プロローグ
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ストック分を今日から連日更新します。
赤子の泣き声が近くで聞こえる。それに歓喜する幾人かの泣き声にも似た笑い声も聞こえる。
自分の置かれている状況を理解した時、先の泣き声が自分のものであることもわかった。
自分の身体を抱きかかえているのが誰かはわからないが、しかしあたたかい。
心が落ち着き始めた頃、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。次第に大きくなるその音は、僕の近くで止まった。
その足音の主だろうか、先程まで女性の声しか聞こえていなかったが、明らかに他とは違う太く、逞しい男性の声が聞こえる。どうやら誰かと会話しているようだ。
「待ちわびたぞ。心配で仕事に手がつかなんだ」
「旦那様、ご心配なさるのはわかりますが、執務を疎かにされては困ります」
「わかっている。それよりも息子か、それとも娘か。」
「元気な男の子にございます」
「そうかそうか。我が家の跡取りの誕生だな」
だんだんはっきりと会話の内容も聞き取れるようになってきた。
そんな耳に聞こえたのは、来た時よりも感情が表に出ているように聞こえる男性の声。
そして僕を抱える腕が先程までの細いものではなく、力強く逞しいものへと変わり、男性の声がより近くで聞こえるようになる。
次第に目も見えるようになった。その目に最初に映ったのは、整った顔に少し涙を浮かべる優しそうな男性。
この喜びよう、そして抱えられた時から懐かしいとも感じる心地よさから、この人物が己の父であることを知る。
「シルビアの調子はどうだ。」
「はい。奥様はお疲れの御様子ですが、健康状態に異常はございません」
父と誰かが話す声が聞こえる。
今までの会話から、父と話しているのは父に仕えている者だろう。
そして父の言うシルビアというのは恐らく母。父が優しそうな人物なので母もきっと優しい人に違いない。
暫くして母、シルビアが落ち着いたということで、父に抱えられ母のところへ向かう。
ここに来て初めて自分を産んでくれた人に抱きかかえられる。
父の時よりも細いが、しかし今までの誰よりもあたたかい腕でしっかりと抱いてくれる。
「シルビアも元気そうで何よりだ」
父の言葉で母の整った美しい顔、その瞳からは涙がとめどなく溢れて来る。
「この子も元気そうで良かったわ」
「嗚呼。シルビア、ありがとう。君が頑張ってくれたおかげで、こうして元気な息子の顔を見ることができた」
「そんなことないわ。あなたも色々協力してくれたからよ。でも、これからは家族が増えたんだから、今まで以上に一緒に頑張りましょう」
「勿論だ。できる限り二人と過ごす時間を増やしたいな」
父の目は少し潤んでいるが、決意の色が表れている。
そんな父に母が問いかける。子を持つ親の多くが悩み、その子には一生付いて回るあれについて。
「ねぇ、あなた。この子の名前はもう決めたの?」
「嗚呼、決めたぞ。この子の名はライル。ライル=ベリル=アドルクスだ」
「ライル。良い名前ね」
そう父に返すと、こちらを向いた母は僕の頬を優しく突きながら満面の笑みで話しかけてくる。
「ライルー、ママですよー」
それに釣られたかのように僕の顔にも笑みが浮かぶ。生理的微笑というやつなのだろうか。
「ほら、あなた。今ライルが笑ったわよ」
嬉しそうに母が父に言う。それを見て父も少し照れながら母と同じようにこちらに話しかけてくる。
「ライル。パパだぞ」
しかし、母の時とは違って僕の顔に笑みは浮かばない。
「どうしてだ。ライル。俺にも笑顔を見せてくれよぉ」
少し悲しそうにする父を慰める母。
多くの者たちの笑い声が聞こえ、和やかな空気がこの場に流れる。
今回は良い家庭に生まれることができたみたいだ。
今までいろいろなことがあったが、この時が一番嬉しく、幸せだったと後に父母は語る。
二人の会話を聞きながら僕は睡魔に襲わえ、いつの間にか眠りについていた。