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コメディタッチのミステリー(?)短編小説です。読みやすいように分けて投稿します。

よろしくお願いします。

遠藤涼子は昨晩からベランダに干してあった洗濯物を部屋へ取り込んでいた。

「あれ、おかしいなぁ、どうしてないんだろう?」涼子は首を傾げながら、頻りに洗濯物をまさぐり何かを探していた。

もう一度取り込んだ洗濯物を一つ一つ確認しながら見てみたが、それはやっぱりなかった。

涼子は働く主婦二年目で、今は大手ドラックチェーンに薬剤師として勤務している。夫の俊介は片づけるのが苦手で、いつもすぐ物を無くすタイプだが、今日は涼子の方が何やら見つからずに探し回っている。

俊介はロケット開発に携わるエンジニアで、二人は三年前に友人の結婚式の二次会で知り合った。お互いに見た目が特に好みという分けではなかったが、何となく安全そうな人という事で、無難に愛を育み、一年前にゴールインし、結婚生活をスタートさせた。

俊介は1人暮らしの経験がなく学生の頃からずっと自宅に住んでいた。結婚後、新居はどこかに構えようということになったが、俊介の勤務地が湘南方面だったこともあり、しばらくは涼子の十二畳ほどの小さなワンルームマンションに転がり込むような形でいっしょに生活していた。

遠藤涼子は学生時代からずっと都会暮らしをしてきた。以前住んでいたマンションは駅からも近く、オフィスビルが立ち並ぶ一角にあり、コンビニも居酒屋もあちらこちらにあり、買い物に不自由することはなかった。グルメ雑誌にもしばしば登場するような名店も建ち並び、窓からは港がきれいに見えるマンションだった。

便利な場所を離れるのには、少し抵抗を感じたが、俊介の勤務地が換わったのを機会に、二人はこの何もない土地にマンションを購入し、三ヶ月が過ぎようとしていた。


ここは何もない分、自然だけは豊かなところだった。二人の部屋は八階建て、四階部分の角部屋で、木々の間から朝日が登るのが見え、小鳥達のかわいい歌声と天気の良い日は光のシャワーで目を覚ます。しかし、夜になると真っ暗になり寂しいところだった。駅から家に帰る路は、すれ違う人さえあまりなく、帰宅が深夜になるような時は静か過ぎて、怖いくらいだ。帰宅途中に後ろ髪を引かれそうなネオン街もないので冬の夜長の時期には、いやでも早寝早起きを強制させられそうな立地条件だった。

ここへ引っ越して来てからは、休日に食料品をまとめ買いをするようになった。最寄りの駅には、牛乳一本買おうと思っても徒歩圏内にコンビニすらない。休日の過ごし方と言えば電車に乗って、どこか街へ買い物に出かけるのが定番になった。

そんな、この何もない暮らしにも馴れてきたと思う、ある春の休日に涼子がちょっとした異変に気づいた。


「やっぱりない!絶対、変だわ」涼子が洗濯物を抱えしゃがみ込んだ。

俊介はソファに横になりながら、野球をテレビで見ていた。

涼子がじぃっとしゃがみ込んだままでいるので、俊介が声をかけた。

「えー、変て何?どうかしたの?」

「んー、ちょっと言いにくいんだけど、この間から何だか様子がおかしいのよ」

「だからその変て何だよ?何か失したのか?」俊介がじれったそうに聞いてきた。

涼子は少しモジモジしながら「だからさぁ、異変を感じるのよ、このところ」

「おーぉ、それってもしかして、もしかして、あれか?」大柄な俊介が横になっていた体をひょいっと起こしたので、ソファが軋んだ。

涼子は下を向きながら、それはもしかして勘違いしているんじゃないかと思ったが「俊介は鋭いから、すぐピンとくるかしら?」少しわざとらしく聞いてみた。

「まぁ、大体は察しがついたよ。俺もいよいよ覚悟を決めないといけないってことだな?まぁ、いいさ、少々小遣いが少なくなっても仕方がないさ、そういうことなら」

涼子は俊介の成りきった勘違いに吹き出しそうになったが、そのままにして様子を見ることにした。

「そうね、まぁ、小遣い減らして貯蓄に回してくれるなら、それに越したことはないし、いいことじゃない?」

「夫婦なんだから生理が来ないって、言われても困るような話しじゃないし、近々そういうことになるだろうとも、思っていたから全然、OKだよ」俊介はニッコリ笑い、自分の胸を「俺に任せろ」と言わんばかりに叩いて見せた。

涼子はますますおかしくなって、勘違いしている俊介に本当の事を言いにくくなったが、

「俊介、あれの話しじゃなくて、これの話よ」と洗濯して乾いたストッキングを持ち上げて見せた。

俊介は一瞬、何だか意味がわからないという顔して、ガクっと滑ると「何だ、人生に関わる一大イベントが起きたのかと思ったよ!靴下がどうかしたのか?俺はパンストなんか履かないから、何のことだかさっぱり分からないよ」と頭を掻きながら、小遣いの事までうっかり余計な事を言ってしまったという顔した。

涼子はちょっと困った顔をして「んー、実はね、最近、洗濯する度に編みタイツだけが無くなってる感じがするのよ!普通のストッキングは大丈夫みたいなんだけど」と俊介を見た。

俊介はニヤっと笑って「何だよそれ、俺を疑っているのか?何かマニアックなものにでも使ってるんじゃないかとか?お前の履き古したパンストは、靴磨くのに使わしてもらうこともあるけど、後は知らねぇなぁ」

涼子は「そっか」と首を傾げ「もしかしたら、この辺に下着泥棒でもいるんじゃないかと思って、ちょっと心配になっちゃったの」と下を向いて言い出した。

俊介は何が受けたのか、アハハっと笑い出して「えー、下着泥棒?お前のAAカップのブラじゃお粗末すぎて、代わりに編みタイツでも取って行ったってことか?」とからかうように言った。

涼子はムっとして「Bカップですぅ。今はAAカップなんて流通してないんですけど!」とほっぺたをプっと膨らました。更に続けて「この辺て前の所とちがって山が近いし、その辺の雑木林に人が隠れていても分からないんじゃないかと思って。それに...」と涼子が口ごもった。

俊介はちょっと呆れ気味に「何を言ってるんだよ!編みタイツの1つや2つなくなったくらいで、下着泥棒扱いされたんじゃぁ、たまらないか?風で飛んで行ったってこともあるし」大した話しではないとだろうという顔して涼子を見た。

すると涼子が「いや、この頃、編みタイツばかり何度もやられてる見たいだし、その他にもちょっと気になる点があって急に心配になってきたのよ!何か特別な趣味のある人に狙われているんじゃないかと思って...」と心配そうに俯いた。

一瞬、俊介も黙ったが、何を言っているんだという顔をして「編みタイツフェチの変態がいるなんて考えるなよ!お前の編みタイツに一体どんな価値を見てるって、言うんだよ!いくら何でもそんな暇なやつはいないだろう?どんなやつなんだか、顔を見てみたいくらいだよ」と軽く笑い、窓の外を覗き込んだ。


続く

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