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クリスマスイベントが無いってどうなんですか?

 大学四年の半ばを過ぎ、幹隆は警察官の採用試験を受けてめでたく合格となった。




 大学一年の終わり頃に総理大臣が替わり、法務大臣も替わったのだが、三年の終わり頃に内閣改造が行われ、法務大臣として返り咲いたのはなかなかの執念だと苦笑したが、その法務大臣名で手紙が届いた。


「採用試験に合格したら警察学校に通う必要なし」


 それでいいのかと思ったが、まあそういうことならと、あとは成績を維持したまま卒業を迎えればいいので、他の学生よりも気楽に過ごして……はいなかった。




 一日の講義を全部終え、帰ろうと廊下を歩いていたら前後をどう見ても学生に見えない男たちに囲まれた。「会」のメンバーも距離をおいて着いてきていたのだが、間に入られてしまい、どうしようもできない状況である。

 卒業後の生活のことを考えると、せめて学生生活くらいは平穏無事に過ごしたいんだけど、と思っても口には出さない。口から出るのはあきれかえったため息だけだ。


「ふふふ、かわいいため息だね。僕に出会えて感嘆のため息かい?」


 男たちの真ん中から一人、芝居がかったポーズと台詞の男が歩み出てくる。

 街で百人の女性に「お茶でも一緒にどう?」と声をかけたら七十人くらいは「お茶くらいなら」と思いながらも、態度がキモいからと半分以上が断りそうな男だ。せっかくそれなりに整った顔立ちだというのに、残念感が(あふ)れている、そんな男である。


「そろそろ年の瀬、クリスマスが近いね」

「そう?見ての通り神社神道なんでよく知らないんだ」


 幹隆の格好は何だかんだで茜が楽しげにコーディネートする。その通りにしてもしなくてもうるさいのと、考えるのが面倒なのでその通りにしている。茜もある程度はわきまえていて、基本的にあまり目立たず無難な感じにはしているのだが、基本的には上が白系、下が赤系。あちこちに紅白の組紐&鈴(玉を抜いているので音はしない)が飾られており、巫女系と言えばそう見えなくも無い微妙なラインで揃えている。


「どうかな、夜景の綺麗な場所があるんだけど」

「自分で見に行けるからご心配なく」


 ジャンプすれば高層ビルより高いところまで行けるのだから、夜景なんていくらでも……と思いきや、着地の度に地面にクレーターができるのはさすがにマズい。狐火の浮遊を使えば着地時のクレーターは防げるが、暗い夜空で狐火は結構目立って、SNSに怪奇現象として書きこまれるので、控えるようにしている。それに、かなりの暗闇でもそれほど困らない視力のおかげで、夜景と言っても何となく電気が点いている薄暗い街並みにしか見えないので面白くもなんともない。


「一緒に食事でもどうかな、って誘っているんだけど」

「野生の熊を素手か鈍器で仕留めてくれたら、ご馳走になりに行くよ」


 時々、あのダンジョンの熊の味を思い出したりする。大変だったが、今となってはいい思い出。懐かしの味という奴だ。


「ぐ……こ、この僕が!この僕が誘っているんだぞ!」

「そもそも、お前……誰?」


 学部も学年も違う学生の名前などいちいち覚えていられないんだが。


「おい、お前ら!」

「はいっ」


 周りを囲んでいるのはどう見ても学生では無く、黒服サングラスという……ボディガードとかそういう系統のようだ。この男、金持ちのボンボンか?興味が無いから聞く気も無いが。


「抵抗しないでくださいね、女性に手荒なことはしたくありませんので」


 一人がそう言いながら歩み寄ってくる。


「はあ……めんどくさ」


 ずり落ちかけたバッグを肩にかけ直し、両手を広げて肩幅に。そして耳がペタンと倒れる。それを見て降参したと勘違いして距離を詰めてくる男たち。

 それを見ながら、思い切りパン!と叩いた。

 後ろに「会」のメンバーがいることは気づいていたから程々にしているが、その瞬間の破裂音はスタングレネード並みのデシベルとなり、周囲を囲んでいた男たちが身もだえながら膝をつく。


「大丈夫か?」

「は、はい……何とか」


 後ろにいた「会」のメンバーはとっさに(いつもの)耳を塞いでいた(こと)ので大丈夫のようだ。


「じゃ、そういうことで」


 トン、と男たちを飛び越えるとそのまま走り去る。

 どうにか復活した数名が追いかけようとするが、人間は短距離世界記録でさえもトップスピードが四十キロほど。小走りでも五十キロ以上を出せる幹隆に追いつけるわけも無く。


「茜にもう少し目立たないコーディネートを頼んでみるかな」


 意味の無い相談を持ちかけようとしていることに、本人は気づいていない。

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