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いよいよ、最終章です。

これでこの物語は完結します。

最後は和みについて書いたつもりです。

最後までありがとうございました。

次の日の朝を迎えた。


不安を少し解消できたせいか、涼子はぐっすりと眠れたようで、鳥の囀る時刻になってもまだ起きてこない。今朝は俊介の方がいつもより早く目覚めてしまった。


俊介はベッドから重い体をのっそと起こし上着を羽織った。

三月になったばかりのまだ肌寒さを感じるリビングに暖房をつけた。


締め切ったカーテンを開けると薄靄の景色の中、外は鳥達の世界になっていた。

俊介はベランダへ出て、様々な鳥の活動を目を細めながら見ていた。

「平和だなぁ、こんな所にいったい何がくるっていうんだろう?余計な心配なんてする必要がなさそうだ」と、ベランダでしか吸えないタバコに火を付けた。


遠くに見える梅の綻びが春の訪れを告げているようだった。


俊介がバードウォッチングをしながら、美味しそうにタバコを噴かしていると、涼子がまだ覚め切れぬ目をして寝室から出てきた。


涼子はベランダにいる俊介の後ろ姿を見て、またタバコかと思ったが、窓越しにコンコンと叩いて「おはよう」の挨拶をした。


俊介が「よぉー」と後ろを振り返った、その瞬間に何かが俊介の頭の上を横切って行った。



涼子は見たのだった。



黒い物体が編みタイツを加え、俊介の頭上高く横切って行くのを...





「あっ、見つけた!編みタイツ泥棒!」涼子が目を見開き叫んだ。


俊介はその黒い物体の正体をすぐに何か把握した。そのとたん「ブー」っと吹き出した。

犯人はやなり人間ではなかったのだ。

網タイツ泥棒は、いたずらカラスによるものだった。カラスが巣作りの材料に涼子の編みタイツを使っていただけの事だったのだ。

丁度今頃の季節は、カラスが産卵するために巣作りの材料を彼方こちらから、調達している最中だった。カラスは使えそうな物は何でも巣作りの材料として使いこなすほど、本能的に優秀なので、干してある涼子の編みタイツを見つけ、これは使えると失敬していったのだろう。

この辺りは、山を削って開発されているので、近くでカラス達が巣作りをしてもおかしくない場所なのである。

俊介は泥棒がカラスの仕業と分かると、緊張の糸がほどけ、たちまち頭の中が可笑しさでいっぱいになり、ゲラゲラ腹を抱えて笑い出した。

涼子は、今まで頭の中にしまってあった網タイツ泥棒に関わる変質者リストが、これですべて崩れ去った。そう思うと恥ずかしさとバカバカしさが一気に込み上げてきた。

いったい不安に振り回されたこの二日間は何だったんだろう?と肩の力が抜けた。

「でも、何もなくてよかった」と思った。

「だから、言っただろう?こんな所に侵入できるやつは人間じゃないって、お前の編みタイツを欲しがるやつは、結局人間じゃなかったてことさ!アハハ」

俊介はいつものエロ調子全開に戻ると、床を這うゴキブリがひっくり返ったように、手足をバタつかせ「これは最高」と笑い転げた。

涼子は、俊介まで巻き込んで散々騒ぎ立て、末の悪い思いだが、とりあえず取り越し苦労だと言う事が分かったので、ようやくいつもの自分に戻れると安堵の笑みを浮かべた。


しかし、俊介を見て「いくらなんでも笑い過ぎだろう」と思ったが、心配させてしまったのだから、何を言われても今日だけは許す気分でいた。

俊介は腹の底から湧き出る可笑しさで、もうどうにも止まらないという様子で「お前はカラスのいたずらに振り回されて、仕事を休む準備までしてきたって訳か!勘弁してくれー」と涙を流して喜んでいた。

