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幹隆はカメラ写りを気にしない(前)

「村田、そろそろ交代だ」

「了解……ん、いいな」


 所定の時間になったところで、周囲を念のために確認してから見張りを交代し、休憩に入るべく、控え室へ向かう。

 認証カードを通して解錠して中に入ると、数名の同僚たちがくつろいでいた。と言っても、何かあったらすぐに動けるよう、装備は身につけたままという辺りがこの仕事の常である。


「会議、どんな感じです?」

「全然進んでないみたいだな」


 何代か並べられているモニタにはお偉いさんが並んでいる議場の様子が映されている。EU加盟国を中心とした財相会合だ。アメリカはもとより、日本も呼ばれるなかなかの規模の会合だが、かなりグダグダになっていて全然進んでいないらしい。

 幹隆たちが気にしているのは会議の行方ではなく、いつ頃終わるか、である。

 もちろん一人の社会人として、世界経済の行方というのは気になる話題ではあるが、それ以上に会議が終わる時間に合わせて動かなければならないので、あと一時間なのか、二時間なのか、といった目安は知りたい。なにしろ予定を三時間も過ぎているのだから。


「まあ、これは長引きそうだな」

「ですねえ」


 そもそもの会合のテーマがとても曖昧で、議論があちこち二転三転していて、まとまりがないのが原因だろうというのがこの場にいる者たちの見解。そして、どうして曖昧なのかというと、ここ最近のEUの景気がイマイチなのをなんとかしたいという、実にふんわりとした目的で開催されたせいだろう。

 そしてさらに、EU各国の目論見がどうにかして日本に「わかりました」と首肯させ、加盟しているいくつかの小国への支援金を出させ、自分たちの懐に入れようという、実に腐った狙いがあると、会合前に財務大臣が言っていた。数代前の財務大臣は切れ者と言われ、そういう動きを敏感に感じ取って、笑顔で斬り捨てるような者だったため、なかなか手強いと考える一方、今の財務大臣ならばと考えているらしいが、どうやらそううまくは行かないらしく、ノラリクラリとかわしている。まあ、国民の一人でもある幹隆は、税金が無駄に使われないのはいいことだと受け取るくらいしかできないか。


「ん?ちょっといいか?」

「どうした?」

「ちょっとこれを……こう」


 スマホを触っていた一人が立ち上がり、リモコンを手にモニタの一つを操作すると、すぐに地元テレビ局の緊急ニュースに切り替わる。


「ん?これは?」

「ああ……出る前にちょっときな臭くなってたとこだな」


 残念ながら財相会合開催国の言語に通じている者はここに一人しかいない上に、ニュースキャスターが早口で伝えている内容は半分もわからないらしい。


「ええと、とりあえずわかったのは……」


 数ヶ月前、中東のとある地域で宗教の教義の違いに端を発するとされる小競り合いが勃発。日本を出る直前の頃にはかなりの緊張状態になっていたのが、ホンの数時間前に本格的な武力衝突に発展したというわけだ。


「オマケに宗教的な物かと思いきや、国境線がどこであるべきかという、単なる領土問題なんだよな」

「宗教問題にすり替えれば許されると思ってんのかね」

「誰が許すんだって話だな」


 やがてニュースは一方の陣営が迫撃砲を並べて一斉射している様子に変わった。


「ま、いきなりどうこうなることはないと思うけど、気にしておくか」

「だな」


 何事かあったとしても、SPが全員ここにいるわけではないので、大臣クラスがどこかに出向くとしてもここにいる面々が動くことはないはずだ。何しろ、こっちにはまだ財務大臣がいるのだから。




「会議は踊る。されど進まず……だな」

「ええ」


 武力衝突から二日、完全に戦争状態に陥ったとして、国連の安全保障理事会の緊急特別総会が開催されたが、いつも通り、常任理事国が拒否権をちらつかせているために会議は一向にまとまる気配がない。そしてそんな様子を見ながら国連大使と外務大臣がぼやいていた。宗教上の衝突も、歴史的経緯により引かれた国境線の是非も日本人には馴染みが薄いので、これと言った有効な意見も述べられない。玉虫色の意見の得意な二人にとって、困ることはないが、終わりの見えない会議というのは実に面倒だ。


「あの地は五百年前から我々の土地だ!」

「何を言うか!八百年前から我々の祖先が住んでいた地だぞ!」


 当事国の代表が掴みかからんばかりになるのを周りがなんとか宥めようとしているのがすでに十分は続いていたが、唐突にそれは終わりを告げた。

 数発の銃声で。




「村田、課長からだ」

「あ、はい」


 見張りとして立っていたところに日本から連絡が入り、慌てて控え室に戻って電話に出る。


「村田です」

「詳細は追って連絡する。すぐに空港へ向かえ」

「空港……行き先は?」

「ニューヨーク」

「了解。直ちに向かいます」


 ピッと電話を切って顔を上げると、何事かと集まってきていた同僚たち。


「聞こえてましたよね?」

「ああ。すぐ向かえ」

「タクシー呼んでおいた」

「ありがとう」


 空港に着くと、スマホに送られていた窓口へ向かい、搭乗手続きを終えたところで、改めて詳細を確認する。


「は?なんだこれ」




 銃声と共に言い争っていた二人を含めた数名が倒れ、悲鳴に一瞬遅れてその場にいた全員が姿勢を低くした。


「何が起きた?!」

「わからん!」


 そっと、机の隙間から様子を伺うと、武装した男たちが数名、ドスドスとわざとらしく足音をさせながら中央へ歩みを進めているのが見えた。そして、一番偉そうに見える男が中央の壇上に立った。


「お集まりの皆さん、はじめまして!」


 シンと静まりかえったまま三十秒程経ち、男が銃を一発天井に向けて撃つ。天井の照明がパリンと割れてパラパラとガラスが落ち、真下から「ひゃっ!」と小さな悲鳴が聞こえた。


「俺が「はじめまして」と挨拶してるんだぞ!なんで誰も答えないんだ?!」


 さらにもう一発天井に向けて撃つと、そばにいた男の仲間が近くの机の陰に隠れていた男、事務総長の腕を掴んで引きずり出した。


「なあ、教えてくれよ!俺がガキの頃に教わった「挨拶されたら挨拶を返す」ってのは常識じゃないのか?」

「あ……う……そ、その……」

「どうなんだよ?!俺はママから非常識を教えられたのか?礼儀知らずに育てられたのか?」

「あうう……」

「どうなんだよ!」

「そ、その……」

「もういい。死ね」


 男と仲間の二人が同時に引き金を引き、三つの銃声。事務総長が倒れ、血だまりができた。


「よーし、それじゃあ……」




「正体不明のテロリストねえ……」


 最初の銃声からわずか五分で、国連本部内にいた各国のSPたちは追い出されていた。テロリストたちの装備が陸軍の一個大隊かという規模で、拳銃程度ではどうにもならなかった一方で、どういうわけかテロリストたちが追い出すのを目的に動いていたせいだった。


「そして中の様子は全くわからない、と」


 ビル内の監視カメラ映像を外から確認しようとしたが映像が切られていて、何がどうなっているかわからない上、テロリストからの犯行声明もないので、次にどうするべきかで揉めているらしい。


「俺が行ったら解決する問題なのか?」


 そこまで万能ではないんだがな。

前後編になるか、前中後編なるか……

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