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幹隆を越えろ

 異世界から還ってきたのは全部で八十九人。約一名がハリネズミになってしまったというアクシデントはあったものの、全員が家族のもとへ帰った。

 この須藤啓太もその一人だ。

 異世界へ転移する前の須藤は普通の男子高校生だった。容姿に特に目立つところはなく、学業も運動も際だったものは無い。本人は化学を得意としていたが、それだって学年トップの成績を取ると言うほどでは無く、むしろ歴史系科目で赤点を逃れるのに苦労しているという……良くも悪くも、どこにでもいる高校生だった。

 そして、異世界に転移して帰ってきた彼を見たとき、家族は当然ながら「誰?」と思った。もちろん、須藤自身が、幼い頃の思い出話や好きな食べ物、飼っているペットの名前などでどうにか本人であることを示したのだが、両親と妹の戸惑いは隠し切れているものではなかった。

 なぜなら彼はドワーフになっていたからだ。

 それも典型的なタイプのドワーフだ。

 身長は百六十を少し下回る程度、体重は百キロに迫るほど。だが、その丸っこい体型は決して脂肪ではなく、ギュッと詰め込まれた筋肉であることはひと目でわかり、妹などは、


「マッチョすぎキモい。毛がキモくて臭そう。近寄らないで」


 とまあ、一部の嗜好の者にとってはご褒美のような一言で離れていったが、妹との距離感が微妙なのは異世界転移前からなので本人はあまり気にしていなかった。

 一方で両親はと言うと、


「そのヒゲがあり得ない」


 なかなか辛辣な一言である。朝、きれいに剃り落としても夕方には三十センチ程まで延びるというファンタジー満載なヒゲを前に、剃る、と言う行為を早々に断念した彼だったが、それ以上に悩ましいのが、


「ビールが飲みたくてたまらない」


 であった。

 異世界では飲めたのだがさすがに日本に帰ってきて大っぴらに飲むことも出来ない。もちろん隠れてこそこそ飲むことはしない。そこは実に真面目なのが須藤の美点でもあった。そして、勉強はしっかりと修めて大学に通い、キチンと二十歳になってから飲むようになったら、これがこれで底なしのウワバミである。さすがドワーフ、と周囲は感心したが、いくら飲めると言っても先立つ物は必要。だが、化学系の学部に進んでいた彼にバイトをする余裕はなく、実に悩ましかったところに大学の教授が助け船を出した。とある企業の研究開発部門との共同プロジェクトである。

 バイト代ははずむという一言に飛びついた彼は、すぐさまプロジェクト内でドワーフという種族の持つ特性を遺憾なく発揮し、わずか半年ほどで従来の倍以上の強度を持ちつつ、生産コストが従来同等の高張力鋼の開発に成功。


「卒論はいいからそのまま就職してくれ」


 と言うことで、籍を置いたまま就職し、その後も様々な素材の開発に携わるようになった。

 そんな彼がわざわざアメリカまで出向いて、見ているモニターの向こうでは何やらゴツいものを着せられた三体のマネキンが鉄の棒に括り付けられて立っており、そこに向けて須藤以上にむさ苦しい男共が銃でそのマネキンを撃っている映像だった。何でも12.7ミリのライフル弾だと言うが、須藤はそう言ったもの(ミリタリー系)に興味が無いので、アホみたいな威力のある銃という以上の感想は持っていない。


「撃ち方やめ!」


 号令と共に銃声が止み、安全確認の後にマネキンが回収されてきた。


「どうです?」

「何だこりゃ、と言うのが正直な感想ですな」


 運び込まれたマネキンは支えていた柱が全部折れていたので倒れていたが、泥に塗れ、硝煙がこびりついているほかはヒビの一つも無い。


「こっちも終わりました」


 そう言って運び込まれたのは追加の二体のマネキン。こちらはこちらで近接戦、つまり鈍器や刃物で十分程度攻撃され続けていたのだが、泥がついているほかは特に何ごともなし。きれいに拭ってやれば、ニューヨークの高級店のウィンドウで高いブランドものを着せておけるだろう。


「やれやれ。これがジャパンの新素材か」

「何をどうしたらこんなものが出来るんだ?」

「言うまでも無い。ファンタジーさ」


 アメリカ陸軍の偉い人――須藤には階級とかそう言うのがよくわからんので偉い人、で統一して認識していた――が話すのを横目に次のテストが始まるのをモニター越しに見る。




「圧倒的でしたな」

「あれでまだ試作段階とは」

「今後に期待したいところですな」


 須藤が就職したのは日本企業だが、防弾性能だとかそう言ったことをテストするのに、日本ではちょっと都合が悪い。そこで、防衛省と連携し、アメリカに持ち込んでテストしてみたが、結果は良好。いくつかの改良は必要となったが、改良点を探し出すのが試作品なのだから何ら問題は無い。

