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高橋新輝の日常


 5月10日、ゴールデンウィークも終わり夏の兆しが現れ始める、そんなある日。


 先月から無事に高校2年生に進級する事の出来た僕こと高橋新輝たかはししんきは、いつも通り通学路を歩いていた。


「お誕生日おめでとう!」

「へっ⁉」


 しかし、いきなり何者かに後ろから突進されてしまい、思わずつんのめってしまう。


「サプラァァイズ」


 慌てて後ろを振り向くと、そこにはストレートに伸ばした黒髪を元気一杯に揺らした美少女が、無駄に上手い巻き舌を使いながらこちらを見てニンマリと笑っていた。


「ダンプカーに跳ねられたかと思ったわ」

「は?ぶっ飛ばすよ?」


 そう言って、持っていたカバンを僕の背中に思いきり叩きつけて来たのは、同じクラスの人見謳歌ひとみおうかだ。

 謳歌は、その男女関係なくグイグイと距離を詰める性格と人形みたいに整った容姿が合わさり、学校では男女を問わず人気者の人物だ。


 何故、そんなリア充と僕が知り合いなのかというと……特に深い理由はなく、ただ単に中学が同じだったので高校への入学を機に良く話すようになったというだけだ。

 しかし、謳歌とは今でこそ誕生日を祝って貰えてるくらいには仲が良いが、中学時代ではそれこそ全く交流がなく、正直ここまで仲良くなれるとは思ってなかった。


「折角、女の子から誕生日を祝ってもらってるんだから、もっと素直に喜びなよ!」

「はいはい、嬉しい嬉しい」

「あーっ!そんな態度取るなら、誕生日プレゼントあげないから!」

「自分、謳歌さんのことマジ可愛いって前から思ってました」

「……え、そんなに誕生日プレゼント欲しいの?必死過ぎて引くんですけど」

「お前ぶっ殺すぞ」

「急に怖すぎて草」


 謳歌はそう言ってケラケラ笑うと、ガサゴソと鞄を漁り、コンビニの袋をヒョイッと取り出して僕に渡してくる。


「はい!誕生日プレゼントのアーモンドなチョコだよ!たぶん、好きだったよね?」

「え、何で知ってんの?」


 僕は驚きながら、謳歌からコンビニでよく売っている、ちょっとお高めなお菓子を受け取る。

 彼女でもない女子から受け取るプレゼントとしては、かなり無難な方だとは思うけど、それでも僕の好きなお菓子を選んで来たのにはシンプルに驚いた。


「うん?この前、たまたま新輝を近所のコンビニで見かけた時に、ちょうど買ってたから覚えてたんだよ」

「マジか。何でその時に声かけなかったんだよ?」

「いや、ちょうどレジでお会計してるところだったし、別にいいかなーって、それとも声かけてたら何か奢ってくれてたの?」

「え、ま、まあ一応……?」

「おおーっ、リッチじゃん!じゃあ、今度からよろしくね!」


 ……あれ、おかしいな。今日は僕の誕生日のはずなのに、気が付いたら自然と僕が奢る流れになっているぞ?


「でも、どうする?これで教室入った時に、誰もお祝いしてくれなかったら」

「うーん……別に、誕生日とかあんまり他の人に教えてないから、普通にそっちの可能性の方が高いかもな」

「えーっ!私だけ新輝の誕生日祝うの何か嫌だなー」

「何でだよ⁉︎」

「うん?だって、私だけプレゼント渡してたら、新輝のことガチで好きみたいになるじゃん」

「そのまるで僕のことが好きじゃないみたいな言い方に、大変異議を唱えたい」

「オタク特有の早口でワロタ」


 その一言で、僕は心に深刻なダメージを負う。

 お、オタクちゃうわ!


「まあ、大河とかはたぶん祝ってくれるでしょ!」

「あっ、それは確かに」


 謳歌の言う通り、高校で一番仲の良い友達の大河なら、僕の誕生日もちゃんと覚えていてくれそうだ。

 それに何だかんだで、去年もラーメンを奢ってもらったしな。


「でも、忘れられてたらショックだから、あんまり期待しないでおくよ」

「大河の事だし、流石に覚えてるとは思うけどなぁー……まあ、忘れられてたら、代わりに私がめっちゃ笑ってあげるね!」


 謳歌はそう言って、ニッコリと笑う。

 ……それはきっと、本当に忘れられていたとしても、私が構ってあげるから心配しなくていいよという、彼女なりの優しさなのかも知れない。


 僕はそんな不器用な励まし方しか出来ない友人に向かって、全て分かっていると言うように微笑みながら感謝の言葉を告げる。


「いや、全然無理だけど?」


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