本当は
「ただいまー」
「おかえり、新輝ー。ご飯出来てるわよ」
「ああ、うん。すぐ行くー」
家に帰ると、リビングから美味しそうな匂いが僕を迎えてくれる。
どうやら、すでに母さんがご飯の準備をして待ってくれていたようだ。
しかし、今日の騒ぎのせいで疲労が溜まっていた僕は部屋に戻ると、一目散にベッドにダイブした。
少し休憩したら、ご飯を食べに行こう。
最悪、寝てしまったとしても母さんが起こしに来てくれるはずだ。
……しかし、やっぱり人と喋るのは疲れるな。
そもそも、元々僕はそこまで喋るのが得意な方じゃない。
中学時代は陰キャといえば僕、僕といえば陰キャみたいなところがあったくらいだ。
まあ、僕自身も団体行動より一人でいる事の方が好きだったので、特に辛いと感じる事もなかったが……。
あれ?それじゃあ、僕は何で今こんなに頑張って人と関わっているんだっけ?
……ああ、そっか。中学を卒業した時に母さんに卒アルを見せたら、最後に友達などが書き寄せみたいな感じでメッセージを書いてくれるはずの、空白になっているページ。
あそこのページが真っ白なままなのを見た母さんが、少し悲しそうな顔をしたからだ。
僕自身にも社会に出た時に今のままじゃ不味いなという自覚もあったので、高校に入ったら出来るだけ他人と関わるようにしてみようと考え、何を間違えたのかこうなってしまったのか。
中学と比べると雲泥の差だが、出来ればもう少し大人しいポジションに行きたい……。
しかし、最初は必死過ぎて特に意識してはなかったが、これはいわゆる高校デビューというヤツなのだろうか?
まあ、僕がした事なんて言えば、たまたま同じ高校に入学していた真の陽キャの真似をしたくらいだが。
……ああ、でも、入学式の次の日の朝、元々同じ中学だし、何故か行けると思ってしまった僕は、わざわざ待ち伏せまでしてそいつに話しかけに行ったっけ。
僕としては、ただ友達というものを作りたかっただけなのだが……今思えば、あの時の僕は緊張もあいまって相当気持ち悪い感じに仕上がっていたと思う。
本来なら、友達どころか怖がられてもおかしくはない状況だが、しかし、そいつは最初に少し驚いただけで、すぐに僕相手でも笑って話しかけてくれるようになったのが印象に残っている。
……本人には絶対に言わないが、あの時の僕は友達の作り方すら知らなかったので、最初から普通に喋ってくれたアイツにはかなり感謝しているのだ。
それにアイツは空気を読むのがめちゃくちゃ上手い。だから、僕が考えている事を察してか、クラスでもみんなと馴染みやすくなるように積極的にイジってきてくれた。
……まあ、そのせいですっかりイジられキャラが定着してしまったが……あれ?よく考えたら、僕が今困っている原因もアイツじゃん。
結果としてはありがたかったのだが、こう絶妙に感謝出来ない辺り、何だか凄くアイツらしいなと思うと自然と笑みが溢れていた。
……いつか、ちゃんとお礼が言える日が来たらいいな。