8.普通との違い
食卓には、既に父母が揃っていた。その傍らにエリスを抱えたパーシャがいる。
他の使用人達も並んでいた。僕と一緒に到着したユーリはそちらへ並ぶ。
ランド・スチュワードであるカール=バッカスや、ヴァレットのクルード、バトラーのイエイツ、パーラー・メイドのケイン等がそこには控えていた。
食卓は、花の装飾が施された無駄に長い長方形のテーブルで、上座に当主の父が、向かって左に母が、右に僕が座ることになっている。
我が家では、できる限り家族全員で食事をすることになっているのだが、父が仕事でいないことが多い。
ここ数日はエリスのこともあり、父が家を空けることは少ない。
出かけても日帰りで、忙しい身でありながら家族思いの良い父親だと思う。
今日もいつも通りイエイツやケイン達が食事を配膳してくれる。
今日の夕食は、前世のフランスパンのような細長いヘリアセパンと、シチュー、マリネ、パイ、その他いろいろとタルト等、食べきれないような量が大きな食卓に並ぶ。
毎日満足できる料理を出してくれるコックのジェスト=バッチェリや、キッチンメイドのルイドやゼラム達には感謝しかない。
そのためできるだけ残さず食べたいのだが、年齢的にそれ程食べられるわけもなく、いつも残っているのが勿体ない。
食事を終えたので、ステータスのことを父に尋ねてみた。
貴族の家には、ステータスを確認する【投影石】があるらしく、父はある程度の使用人のステータスを知っているらしい。
細かいことはハウス・スチュワードやハウスキーパーに任せているそうだが、よく関わる使用人のものは覚えているそうだ。
スキルを取得した際に疑問に思っていた【投影石】の謎も解けた。
唯一の【投影石】は、王宮にあるそうで、貴族は爵位によって質の違う模造を授与されているそうだ。
家は公爵家なので、模造の中でも良いものが渡されているらしい。
〖隠蔽Ⅷ〗までなら無効化できるそうだ。
普通、貴族の家では3歳になるとステータスを確認するそうなので、その前に〖隠蔽Ⅹ〗取得できてよかった。
平民はステータスを測ることなど滅多になく、街の検問所などに[名前][年齢][種族][性別][職業][Lv]を表示する【投影石】が設置されていて、そこで検査のために計測するか、子供のころに学院や学園などの教育機関で年に二度測るくらいだそうだ。
そもそも、【投影石】は教育機関での成長の記録を目的としたものを除くと、相手の素性を確認するためのものだそうだ。
自分のステータスは自分で確認できるので、【投影石】など普段は必要ないということなのだろう。
因みに【投影石】の質が多くの貴族よりも上回るのは、王家や上級貴族の信頼のある大商人か、エイヴィスティン王国最大最高峰の、王立フィオレンツ学園や国立レーナンス学院くらいらしい。
ステータスのこと等を聞いていると、父がとてもありがたいことを言い出した。
「そんなに気になるのなら、俺のを見てみるか?」
「是非お願いします。」
〖鑑定Ⅹ〗で見ることはできるが、既にスキルを取得していることがバレるのは不味い。
そんな僕にとって良い方向に話が流れた。
父がイエイツから石でできた板を受け取る。
フットマンに何か耳打ちしていたイエイツだが、これを取りに行かせていたらしい。
席を立ち、父の元へと向かうと、石版は10cm×20cmくらいの大きさで、魔法陣が彫られていることが分かった。
父が魔法陣の上に掌を翳すと、3D画面のようなものが飛び出してきた。
そこには父のステータスと思われる情報が表示されていた。
[名前] スモーツ=ベリル=アドルクス
[年齢] 24
[種族] 人
[性別] 男
[職業] 魔法剣士
[称号] アドルクス公爵家当主
[Lv] 96
[HP] 5363/5363
[MP] 4204/4204
[攻撃力] B
[防御力] C
[魔法力] B
[知力] A
[魔法適性]
火・雷
[取得スキル]
〖威圧Ⅴ〗〖速読Ⅴ〗〖敵意感知Ⅴ〗
父は、二属性の適性があり、スキルレベルⅤを3つ取得しているようだ。
父のステータスを見せてもらい目を輝かせている僕を見て、母が口を開いた。
「私のも見る?」
「是非」
母もステータスを見せてくれるようだ。
[名前] シルビア=ベリアン=アドルクス
[年齢] 22
[種族] 人
[性別] 女
[職業] 魔術師
[称号] アドルクス公爵夫人
[Lv] 38
[HP] 886/886
[MP] 1864/1864
[攻撃力] D
[防御力] D
[魔法力] A
[知力] A
[魔法適性]
風・光
[取得スキル]
〖記憶力上昇Ⅲ〗〖魔法詠唱短縮Ⅲ〗
二属性持ち自体珍しいのに、両親が二属性の適性持ちとは……
他の使用人の皆のステータスは勝手ながら〖鑑定Ⅹ〗で見させてもらった。
今後の参考にも、この世界の人たちがどんなレベルなのかを知らないといけないし……
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皆のステータスを見てわかったのは、我が家の使用人達は優秀な人が多いということと、自分がいかに異常なステータスかと言うことだ。
家にある【投影石】では潜在能力までは見ることができないが、〖鑑定Ⅹ〗ではそれもわかる。
潜在能力限界まで達している人は少ないようだが、それぞれ役職に合わせた能力が他より上がっていたり、スキルもそれに合わせたものを取得しているようだった。
家の使用人の採用条件は例外もあるそうだが、
・フットマン・・・Lv60以上。HPが1500以上。攻撃力か防御力がB以上。知力がA以上。スキル〖職業能力向上Ⅴ〗以上取得。
・ハウスメイド・・・Lv25以上。攻撃力か防御力がC以上。スキル〖職業能力向上Ⅴ〗以上取得。
・警備・・・Lv100以上。HPが2500以上。攻撃力か魔法力及び防御力がA以上。二属性以上の適性持ち。スキル〖戦闘能力上昇Ⅵ〗以上と、その他にスキルレベルⅤ以上のスキル1つ以上取得。
・キッチンメイド・・・Lv25以上。スキル〖調理技術向上Ⅲ〗以上と、その他にスキルレベルⅢ以上のスキル1つ以上取得。
ということらしい。
今この場にいる使用人達はこの条件をみんな満たしている。
やはりスキルが採用に大きく関わってくるようだ。
将来僕がこの家を継ぐのであれば、父さんと同じスキルを取得するのもありかもしれない。
因みにエリスのステータスも鑑定してみた。
[名前] エリス=ベリアン=アドルクス
[年齢] 0
[種族] 人
[性別] 女
[職業] —
[称号] アドルクス公爵家長女
[Lv] 1
[HP] 13/13
[MP] 19/19
[攻撃力] G(潜在:A)
[防御力] G(潜在:B)
[魔法力] F(潜在:SS)
[知力] G(潜在:S)
[SP] 0
[魔法適性]
水・闇・無
[取得スキル]
なし
〔アイテムボックス〕
空
これは中々ではないだろうか。
使用人の皆よりも明らかに潜在能力が高い上に、三属性の適性がある。
今日のこの時間を通して、この世界のレベルがある程度わかった。
明日からは、この世界について調べてみるのも悪くない。
エリスの想像以上の潜在能力に将来を楽しみにしながら、僕は自分の部屋へと戻り、眠りについた。