空飛ぶ狐
「どうにか情報統制は出来たが、早急に帰国となった」
捕らえた二人の尋問によると、他にも数名潜んでいたようだが失敗と同時に即逃走しており捕らえられていない。マスコミの報道はコントロール出来ており、無事に訪問を終えたという体にして帰国となった。
「念のためのチェックを」
「はい」
サンフランシスコ国際空港で待機している間も常時警戒していた政府専用機だが、念のためにSPが先に中に入りチェックをする。手順を教わったばかりではあるが、幹隆も中に入り、不審物がないかチェックを始める。
「そっちはどうだ?」
「あとここのチェックです」
「よし、俺はこっちを見るから」
「はい」
パン!パン!パン!パン!
数名で手分けしてチェックしていたら、外で銃声が響いた。
「「「なっ」」」
慌てて窓に飛びついたが、翼で様子が見えない。
「新井さんっ」
「様子を見てくる」
ドア付近にいた新井が走り、すぐに声を上げた。
「木下大臣が攫われた!」
すぐに全員がドアへ走ると、大臣を攫ったとおぼしき車が走り去ったところ。タラップの下にはSPや空港スタッフが何人も倒れており、血の海だ。
「失礼します」
ダンッと仲間の頭を飛び越えて地上に降りる。
「村田……か……」
「八木さん……今から見ること、内密に願います」
「え?」
「狐火の癒やし……人数分っと」
淡い光に包まれ、傷が塞がっていく。
「失血は治せませんので輸血をお勧めします」
それだけ言うとスッと立ち上がる。視線の先では既に大臣を攫った連中が自分たちで用意した飛行機に大臣を引っ張り終え、離陸に向けて滑走路を走行中。何とも手早い連中だ。
「追います」
八木の「行け」という返事を待たずに走り出した。
一般的なジェット機の離陸速度は時速約三百キロ。アクション映画でよくある、離陸しようとする飛行機に自動車で追いついて飛び乗るというのは自動車が三百キロ以上を出しているか、飛行機が百キロ出さずに離陸しようとしているかのいずれかであり、現実に出来る物ではない。それでも大臣を攫った連中は用心深く、改造して取り付けた機体後部のカメラ映像で追跡がないか確認を怠らなかった。
「あの」
「何だ?」
「後ろから、何か追っかけてきてますけど」
「何かって、何だよ?」
「人間?」
「は?馬鹿言ってんじゃねえ。人間が飛行機に追いつけるかっての」
「そうですけど……ほら」
「……何だこれ?」
「俺に聞かないで下さいよ」
「……」
「……」
「むさ苦しい男同士で見つめ合ってどうするんだ」
「俺に言わないで下さいよ」
「はあ……撃て」
「はい?」
「撃て」
「わかりました」
すぐに手元の機械を操作すると、カメラの横に機関銃が降りてくる。こんなこともあろうかとと言う用心深さで取り付けられた武装だ。レディ表示を確認し、トリガースイッチを押し込むと、四十ミリ弾がすさまじい勢いで撃ち出される。
「うわっ撃ってきた」
さすがにこれがまともに顔に当たるとちょびっと痛いので、両腕でガードするが、腕の振りがなくなる分、速度が落ちた気がする。
「仕方ない……狐火の纏!」
体を包むオーラのようなものが弾丸を弾いてくれる気がするのでノーガードでさらに加速すると、銃撃が止んだ。見ると、飛行機が既に浮き始めており、気流を安定させるために機関銃が引っ込んだんだろうと判断。
「うおおおおおっ!」
「何だったんすかね、あれ」
「さあな」
「まさか……」
「何か心当たりがあるのか?」
「飛行機事故で死んだ乗客の亡霊とか」
「馬鹿言ってねえで、人質しっかり縛り上げてこい」
間抜けなことを言い出した男のケツを蹴り飛ばし、操縦室へ向かう。全く、頭も悪くないし、戦闘センスもそこそこあるのに、微妙にオカルト好きなのが欠点だよなと愚痴りながら。
「あっぶねぇ」
ギリギリ尾翼に掴まり、どうにか体勢を立て直した。現在高度は八百メートルと言ったところか。さすがの幹隆も一万メートルを超える高さは未体験なので、できるだけ早く片を付けたい。
「おっと……」
前に進もうとしたら飛行機がいきなり旋回を始めた。あまり遠くまで行くと無線が通じない距離になってしまうな……あ、イヤホンどこかに落としたっぽい。マイクは何とか着いているが……
