そこに山があるなら
「ミキくん、コレ見て」
「ん?」
茜が手渡してきたタブレットには某動画配信サイトが表示されていた。
「スニーカーズチャンネル?」
「うん」
「なんだこれ……」
「再生してみて」
ポチ、と再生ボタンを押すと軽快な音楽と共に四人の男女が現れた。
「どもー」
「スニーカーズでーす」
四人とも日本のどこにでもいそうなカジュアルな格好だが、背景はどこかのド田舎、というか大自然しか見えない場所。
「コレは?」
「見てればわかるよ」
「はあ……ん?」
帽子にサングラスですぐにわからなかったが、この四人には見覚えがある。
「稲垣、塚本、中山、松島……」
「うん」
「こいつら、何やってんの?」
「動画配信。続き見ればわかるわよ」
画面はぐるりと回り、どこまでも続くような岩肌を映し出していた。
「今回はこの!」
「K2、北壁に挑戦します!」
「ドンドンドン」
「パフパフ~」
「いえ~~~い」
何故かマラカスは持ってきているらしく、シャカシャカ鳴らしている。
「今なんて言った……K2北壁?」
「ちなみにそれ、先週生配信された奴の編集版」
「は?」
登山の、しかも世界有数の難易度を誇るK2北壁の生配信?
困惑を余所に動画は続く。
「では早速登ってみましょう!」
固定されていたカメラを塚本が手にしたらしく、他の三人の背中を追ってカメラが動き始める。全員防寒のため、パーカーに厚手のパンツだが、どう見ても日本の冬仕様。そして足元がズームされる。
「いつも通り!」
「スニーカーです!」
コレが名前の由来らしい。
動画の場面は切り替わり、岩肌に中山と松島が手をかけている。
「それでは登ります」
「今日こそ中山に勝ちたいと思います」
二人がコツンと拳を突き合わせると、稲垣が出て来る。
「では用意……スタート!」
手にしたハンカチを振り下ろすと同時に二人が岩肌に飛びつき登り始める。床を四つん這いで進んでいるくらいのペースで。
「二人の対戦成績は中山の四戦全勝、松島もそろそろ勝ちたいところですね」
「そうですね。稲垣さん、どうご覧になりますか?」
「いやあ、この崖では……やはり中山が有利でしょう」
「松島にも頑張って欲しいところですね」
「おっと、そろそろ我々も追いかけましょう」
カメラをどこかに括り付けたらしく、若干ブレた映像になりながら登っていく様子が映し出されるが、実際に見せられても信じられないペースで二人を追っていく。
垂直に近いような崖は、最高難度とも言われる北壁の一般的な登頂ルートではない。ただ単に北壁に向かって真っ直ぐ歩いてきてぶつかったその場から登っているだけ。そんな位置から登ろうなんて誰も思わないような所からのアタックであるため、特撮した映像と言われても仕方ないような内容。しかし、
「おっと、これは他の登山者が通るルートですね」
やむを得ず捨てたと思われる荷物を発見すると四人が手分けしてビニール袋に詰めていく。大きなバッグなんかはそのまま背負ったりもする。
生配信と違い、編集版は所々カットされるため、左上に字幕で「アタック開始から○分経過」と表示される。そして、その数字が三十分を超える頃、
「登頂です!」
「くっそ、負けた」
中山五連勝のテロップが大きく表示され、全員が登り終えると場面が切り替わり、麓の映像に。
「えー、と言うことで今回はK2北壁アタックでした」
「どうでした?」
「いやあ、難易度高いと言われるだけありましたね」
「ちょっと息苦しかったです」
「来月、エベレストですが、どうでしょう」
「酸素スプレーくらい持ってきますか?」
「気圧で破裂するんじゃね?」
「そっかぁ」
バカ話の後、動画は終了した。
「何なのこいつら」
「楽しそうだよね」
「これ……生配信とか、炎上してないか?」
「かなりね。CG合成だとか噂されてるんだけど」
「だけど?」
「時々他の登山者ともすれ違ったりするんだよね」
「おう」
「で、そんな人たちが下山後に『確かに彼らに会ったよ。クレイジーな連中だぜ、HAHAHA』とかコメントするから本物だろうって」
世界中の登山家たちの意見は真っ二つ。
「こんな合成映像信じられるか。仮に本物だとしても山を何だと思ってる」
こう言う意見の一方で
「アタック中のゴミ拾いには感心した」
ちなみにゴミの中には、遺品と呼べる物もあり、彼らのチャンネル宛てに遺族が連絡すると送り届けたりもしている。
「いいことしてると思うんだが、なんか素直に賞賛出来ない」
「ま、頑張ってるからいいんじゃない?」
「それはそうだが」
「ね、ね、ミキくん」
「何だ?」
「今度エベレストに行くらしいんだけど」
「行かないぞ」
「えー」
「勉強があるからな」
「大丈夫だよぉ、現地まで二日もあれば行けるでしょ?で、ミキくんなら三十分で山頂まで二往復位できるだろうし」
「やらないから」
内緒で剱岳に行ってみたら麓から山頂まで十分で往復出来たなんて絶対に言えない。言えるわけがない。
作者は時々近所の山のハイキングコースを巡ったりしています。
山を舐めたりしたことは一度もありません。