 そう、問題は無かった。

 その時までは。




「……と言うわけでして、ここでまず……」


 こんな夏の日にやらなくてもいいだろうという式典の挨拶を総務大臣が延々と述べているのを聞きながらも幹隆は周囲に目を光らせていた。

 詳しい名前は忘れた――と言うよりも、護衛するのが仕事なのだから護衛対象以外のことは頭に入れるつもりがないというのが正解だ――が、なんかの記念碑が出来たとかでその除幕式が行われているのが日本海を望む海沿いの公園。今年一番の暑さの予報にもかかわらず大勢の住民が集まって行われている式は今のところ順調で、あと三十分もすれば全て終了だ。


「状況は?」

「問題なし」

「暑いです」

「我慢しろ」

「言うだけならいいでしょう?」

「村田を見習え」

「無茶言わないで下さいよ」


 無線の内容は平常運転である。

 既に体温を超えようかという気温だが、幹隆の格好はいつも通りと言えばいつも通りで、尻尾やら体型がわかりづらくなるようなコート。そしてそこに、新規に投入されることになったゴーグルをはめている。このゴーグル、発令所からの情報を色々と表示してくれており、各員がどこにいるか大まかに表示しているほか、内蔵されたカメラで行われた顔認証で不審人物がいればすぐに教えてくれるという優れものだが、今のところは忌々しい気温と湿度を表示しているだけである。

 ちなみに幹隆がコートを着込んでも平気な顔をしている理由はとても簡単で、最近見つけた狐火魔法、「狐火の快適空間」のおかげである。この魔法、本人限定だが、気温や湿度を快適に保つという実にほのぼのとした魔法だが、こういうときにはとても役に立つ魔法で幹隆は重宝している。とは言え、端から見るとこのクソ暑い中、暑苦しい格好をしている変人がいるようにしか見えないという欠点があるのが難点か。




「茜~、電話鳴ってるわよ」

「え?あ、ホントだ」


 リビングにスマホを放り出して冷蔵庫を漁っていた茜がスマホを手にする。


「須藤くん?」


 また珍しい相手からだがと、通話ボタンを押す。


「もしもし?」

「川合さん?須藤だけど」

「うん。久しぶり、どうしたの急に?」


 一応、三年生の時は同じクラスだったが、特に親しかったわけでは無い。ただ、同じ経験を共有した者同士と言うことで、全員分の電話番号はスマホに入れてある。お互いに。


「えっとさ……村田、いる?全然電話に出なくて」

「ミキくんなら今日は仕事だけど」


 幹隆が警察官になったことは同級生たちは皆知っているが、SPになったと言うことは茜すら知らない。もちろん、うすうすは気付いているが、それを周囲に話すつもりも無い。


「どうにか連絡を取れないかな?」

「うーん……仕事中はスマホ切ってるから」

「大至急なんだ……頼む」

「わかった。須藤くんの番号にかければいいのね?」

「うん。頼む」




「村田、本部から連絡」

「はい?」

「自宅からの電話で伝言があったそうだ。「須藤くんへ至急電話して」だと。意味わかるか?」

「別にウチは暗号で会話はしませんから、そのままの意味だと思いますが」


 一旦、統括しているワンボックスカーへ入ると伝えられていた番号へかける。もちろん、警察の電話からだ。


「須藤か?」

「村田か?良かった、すぐに連絡がついて」

「お、おう」

「あのさ、俺が大学の途中から就職したのって知ってたよな?」

「うん」


 確か、大学を卒業してすぐの頃の同窓会でそんな話を聞いた気がする。


「それでさ、いまもその会社に勤めてるんだけど」

「お、おう」

「そこでさ、二年前なんだけど、グループ会社と防衛省が共同で、パワードスーツを開発したんだよ。災害救助に役立つだろうって」

「ああ……なんか聞いたことがある」

「なら話が早いな。それの強度試験の最中に盗まれたって話も知ってるか?」

「一応」


 確か……




 突然施設内に警報が鳴り響いた。


「ん?何だ?火事か?」

「違う!武装した連中の襲撃だ!」

「は?」

「マズいぞ、スーツを乗せた車を奪われた!」

「何?!」

「追え!追え!」




 こんな感じで盗まれて行方知れずになっていたんだっけか。


「あのスーツにはGPS発信器が内蔵されているんだが、それがつい十分ほど前にオンになった」

「へえ……なら取り戻しに行ける……のか?」

「あのとき盗まれたパワードスーツは七式。それが全部、日本海を進んでる」

「へ?」

「海岸部……多分……」


 告げられた場所は、幹隆たちのいる目と鼻の先だった。


「お前が今どこにいるのか知らないけど、この情報をどう処理していいのか、ウチの社内でも迷ってるんだ。一応警察に通報しようって事になってるけどさ、どう話せばいいのか見当がつかない」

「なるほど」

「それにあのスーツ、刃物は通さないし、銃弾にも耐える。オマケにパワーアシストがあるから二トンくらいの車くらいは軽く持ち上げる。ぶっちゃけ村田、お前に勝てるスペックを想定して作られてるんだ」