「救出最優先」
狐火の探知を使い、木下大臣が捕らえられている位置を確認。人間の判別なんて出来ないが、椅子に縛り付けられている姿勢の人間が大臣で間違いない。
「よいしょっと」
どうせテロリストの飛行機なので遠慮無く破壊させてもらおうと、機体表面に指を突き刺して吹き飛ばないように体を支えながら進んでいく。
「この位置だね……」
探知で大臣しかいないのを確認しているのでひょいと窓から顔を覗かせ、トントンと叩く。音に気付いた大臣の顔は不思議な表情を浮かべているが、今は救出優先。助けますね、とジェスチャーで示してみたが通じたかな。ま、いいか、と一つ前の窓ガラスをぶち抜いて中に飛び込んだ。
「うわああっ」
「お静かに。大臣、脱出しますよ」
「だ、脱出って……」
騒ぎを聞きつけたようで、足音が近づいてきたが、風の吹き荒れる室内に少し怯んで足が止まったようだ。
大臣はロープで椅子にグルグル巻きにされており、これを引きちぎるのは幹隆でも少し時間がかかりそうなので、手抜きをすることに決めた。
「失礼します」
一言断りを入れ、椅子の足元を蹴って破壊。抱えたまま壁に向かって背中から体当たりをすると大穴を開けて飛び出す。飛行機の速度と自由落下の速度。あっという間に距離が離れ、何語かわからないが騒いでいる声はすぐに聞こえなくなった。
「ふう……もう大丈夫ですよ」
「イヤイヤ!ここどこだと思ってんの?!落ちてる!落ちてるよ!」
「あはは……安心しました。大臣もこういうときは口調が普通の人ですね」
「そう言う問題じゃないから!」
「大丈夫です。このくらいの高さは何度も練習しましたから」
「練習って何を?!」
「着地です」
「どうやって?」
うーん、なかなかこちらの言いたいことが伝わらない。コミュニケーションって難しいなと思っていたら派手な破壊音がした。
「あー、やっぱりそうなるか」
機体の一部に大穴の開いた飛行機がいつまでもまともに飛べるわけがなく、穴の辺りから捻れ、そのあおりで翼が折れて、燃料が漏れ、そのまま燃え上がり……爆発した。
「危なかったですね」
「……」
無言は同意とみなそう。見ると、爆発で吹き飛んだ先に人影がいくつか。どうやら五体満足で生きている者が数名いるようで、無駄に暴れている者もいる。
「ちょっとアレを回収してきます」
そう言い残して、風に乗って人影の所へ向かう。後ろで大臣が何か叫んでいるようだが、風の音でかき消されてよく聞こえない。きっと、頑張れとか頼んだぞとか言ってるんだろう。
近づいてみると全部で五人。爆発の衝撃で気絶している者もいるようだが、死んではいないようだ。しぶとい連中だが、事情聴取のためにはありがたいと、近づいてそれぞれの手足を適当に手錠でつなぎ合わせてひとまとめにすると、収納から出したロープと繋いで引っ張りながら大臣のところまで戻る。
「お待たせしました」
「あ、ああ……ええと、本当に大丈夫なのか?」
「お任せ下さい」
爆発した飛行機はそのまま海へ墜落していく。幹隆が下を見ると……
「海だなぁ」
無線機は二十メートル防水だとは聞いたが、壊れてないことを祈るのみ。
「狐火の浮遊!」
落下速度が遅くなり、やがてチャポンと静かに着水。大臣を縛っている椅子はフレームが金属製なので沈み始める前にロープを切断する。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
「落ち着いて下さい。あ、靴を脱いだ方が泳ぎやすいですよ」
「わ、わかった……うん」
テロリスト連中は気絶させているので溺死しないように気を遣わなければならないのが面倒だなと思いながら無線機のスイッチを入れた。
「村田です。すみませんがイヤホンを落としてしまったのでそちらからの音声が聞こえないので一方的に話します。海に落ちました。大臣は無事です。テロリストも五人確保。回収をお願いします」
離陸しようとする飛行機に追いつく車と言えば、八十年代アメリカのテレビドラマ、ナイトライダーのナイト2000を推します!




