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更新が遅くなりました。
どうか懲りずによろしくお願いします。
「実はさぁ、俊介にも言っておいた方がいいと思うことがあったの」
「うん?何?」
「んー実はね、この間、保険金が満期になったので、その手続きを取ったの」
「ああ、一時払い養老保険だろ?独身の頃に入れたっていうやつ。それがどうした?」
「言い難いんだけど、その手続きの時に....」と涼子が顔を曇らせた。
「んー?どうした、その顔つきは?ちゃんと聞くから話して?」
「その手続きを取った場所が、事務所でなくて、駅の近くのドトールだったの。しかも結構、混んでいた」
「えー!」俊介はそれを聞いて後ろに尻餅をつきそうになって驚いた。
「お前とも有ろう者が、そんな所で保険の手続きとは...なんじゃ、それ!どうなってんだ?」
「うん、金額がいくらとかそう言うのは声に出して言ったりはしなかったんだけど、席に座って保険証券を広げて判子とかは押したりしてたし、隣の席と席の間隔がすごく近かったから横から見たら、住所が丸見えになっていたと思う...それに薬剤師の仕事の内容も保険屋さんにちょっと聞かれて、話していたから....」
「そうか、それは保険の担当がそんな所でやり取りをする事自体が、常識的じゃないなぁ?」
「うん、最初は隣の席が空いていたんだけど、すぐに男の人が、私の隣に座ってきたし」そこから涼子は不安定な声になってきた。
「その時点ではあまり気に留めてなかったんだけど...でもね...よく考えてみたら、その人、一人でいるのに本を読むこともなく、私達の話をじっと聞いていたような感じがしたの」
「何か、私の話を聞く度にメールしていたような態度にも見えて、ちょっと怪しいと思うところがあったのよ」涼子は泣きべそをかきながら言った。
「それで、それで、その人だと思う人をこの近くで見かけたのよ」
俊介が「マジかよ」という顔して涼子を見た。
「そのドトールって、どこ?この辺じゃないだろう?似た雰囲気の人ってことも考えられないか?」
「いや、絶対そうだと思う。いろいろ考えたけど、確信した。ちょっと変わった髪型で、お笑いタレントに似た人がいるから、印象的でよく覚えているのよ」
俊介がしばらく涼子を見つめ「そうか」と涼子の隣に座り「まぁまぁ」とやさしく肩を抱きかかえるよう言った。
「そうか、事情は分かった。編みタイツが無くなった事でその不振人物を思いだし、狙われていたんじゃないか?と不安に思ってるわけだな?」
涼子は情けない顔しながら俊介の横で「うん、うん」と頷いた。
俊介はいくら何でも隣に座ったやつが、いきなりストーカーになるのは、話しが飛び過ぎだと思ったが、すっかり渦中の被害者になりきっている涼子の神経を逆撫でしないように、とにかく話しを聞くことにした。
俊介がやさしく「終わったことをいくら後悔しても仕方がないから、これからはそういう契約や個人の状況が分かるようなことは、絶対に他人の前ではやらないよう、気をつけようぜ」と涼子の頭を軽くポンポンと叩いた。
「うん。もうこれからはそういうことは絶対にやらないし、俊介の仕事に関する話しもも、友達の事も、人がいっぱいいるような場所では絶対話さないようにしようと思うから」涼子は幼い子供に戻ったかのように、純心な目をして誓った。
ところが俊介は「えっ」という顔をして涼子を見た。
「ちょっと、待った!いかにも俺の仕事の事を外でしゃべったって、いうような言い方しなかったか?」
涼子は、悪戯がばれた子供の仕草のように、肩を竦め気まずそうに下を向いて答えた。
「ごめんね!友達とお茶してるときに、俊介から聞いた同僚の失敗談とか、ロケット開発の進捗状況について、つい調子に乗って話しちゃったことがあって....」
「失敗談てまさか....日本の秘密情報機関についての話しじゃないだろうなぁ?」
俊介は一瞬にして表情が変り真剣な面持ちになった。
涼子は下を向いたまま、益々小さくなり「ごめん」と俯いた。
「おい、おい!勘弁してくれよ!それは機密事項なんだからさ、外に漏れると拙いことになるから、絶対に話さないでくれよ」俊介はやられたっと、いう顔をして頭を抱え込んだ。
「まぁ、俺が笑えるからって、お前に話したのがまちがいの元なんだけど、こういう事を外に漏らすと、罪になるし、もしも話しをスパイと呼ばれる輩がキャッチしたとしたら、マジでどっかの共産国へ拉致られて、マインドコントロールされるかもしれないんだぜ」
「拙いなぁ、俺も今日から背中を他人に向けないよう、背後には十分気をつけて歩かないと不意をつかれそうだ!」と目尻に皺を寄せながら渋い顔をした。
「えー、拉致なんてこわい。ゴメン、本当にゴメンね!私っておしゃべりに夢中になると、つい悪のりしちゃって、ついポロリと出てしまう所があるのよ」と涼子が半べそをかきながら言った。
「本当に気をつけてくれよ。こっちが訴えられちゃうんだから。さっきも言った通り、もう終わったことは取り返しがつかないし、後悔しても仕方ない。これからはとにかくそういう話しは絶対、他人に聞こえるような場所では、慎むように心がけてくれよ!俺も気をつけるからさ」と今度は俊介の方が焦りだした。
さっきまでは涼子だけの問題であった個人情報漏洩が、ついに俊介の身の上にも降りかかってきたのだ。
こうなると俊介もエロい想像どころではなく、真面目に漏洩問題について何か対策を考えなければいけないと、思った。
二人とも「今日は最悪かも」と思いながら朝支度を終え、いつもより注意深くドアの鍵を確認した。
「さあて、どこのどいつだ。お前が確かに見たっていう奴。そいつの正体を確かめなければ、俺の方まで安心できなくなってきた」
いつもはたわいのないお喋りをしながら、明るく楽しそうに歩いて行くのだが、今日は二人ともすっかり無口になってしまった。
続く