけど、大丈夫ですか?」

「通勤手当、ちゃんと出すから定期買って申請しとけ」

「わかりました」

「夜遅いと心配するだろうから、通常出勤は朝十時から夕方四時まででいい。護衛任務の時はちょっと違うが」

「課長、お言葉ですが……夜遅いと心配って、コレに手を出せる男なんてどこにいるんですか?」

「ほら、家族が心配するのって一番マズいだろ?」

「世間一般ではそうですが」

「一応そこは世間一般に(そろ)えようぜ」

「はあ」

「ま、時間がどのくらいかかるかが心配だったが二十分切るなら問題ない。上にも話は通してあるから、これからはシフト勤務で、だいたい週に二回出勤。残りは自宅待機で」

「いいんですか?」

「周囲の山林駆け回って体力を落とさないようにしてればいい。あ、携帯は持って行けよ。すぐに連絡がつくように」

「わかりました」

「あと自然破壊には気をつけろよ」

「気をつけます」




 こうして警視庁への出勤は週に二度になった。

 幹隆はもちろん根が真面目なので、出勤しない日は近くの山を駆けながら人外レベルの力のコントロールの向上に努めていたのだが、当然その様子はご近所の方々にも目撃されている。


「川合さんのところのあの子」

「ええ、ほとんど毎日家にいて。○○山に登って時間を潰してるらしいわよ」

「就職したって聞いたけど、続かなかったのかしら」

「やっぱりあんな姿じゃあねえ……」


 言われているのは気づいているが、ご近所の噂大好きオバチャン相手に真相を話せるわけが無い。

 若干の肩身の狭さは感じるものの、それでも週に一度の訓練と護衛はしっかりとこなしながら日々を過ごしていた。


「機密事項故に話すことはできないが、誰に恥じることも無い生活をしているのだから、胸を張って生きる!」


 とやっていたらいきなり茜がわしづかみにしてきたのを、こめかみグリグリで撃退したのは先週のことである。胸を張るとは言ったが、つかめとは言ってない。

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