5.新たなる生活
んー……ふぁー……
眠たいなぁ。
寝すぎた時の怠さとは違う、何か身体の重さを感じながら目を覚ます。
結構長い時間寝ていた気がするんだけどなぁ。
自分が寝ているのは小さなベッドのようだ。恐らくはベビーベッドだろう。
何か視界に違和感を感じながらも、自分が今いる位置を把握する。
首が思うように回らず、目だけでキョロキョロと周りを見渡すが、誰かが近くにいる気配はない。
しかし、生活音や女性の楽しそうな話し声が聞こえる。
正方形に近いかなり広い部屋の扉から見て右側の壁に、扉のついていない出入り口がある。
そちらの方から水を流す音や、食器同士が当たる音、それに話し声や笑い声が聞こえてくる。
この頃、ようやく頭が回りだし、自分が【神界】から転生したことを思い出す。
ここで違和感の正体に気がついた。
視界の左上にHPと書かれた緑と、MPと書かれた青のゲージが見えているのだ。
これがゼーウス様の説明にあったもので間違いないだろう。
しかし、こんなものが常時見えていて、この世界の人たちは気持ち悪くないのだろうか。
いや、これが普通だから可笑しく感じないのか?
頭を少し動かしてみるが、目に映る景色は変わるものの、ゲージだけはずっと同じ位置に見え続けている。
一体どんな仕組み何だろう。
物語に登場するフルダイブ型のゲームみたいな感じで面白いな。
でも、ここはゲームじゃない。死んでも生き返れない。
あんな痛い思いは二度としたくない。
ゼーウス様の話では、「ステータス」と言うと、自身のステータスの詳細が表示されるらしいのだが。
女性たちはそれなりに離れた距離にいるようだし、一応別の部屋だ。
小さな声であれば気付かれないだろう。
「ステータス」
僕は極限の小ささで声を発する。
すると、ウィンドウのようなものが出現する。
そこには様々な情報が表示されていた。
[名前] ライル=ベリル=アドルクス
[年齢] 0
[種族] 人
[性別] 男
[職業] —
[称号] アドルクス公爵家長男
[Lv] 1
[HP] 53/53
[MP] 58/58
[攻撃力] G(潜在:SS)
[防御力] D(潜在:SSS)
[魔法力] F(潜在:SSS)
[知力] D(潜在:EX)
[SP] 0
[加護] 最高神ゼーウスの進化型加護Ⅰ
[魔法適性]
火・水・風・土・光・闇・木・雷・氷・無
神聖魔法・回復魔法・時空魔法・呪術魔法・精霊魔法
[固有スキル]
〖獲得経験値超増加〗〖獲得SP超増加〗〖限界突破〗〖絶対防御〗
[取得スキル]
なし
〔アイテムボックス〕
空
Lvが1なのは当然として、このステータスはどうなのだろうか。
他の人と比べないと何とも言えないが、恐らく潜在能力は異常だろう。
最低評価がGだとすると、防御力と知力が高いのか?
確か、魔法の種類は前々世のものと変わらないとゼーウス様が仰っていたはずだ……
だとしたら、ゼーウス様……
これはやりすぎですよ。
公爵家というのもやり過ぎ感があるのに……
全種類の属性と属性外魔法が表記されている。
それともこの世界では、みんながみんな全種類の適性を持っているのだろうか。
それはないだろう。
もしそうだとしたら、この[魔法適性]の欄はいらないだろう。
それに〈加護〉とは?
最高神ゼーウスって表示されてるってことは、ゼーウス様は神々のトップだったのか……
確かに御威光を放っておられたし、それっぽい雰囲気は感じた。
はぁー。色々用意してくれるとは仰っていたけど、ここまでしてくださるとは……
何かあったら助けてくれとのことだけど、ここまでする程のことが起こる可能性でもあるんだろうか。
まぁ、今はゼーウス様のお気持ち、ということにしておこう。
あの世界には戻れないようだし、この世界で楽しく生きよう。
ありがたく生きさせてもらいます、ゼーウス様。
ふぁー。眠たい。
詳しいことはもう一度寝てからにしよう……
僕はまた深い眠りについた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
さて、よく眠ったことだし、今日はステータスにあった〔アイテムボックス〕というものについて調べてみるか。
「ステータス」
また、今日も昨日と同じように声がするので、極力声を抑える。
その小さな声にも反応して、あのウィンドウが現れる。
そこで僕は昨日から気になっていたことを確かめることにする。
何かこの〔アイテムボックス〕の表記だけ他のと違うんだよな。
押してみるか。
ウィンドウの〔アイテムボックス〕の部分に触れると、新たなウィンドウが出現する。
しかし、そこには何も表示されていない。
ゼーウス様の話だと、この世界では人間は全員〔アイテムボックス〕という収納スキルを持っているということだった。
その大きさはそれぞれのMPに比例するらしいけど……
恐らく、ここで入れたものを確認できるんだろう。
どうやって入れるんだろう?
取り敢えず言葉にしてみる。
「アイテムボックス」
すると、視界の一部が歪み、空中に黒い小さな窓が現れる。
その窓には奥行きがあるように見え、恐る恐る手を入れてみると……手が中に入っていく。
今の短い腕でも底に手がつく程の、とても小さな異次元空間であることがわかった。
空間は平面的で、真横から見ると、入れた手が途中から消えているように見える。
これはかなり便利なのではないか?
荷物運びにはもってこいじゃないか。
この世界の人々は結構楽な暮らしができるのでは……
等と考えていると、お尻のあたりがあたたかくなる。
これは……
「オギャー、オギャー・・・」
これに関しては、恥ずかしすぎる。
未だ首も座っておらず、自分で思うように動けない。
その上言葉も発せられないので、泣くしかないのだが……
自分が出したものを誰かに片づけてもらうというのは、言うまでもなく恥ずかしい。
特に高校生の状態からの転生だったので、そういうのは……
しかし、片付けてもらわないと気持ち悪いし……
それと、もう一つ恥ずかしいことがある。
昨日もそうだったのだが……食事だ。
生まれたばかりの赤ちゃんの食事と言えば、ミルクなのだが……
粉ミルクなどがないのか、栄養的な意味なのかはわからないが、母乳なわけであって……
母ではない、ウェットナース、所謂乳母が授乳してくれるのだが……
早く離乳食になってほしいものだ。
そう思っていると、さっきも食事をくれたウェットナースが泣き声にすぐ気がつき、世話をしに来てくれた。
はぁー……
ゼーウス様、高望みなのかもしれませんが、ここは何とかならなかったんですかね……