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今までの不安が解消されます。

どうぞ、懲りずによろしくお願いします。

駅へ到着し改札を出ると、外はすっかり暗くなっていた。日が徐々に長くなってきていたが、六時半を過ぎると人の顔も判別できないほど暗くなってしまう。

涼子は暗い外を見渡すとやっぱり不安な気持ちになった。この辺りは幹線道路を渡って、涼子のマンションの方へ向かう路は暗く人通りも少ない。

俊介もそろそろ駅に到着する頃だと思うが、携帯を取り出して確認して見ようとしたら、既に俊介からのメールが入っていた。

「お疲れ様!今から電車に乗って戻るところ。いまどこ?」と書かれてあった。

「今、駅の改札出たところだから、バス停のところで座って待っているから」とすぐに返事を打ち出した。


涼子がバス亭の方へ向かって歩いてみると、既に中高年のおばさん二人がベンチに座ってバスを待っていた。

涼子はおばさんの脇の空いているところへ、ちょこんと座った。すると駅の方から、ピンクのシャツを着ている、痩せたO脚気味の若い男が近づいてくるのが見えた。

若い男は近づいてくるなり中年のおばさん達に昼間でもないのに「こんにちは、ヒヒッ」となんとも奇妙な挨拶をしてきた。

涼子は顔見知り同士なのかと思って若い男の顔よく見ると、朝時々見かけるあの人の脚をじっと見る男だった。

涼子が勝手に容疑者の一人と決めつけていた男が、なんとタイミングよく現れてしまったのだ。

涼子は緊張して「うぁ〜どうしよう」と両手の拳に力を入れ、身構えていた。


初老の臙脂色のコートを着たおばさんが「コウちゃん、今帰り?今日は遅かったね」と声をかけていた。

すると若い男はいきなり「フフッ」と笑って「スットキング履いてる?履いてるの?」と言いながらそのおばさんの脚をジッと見だした。

涼子はその言葉を聞いたとたんドキドキ心臓が高鳴った。

「まさか、こいつだったのでは?」と思うと首の後が痛くなって、額から汗が滲み出した。

おばさんは慣れている様子で大して驚きもせず、平気な顔をして答えていた。

「ああ、履いてるよ」

「どれ、どれ」

若い男は屈んでおばさんのストッキングを摘んでいた。そして隣の太ったおばさんにも同じように

「履いてる?どれどれ」と言いながら見ているのだった。

涼子はそれを見て恐怖で固まった。汗がいっそう噴き出し、もうダメ!今度は自分の所にくると思い、本当にベンチから落ちて卒倒してやろうかと思った。

ところが、若い男は涼子をチラッと見ると何も質問もせずに、すぐにおばさん達の方へ向き直ってしまった。

「ストッキング、フフッ、フフッ」

若い男は、おばさん達に向かって意味の分からない音頭をとりながら、バス停から離れ、去っていった。

呆然としていた涼子の横で、臙脂色のコートを着たおばさんが、隣に座っている太ったおばさんに話していた。

「あの子、自閉症の子なのよ」

あの若い男はストッキングに特別な拘りを持った自閉症の子であるという話しをしていた。しかも若い女性には絶対にそういう質問をしたり、側に寄って触ったりはしないから、犯罪性になるような事はないと話していた。

どうやら、若い男の母親が身に付けていたストッキングに幼い頃より拘りがあるようで、母親と同じような年代の女性を見ると

「ストッキングを履いている?」と、聞いてしまう事だった。

涼子は若い男の出現にびっくりしたが、脚をジッと見ていたのは変質的な性癖ではなく、ストッキングの拘りによるものと理解できたため、自分の妄想の中にある容疑者リストから、この男を抹消するとこにした。

しかし、涼子はよく考えてみると、母親のストッキングに拘りがあるのに、なぜ後ろから見た私の脚を見ていたんだろう?と思うと少々複雑な気持ちになった。

もっとも、こんなリストに知らない間に登録されていたら、若い男にとっても甚だ迷惑な話であり、絶対他人には言えないことだが....

しばらく待っていると、俊介が背中を丸め、ガニ股でこちらに向かってくるのが見えた。「待たせた?わるい。今朝はこちらもとんだ災難で、会社遅刻になったし、参ったよ。たぶんあの事件は報道されたと思う」

俊介は涼子の前に立つと、おでこをさすりながら言った。

「もう、こっちはホント最悪!今さっきも、すごく怖い事があって、心臓バクバクものだったし、俊介の今朝の出来事にもびっくりで、そんな窃盗もあるのかと心配になったし、今日は脅かされてばかりの一日だった!私もう既に神経の病気になってるかも」

涼子はダダをこねる子供のような目をして俊介を見あげ、ベンチに凭れかかった。

「おい、大丈夫か?」

「俺もまさか通勤電車にタイミングよくあんな窃盗親爺が現れるとは、思ってもみなかったよ。本当に涼子が心配していることも、もっと真剣に考えないと、いつ事件に巻き込まれるかわからないから、昨日は笑ってしまって悪かったと思っているよ」

俊介はめったに見せない、真面目な眼差しで涼子に詫びた。日頃エロいおふざけで、戯けるのが好きな俊介だったが、いざとなれば涼子の事を真剣に考えてくれているのだ。

「あんまり心配だったら、明日は休んで家にいてもいいんじゃないか?たまにはそういう理由で休んでもいいだろう?」

「そうね、ありがとう!一応、調子が悪い事は言ってあるから、休める体制には、なっているけど」

「そっか、心配だなぁ、ホントいやな思いをさせて悪かった」と俊介はペコリ頭を下げた。

腰掛けていた涼子の手を取り、一緒にマンションの方へ向かって歩き出した。


マンションのエントランスに入ると、一階のフロアから誰かの豪快な笑い声が響いてきた。


11で完結です。どうぞ最後までよろしくお願いします。

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