表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目の人生を満喫したい  作者: 八尋
第1章 転生
2/12

1.虐げられし者

 僕は昨日まで普通の高校生として生きてきた。


 他の人と何も変わらない平凡な男子高校生。友達とふざけ合い、仲良く遊んだり、時には喧嘩もする。そんな普通の生活をしていた。


 そんな僕には他人とは違うことがあった。誰にも言えない秘密があった。それは、


 僕は【転生者】だった。


 一度目の人生(覚えているのがここからで、これよりも前があるのかもしれないが)は、モンスターといった危険な生物が存在する、所謂ファンタジーな世界。


 魔法が使えるのが当たり前。


 魔法が苦手な者は(武器)で身を守るのが当たり前。


 いつ死ぬかわからない。毎日が死と隣り合わせ。そんな過酷な世界。


 その世界で僕は、辺境の地の狩人の次男として生まれ、育った。


 僕の生まれた村に学校はなく、家業に専念するのが普通だった。


 うちの家は狩人、村の他の狩人と共に村人全員の食料(獲物)を狩りに行く。それが仕事だ。


 ある程度の技術を身に着けたら、親の仕事に付いて行き、そこで実践的に学ぶ。


 そうやって次の世代が育っていく。


 そんな場所に生まれたのが落ちこぼれで、魔法はおろか、剣も握れないような僕だった。


 病弱で体力もなく、力のない僕は、村人だけでなく、兄弟、父母にまでも見放されていた。


 兄は魔法は苦手のようだが剣と弓が得意で父にも認められ、一人で狩りに行くことも屡々。


 弟は僕よりも2つ年下だったが、あっという間に魔法の腕が一流のそれとなり、兄と共に狩りに出かけていた。


 兄弟には馬鹿にされ、虐められ、父母には「タダめし食い」とお荷物扱いされていた。


 だから「いつか見返してやる」と、そう思いながら必死に勉強していた。


 しかし、この村では頭が良くても良いことはない。親の仕事ができて一人前なのだ。


 そもそもこの世界自体、階級と武力がすべてという思想で、頭が良くて得をするのは階級が上の者、貴族だけだった。


 しかし辺境の村で育った僕がそのことを知る機会はなかった。


 そんな世界で毎日必死に勉強していても意味はなく、家族や村人たちは僕を蔑み、怪訝そうに見ていた。


 それでも僕はやめることなく、村にある本や、偶に村に来る商人、その他、僕を哀れんだり、必死な僕を認めてくれた極少数の人から色々な知識を得た。


 村では使うことのない都会での常識、モンスターや武術、魔法についてもこれ以上ない程に学んだ。


 学べば学ぶほど賢くなる。一度覚えたことは忘れなかった。皮肉なことに頭の出来は良かったようだ。


 おかげで僕の知らないモンスターや流派、魔法はこの辺境の地で学べる範囲ではなくなった。


 都会に行けばもっと学べるのだろうが、力のない僕がそんなことできるはずもなく、村での生活を続けていた。


 そんなある日、村にモンスターが攻めてきた。


 普段であれば、村の男たちが撃退するのだが、今回は違った。


 相手が悪かった。街近郊に出るモンスターを世界中を回って討伐する冒険者や、街に攻めてきたモンスターなどを処理する騎士でも、下手をすれば倒しきれないような凶悪なモンスターが攻めてきたのだ。


 この村は辺境にある。商人もそれ程頻繁に訪れないような場所だ。


 騎士が来ることはおろか、冒険者すら滅多に来ることはない。


 そんな村に強力なモンスターが攻め込んできたら、村が壊滅するのは時間の問題だった。


 男たちは必死に抵抗し、女、子供を逃がした。


 しかし僕は、母や兄弟が逃げるための囮として使われた。


 村人たちもそれを見て見ぬふりをする。


 人間とは非情な生き物だ。僕を認めてくれていた人も僕を助けることなく、モンスターの餌として見捨てた。


 次々と現れるモンスターに踏まれ、潰され、喰われる。


 痛みを感じたのは最初だけだった。


 逃げ惑う村人たちはこちらに目を向けることすらせず、燃える家から飛び出し必死に村の中を走り回る。


 モンスターに喰われながらそんな者達の無様な姿を見つめる。


 次第に意識が遠退いて行く。


 脚も腕も喰われ、腹からは臓器が飛び出している。


 見るに堪えない姿へと成り果て、完全に意識が途絶えた。


 僕は死んだ。


 その後、家族や村がどうなったのかは知らない。知りたいとも思わない。


 僕のことを毎日のように蔑み、良い人だと思っていた人も最後には僕を利用した。


 そんな奴ら別にどうなっていても構わない。死んでいてくれたら……そう思えた。


 誰も手を差し伸べてくれず、自分で戦う力もなければ逃げる力もない。


 なんで僕だけがこんな目に合わなければいけないんだ。


 魔法が使えたら……


 剣が振れたら……


 健康だったら……


 もっと大きな街に生まれていたら……


 貴族の家に生まれていたら……


 優しい家族に恵まれていたら……


 あんなに努力したのに……


 あれだけ我慢したのに……


 ふざけるな……


 ふざけるな……


 フザケルナ……


 何かが心を真っ黒に染めたような感覚が僕を襲った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