1.虐げられし者
僕は昨日まで普通の高校生として生きてきた。
他の人と何も変わらない平凡な男子高校生。友達とふざけ合い、仲良く遊んだり、時には喧嘩もする。そんな普通の生活をしていた。
そんな僕には他人とは違うことがあった。誰にも言えない秘密があった。それは、
僕は【転生者】だった。
一度目の人生(覚えているのがここからで、これよりも前があるのかもしれないが)は、モンスターといった危険な生物が存在する、所謂ファンタジーな世界。
魔法が使えるのが当たり前。
魔法が苦手な者は剣で身を守るのが当たり前。
いつ死ぬかわからない。毎日が死と隣り合わせ。そんな過酷な世界。
その世界で僕は、辺境の地の狩人の次男として生まれ、育った。
僕の生まれた村に学校はなく、家業に専念するのが普通だった。
うちの家は狩人、村の他の狩人と共に村人全員の食料を狩りに行く。それが仕事だ。
ある程度の技術を身に着けたら、親の仕事に付いて行き、そこで実践的に学ぶ。
そうやって次の世代が育っていく。
そんな場所に生まれたのが落ちこぼれで、魔法はおろか、剣も握れないような僕だった。
病弱で体力もなく、力のない僕は、村人だけでなく、兄弟、父母にまでも見放されていた。
兄は魔法は苦手のようだが剣と弓が得意で父にも認められ、一人で狩りに行くことも屡々。
弟は僕よりも2つ年下だったが、あっという間に魔法の腕が一流のそれとなり、兄と共に狩りに出かけていた。
兄弟には馬鹿にされ、虐められ、父母には「タダめし食い」とお荷物扱いされていた。
だから「いつか見返してやる」と、そう思いながら必死に勉強していた。
しかし、この村では頭が良くても良いことはない。親の仕事ができて一人前なのだ。
そもそもこの世界自体、階級と武力がすべてという思想で、頭が良くて得をするのは階級が上の者、貴族だけだった。
しかし辺境の村で育った僕がそのことを知る機会はなかった。
そんな世界で毎日必死に勉強していても意味はなく、家族や村人たちは僕を蔑み、怪訝そうに見ていた。
それでも僕はやめることなく、村にある本や、偶に村に来る商人、その他、僕を哀れんだり、必死な僕を認めてくれた極少数の人から色々な知識を得た。
村では使うことのない都会での常識、モンスターや武術、魔法についてもこれ以上ない程に学んだ。
学べば学ぶほど賢くなる。一度覚えたことは忘れなかった。皮肉なことに頭の出来は良かったようだ。
おかげで僕の知らないモンスターや流派、魔法はこの辺境の地で学べる範囲ではなくなった。
都会に行けばもっと学べるのだろうが、力のない僕がそんなことできるはずもなく、村での生活を続けていた。
そんなある日、村にモンスターが攻めてきた。
普段であれば、村の男たちが撃退するのだが、今回は違った。
相手が悪かった。街近郊に出るモンスターを世界中を回って討伐する冒険者や、街に攻めてきたモンスターなどを処理する騎士でも、下手をすれば倒しきれないような凶悪なモンスターが攻めてきたのだ。
この村は辺境にある。商人もそれ程頻繁に訪れないような場所だ。
騎士が来ることはおろか、冒険者すら滅多に来ることはない。
そんな村に強力なモンスターが攻め込んできたら、村が壊滅するのは時間の問題だった。
男たちは必死に抵抗し、女、子供を逃がした。
しかし僕は、母や兄弟が逃げるための囮として使われた。
村人たちもそれを見て見ぬふりをする。
人間とは非情な生き物だ。僕を認めてくれていた人も僕を助けることなく、モンスターの餌として見捨てた。
次々と現れるモンスターに踏まれ、潰され、喰われる。
痛みを感じたのは最初だけだった。
逃げ惑う村人たちはこちらに目を向けることすらせず、燃える家から飛び出し必死に村の中を走り回る。
モンスターに喰われながらそんな者達の無様な姿を見つめる。
次第に意識が遠退いて行く。
脚も腕も喰われ、腹からは臓器が飛び出している。
見るに堪えない姿へと成り果て、完全に意識が途絶えた。
僕は死んだ。
その後、家族や村がどうなったのかは知らない。知りたいとも思わない。
僕のことを毎日のように蔑み、良い人だと思っていた人も最後には僕を利用した。
そんな奴ら別にどうなっていても構わない。死んでいてくれたら……そう思えた。
誰も手を差し伸べてくれず、自分で戦う力もなければ逃げる力もない。
なんで僕だけがこんな目に合わなければいけないんだ。
魔法が使えたら……
剣が振れたら……
健康だったら……
もっと大きな街に生まれていたら……
貴族の家に生まれていたら……
優しい家族に恵まれていたら……
あんなに努力したのに……
あれだけ我慢したのに……
ふざけるな……
ふざけるな……
フザケルナ……
何かが心を真っ黒に染めたような感覚が僕を襲った。