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九十九番目の夢(99th Dream)  作者: 毛利秋王
第一章【生まれながらの罪人】
2/99

2nd Dream







あの夢を再び見るようになって一ヶ月が過ぎたが、今も僕は夜中にうなされては目が覚める日々が続いていた。

夢の大まかな内容は幼少期に見ていたものと同じようで、少しばかり違っていた。それは、大人になった今現在の僕が裁かれようとしているのだ。ということは、つまり、今も僕は、記憶に残っていない何かの罪を背負い続けている、ということになる。

それと、もうひとつ。幼少期に見ていた夢の中では、裁かれようとしたその時、天から光が差し込み、僕はいつも最終的には助かっていた。しかし、今見ている夢は違う。頭上に光を感じるが、誰も助けてはくれず、身動きの取れない僕は“鬼”達の手により、首を撥ねられようとする……。


「……うぅ…………うわあああああーーー!!」

深夜、発狂して僕は目覚める。動悸がして身体中の毛穴から汗が吹き出し、止まらない。そんな日々が続き、次第に僕は眠るのに恐怖し、殆ど眠れなくなっていた。


その影響は仕事やプライベートにも現れるようになった。睡眠不足と情緒不安定で日中は意識が朦朧とし、足元がフラついた。以前では考えられないような簡単なミスをするようになり、上司に怒鳴られることが増えていった。ただでさえこっちは眠れなくてイラついているのに、更に余計なストレスを与えてくる周囲の人間が邪魔に思えた。


元々、僕は人付き合いが苦手で、職場でも業務以外のことでは同僚にも無駄に話すことはせず、黙々と仕事をこなしていた。上司や同僚達からは「取っ付きにくい奴」と思われているだろうし、それは彼らの態度を見れば一目瞭然だった。僕を見る彼らの目が『お前は何を考えているのか分からない』と言っているのが聴こえてくるようだった。そして、そんな彼らに対し、僕自身もどう接していいのか分からず、僕も『皆が何を考えているのかが分からない』となっている。そこには、絶対に深まることのない、見えない壁が存在していた。


しかし、与えられた業務はしっかりとこなしていたため、僕は仕事では信頼されてはいた。それでも、ここのところの僕はあまりにも以前と違っていると思ったのだろう。イージーミスを繰り返すようになっていた僕に、現場主任の佐々木さんが声を掛けてきた。そして、最近眠れない旨を伝えると、心療内科へ行くことを勧められた。


「千野さん、千野未来(せんのみらい)さん、どうぞ」

ネットで調べ、近所でわりと評判の良さそうな心療内科へやってきた僕は、手続きを済ませ1時間以上待っていた。そして、ウトウトしながら待合室のソファに座っていると、受付の若い女性が僕を呼ぶ声がした。

町村(まちむら)クリニックの院長である町村高雄(まちむらたかお)先生との出会い。ここから僕の“運命”が動き出した。


町村先生の年齢は60代後半で黒縁メガネを掛け、落ち着いた雰囲気のある人だった。人と接するのが苦手な僕だが、先生には初対面の時から自分の現状をすんなりと話すことができた。

「なるほど……。では、お薬を出しておきましょう」

いくつかの質問をされ、僕の話を一通り聞き終えた町村先生は睡眠薬の処方を勧めた。

この時の細かな会話の内容について、僕は殆ど覚えていない。ただ、僕の現状を伝え、質問に答え、薬の処方を勧められ、そして、クリニック近くにある薬局で薬を購入した。それらのシーンだけは映像としてぼんやりと記憶に残っているといった感じだ。


ここのところ食欲なんて無かったが、途中でコンビニへ寄り、サラダだけ購入し、それを帰宅後に3分の1程食べた。食べたというより、無理矢理、胃袋へと流し込んだ。そんな苦痛ともいえる夕食を済ませ、先程貰った薬を口へ放り込んだ。ベルソムラ20㎎1錠に、デパス0.5㎎を2錠。それをコップ一杯の水で一気に飲み干した。

サッとシャワーを浴び、ジャージに着替え、歯を磨き、ベッドへ潜り込む。部屋の灯りを消し、暗い天井を見つめながら、意識がゆっくりと遠のいていくのを感じた……。





夜の街。僕は足元をフラつかせながら歩いていた。すると、目の前に老夫婦が何か話しながら近付いてくる。

「こんな大金、私、持つの怖いから、あなた持ってよ!」

老婆が両手に抱えているハンドバッグを夫の胸元へと押し付ける。男はそれを持とうかどうしようかと躊躇している。


老夫婦は僕の真横を通り過ぎようとする。辺りには僕と老夫婦以外に誰もいない。


……と、その瞬間、僕は彼らのハンドバッグを奪い取り、そのまま走り去った。


途中、走りながら後ろを振り向くと、老夫婦がこちらに視線を向けているのが見えた。


しかし、僕は足を止めることなく、闇の中へと消えていった。


逃げる僕の耳に、誰かの声が聴こえた。

「これでやっと“ふたつ目”だな。お前に“100”はやってこない」


それが誰の声なのか、どういう意味なのか、その時の僕には分からなかった……。






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