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九十九番目の夢(99th Dream)  作者: 毛利秋王
第一章【生まれながらの罪人】
3/99

3rd Dream








小鳥のさえずりと共に目が覚めた。締め切ったカーテンの隙間から朝日が漏れ、新しい一日の始まりを告げていた。

新しい一日……。だが、僕の頭の中はちょっとしたパニックに陥っていたため、“清々しい朝”なんて表現とは対極にあった。

「何だったんだ、あの夢は……?」

ベッドの上で、僕はひとり呟いた。

夜の街で通り過ぎようとしている老夫婦のハンドバッグを奪い取り、逃げ去っていく自分の姿。そのシーンがやけに脳裏に焼き付いて離れずにいる。

僕は夢の内容を否定するように何度も頭を激しく横に振った。

身体が重く感じる。のそのそとベッドから足を出し、頭を抱えながら起き上がった僕は、洗面台へ行き、顔を洗った。水道水がやけに冷たかったが、夢の記憶を消し去ってくれるならと、僕は冷水を頭から浴びた。そして、次第に僕の神経は現実世界へと引き戻されていくのを感じた。

「……クソッ!ワケの分からねえ夢ばっかり見やがって!!」

鏡に写る自分に向かって、僕は悪態をついた。


壁時計に目をやると、5時を少し過ぎたところだった。いつもなら6時まで眠り、1時間で朝食と身支度を済ませ、7時半には職場へ到着している流れだ。

『あと、もう1時間弱は眠れる』

一瞬、そんな考えが頭を過ぎったが、またうなされるのはゴメンだと思い、首を横に降った。濡れた髪の毛から雫が飛び散り、洗面台の鏡や床が濡れた。

「チッ!」

舌打ちし、渋々僕は濡れた洗面所をタオルで拭き取った。

そんなこともあり、この日はいつもより準備に時間がかかった。


結局、アパートを出たのは丁度7時。普段と変わらないな、と思いながら、僕は自転車で30分掛けて職場へ到着した。

移動中は意識が朦朧とし、漕いでいた自転車が何度も左右に揺れた。時折、視界がグニャリと波打っているように感じ、その度に頭を激しく降って意識を戻した。

途中、歩道の無い狭い道路を進んでいた時、また自転車をフラつかせた。……と、後方から追い抜こうとしていた自動車に接触しそうになり、クラクションが鳴り響き、間一髪のところで僕はハンドルを切り返して車を避けた。通り過ぎる車から中年の男が顔を出し「バカヤロー!!」と叫んでいた。

僕の鼓動は激しく波打ち、冷や汗が頬を伝っていった。


「おい!何やってるんだ!!」

工場内に怒声が響き渡り、僕は我に返った。

僕の視界にはいくつものパンが床に叩き落されていた。

ベルトコンベアで流れてくる大量のパンを、最後尾にいる人がカートに移さなければならず、今日の僕はその業務に割り当てられていたのだ。しかし、この日の僕はいつの間にか神経が何処か別の所へ飛んでいたのか、上司の怒声が聴こえるまでそれに気付かなかった。

僕は胸倉を掴まれたが、佐々木主任が間に入ったおかげでその場は済んだ。

佐々木主任に呼ばれた僕は、昨日、心療内科へ行った経過を話した。そして、「暫くの間、有給休暇を使って休め」と言われ、僕は会社を早退することになった。


フラつく足取りで自転車を漕ぎながら家路をたどるも、途中、また車に撥ねられそうになったが、何とか無事に帰ることができた……ようだった。正直に告白すると、この帰り道のことも、職場にいたことも、はっきりと覚えていない。ただ、映像だけが頭の片隅に残っているという感じだった。





……辺り一面が青白い。目の前は漆黒の闇が広がっている。

僕の身体は宙に浮かび、その洞窟のような空間をゆっくりと進んでいく。

しかし、闇から抜け出すことはできない。まるで、この暗闇が永遠に続くのではないかと思えてくる。


何万kmも、何十万kmも、何光年も進んだ気がする。


突然、眼前に淡い光が広がってくる。と同時に、赤ん坊の泣き声が聴こえてくる。


懐かしい温もりを感じていると、何処からか、また“声”が聴こえてきた。


「これで“みっつ目”だな……」







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