涼子は少々「ムっ」としたが

「俊介ごめんね!でも、たまにはこういう事があってもいいんじゃない?反省しなければいけない個人情報問題の大切さも分かったことだし」と恥ずかしそうに言った。

「アハハ!まぁ、そうだけど、カラスの習性に怯えていたっていうのもね・・・」

俊介は笑いすぎでお腹が捩れそうとうずくまりながら

「おかげで朝から腹筋に効く、いい運動をさせてもらったよ。もうすでに腹が筋肉痛になりそうだ」

結婚してから俊介は幸せ太りなのか、少しお腹周りが前より太くなっていた。

「でも、この笑いもお腹の脂肪燃焼に、だいぶ貢献したんじゃないの?」と涼子も舌を出して言った。

涼子は今回の事件で俊介が、見た目や思ったより、ずっと頼りになる人だと感じた。やっぱりこの人と結婚してよかったと、心から思い出会いに感謝した。


涼子が「そうだ!双眼鏡持ってきて、カラスの巣がどこにあるか、ちょっと探してみようか?」

「うん、そうだな!ちょっと探して見るか?面白そうだ。カラスは人が巣に近づくと威嚇するから、双眼鏡で遠くから覗いてみるしかできないけど、もしかしたら近くにあるかもしれないな?」

ベランダの外は薄靄から日が少し差し始めていた。


俊介は寝室のクローゼットの中から、双眼鏡のセットを持って出てきた。

「さて、さて、お前の編みタイツはどこに採用されているかな?」と俊介が双眼鏡をセッティングすると色々な角度から覗き出した。

「ここは元々カラスの里があったところを勝手に人の手で、マンションを建てるために奪ってしまったんだもの。編みタイツの一つや二つ巣作りに必要なら、提供したって当然てことね!泥棒したのは、カラスじゃなくて人間の方だったのかも」

涼子は朝の光を眩しそうに眺めて言った。


その間に俊介が早くもカラスの巣を捉えた。

「おぉ、あった!それらしいものがあったぞ!今、フォーカス合わせるからちょっと待って」と俊介が大きな魚でも釣れたかのように、嬉しそうに言った。

「ほら、ほら、涼子、ここから覗いて見て?はっきり中まで見えるから」俊介が涼子を支えて双眼鏡を覗かせてくれた。

涼子が覗くとそこには直径40cmほど大きなお皿のような形の巣が樹木の間に出来ていた。

そして涼子の編みタイツも卵を産む内側にしっかりと、組み込まれているのが見えた。それはまるで芸術作品のようだった。


涼子はそれを見てすっかり感動した。カラスにもちゃんと守るべき場所があったのだと。

今まで、ゴミ置き場で袋を漁っているのを見かけては、浅ましく邪悪なやつだと思っていたが、カラスにだってこのように生活があり、卵を産むためにがんばっていたのだ。なんだかカラスから生きるためのエネルギーを貰った気分がした。


「すごいね!私の編みタイツまで、はっきり見える」

「なっ、そうだろ?カラスって賢いんだぜ!巣を丈夫に作るのに針金のハンガーを運んできたり、ビニール紐まで使うんだぜ。抜群のアイディアはまるで俺みたいだ」

多少普通より、もの知りだと思う俊介は得意げな顔をして言った。

「うふふ、そうかもね!」

「ホント、私の編みタイツが変態を喜ばせるために盗られたんじゃなくよかった。カラスの赤ちゃんを包むためのシーツとして使われると分かったら、急に元気が湧いてきちゃった。見る世界によって、同じものでもこんなに変わってしまうなんて、すごい!」


涼子は昨日までの悪夢は、自分が作り出した幻だったと改めて感じた。


「いつも穏やかに暮らしていれば、そうそう悪いこともないさ」と俊介がカラスを優しく見守るような目で見ていた。

「ところでカラスも産卵のために巣作りをしてるわけだから....」と俊介が意味ありげな笑みを浮かべた。


涼子が「えっ」と振り返ると

「さてさて、俺達も巣作りじゃなくて、子作りでも、しよっか?」と俊介が鼻の下を伸ばして涼子を見ていた。


涼子は呆れた顔をして「ちょっと、朝から何いってるのよ!ほら、ほら、そろそろ支度しないと仕事に遅れるわよ!カラスのようにせっせと働いて、明るい未来の為に宇宙開発をしなさい!それがあなたの使命でしょ?」


俊介は「俺は家族計画も考えたかったんだよ」と思ったが、これは涼子に一本取られたと思い、しぶしぶ朝の支度を始めるのだった。


いかがでしたでしょうか?

個人情報の取り扱いには十分注意して下さい!

そんな願いを込めて書きました。

最後まで、おつき合い頂きありがとうございました。


次はおまけ部分です。

よろしければおつき合い下さい。


ありがとうございました。





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