「お、おう」

「アレで暴れられたらどれだけの被害が出るか……頼む、警察の偉い人に何とかうまく説明して、至急対応をとるように言ってくれないか?あ、会社からも警察に連絡をするって事に決まったみたいだ。頼む!なんかあったらまた連絡くれ」


 向こうも慌てているらしく電話はそのまま切れた。


「村田、悪いと思うが全部聞かせてもらったぞ」

「それは構いません……狐火の探知……確かに海の方角に……いくつか反応」

「いくつかってお前」

「重なってて数えられないんですよ、とにかく一つ二つじゃないです」

「そうか……海保は?」

「今確認取れました、不審な船舶の航行があったとかで出動していますが、すぐに離脱したと」

「多分ゴムボートにでも乗せて送り出した、と言うところか?」

「ヘリは出せるか?できるだけ早く確認したいが」

「手配中です」


 八木があちこちに指示を飛ばして状況を確認すると、幹隆に告げた。


「何とかしてこい」

「大雑把すぎる命令?!」


 だが、ぶっ飛んだ性能のパワードスーツを着た連中が海から乗り込んできてすることなんてロクな事ではないだろう。少なくとも地引き網漁をして地元住民との交流を図ろうなんて殊勝な連中ではないだろうし。


「行きます!」


 車を飛び出すと、そのまま海岸の方へ走る。無線からは既に海の方へ向かった者達からの報告が入っていた。


「何か……ゴムボートのようなものが接近中!何人か乗っている!」

「了解……制圧します!」


 砂浜を駆ける勢いのまま水面を疾走すると、ゴムボートに乗っている連中が動揺したらしく、こちらを指さしながら騒いでいる。


「ゴムボートの数は……二。合計七人が乗っています」

「どうにかなりそうか?」

「結構飛ばしてますから片方は上陸してしまうかも?」

「そうか」

「出来るだけ急ぎます!」


 右側のボートへ向かい、そのままボートの縁を蹴り上げてひっくり返す。


「@!※%$!!」

「何言ってるかわかんねーよ」


 どこの国かはだいたい予想はつくが、幹隆は英語以外の外国語はほとんど聞き取れないので、騒いでいる内容は想像するしかない。


「ま、そんな重たい物着てたら泳げないよな?」


 色々と軽量化を図り、身軽に動けるように設計していても、稼働用のバッテリーやら、モーターやらで総重量は数十キロは下らないだろう。この辺りの水深は二メートル弱。どうやらどこぞの国の海軍兵士らしいのだが、泳げない海軍兵士なんていないハズだが、こんな酸素ボンベでもないのに重たい物を身につけていたら溺れるだろう。パワードスーツの力で水をかいて泳ぐ努力をすればある程度は浮くだろうけど。


「それを阻止する」


 そのパワードスーツの背中を蹴り飛ばしてやると機能は停止する。だけでなく、色々と試作機故の弱点か、内部の配線が破損して漏電するらしく、おかしな痙攣をしている。とは言え、知ったことではない。


 そして上陸に成功してしまったもう一隻へ向かう。砂浜を抉るように走る四人のうち、ちょっと遅い二人に真後ろから襲いかかってなぎ倒しながら、背中の配線を引きちぎって上から軽く踏みつければ砂に埋まった上にただの重しが乗っかって動けなくなる。


「あと二人!」


 残り二人が今回の式典の要である、記念碑に向けて銃を向けた瞬間に回り込んで銃を蹴り飛ばす。が、それなりのパワーがあるらしく、銃こそ手放したが倒れたりはせず、そのままこちらに向かってくる。ブンッと空を切る音をさせるパンチをかわし、カウンター気味に鳩尾(みぞおち)へ一発。ドムッという音と共に数メートルの高さまで舞い上がり、真っ逆さまに落ちた。グシャリと言う背中の機器が壊れた音がしたのでこれで無力化出来たと判断。もう一人の方へ。


「+¥@$$&!」

「うるせえ!」


 でかいナイフを振りかざしてきた腕を掴んでそのまま一本背負いの要領でコンクリの地面へ叩き落とす。これまた変な音がしたが、襲撃者に配慮などは不要だ。


「ふう……八木さん!」

「よくやった」

「海の連中、ぶちのめしながら回収します」

「頼む……って、よくこいつらに勝てたな」

「え?」

「こいつらのパワードスーツって、お前に勝てる設計って」

「八木さん、こいつらのパワードスーツって、二トンくらいの車持ち上げてましたけど、俺、ダンプをお手玉出来ますよ?」

「そうだった」




「とりあえず何とかなったけどさ」

「うん」

「須藤、お前、俺を舐めすぎ」

「反省してる。つか、いつか絶対越えてやるからな」

「お、おう」


 須藤は意気込んでいるが、そもそも幹隆がどの程度の力を発揮出来るのか、まともに計測できないのをどうやって越えるのだろうか?

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