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第6話 X-71性能試験2


「それで、先ほどの艦の性能を飛躍的に向上させる提案ですが、この艦は短距離ジャンプを連続して行うことが出来ます」


「連続?」


「これまで、安定宙域外で短距離ジャンプを行った場合、ジャンプアウト後の周辺空間の擾乱じょうらんが次のジャンプ用の数値解析を困難にさせるため、空間が安定するまで約3時間が必要でした。その後30分ほどかけて数値解析をおこなっているため、最短で3時間30分ほど次のジャンプまで時間がかかる計算になります。

 しかし今回この艦に積み込んだ中央演算装置は周辺状況の数値解析に時間はほとんど取りませんし、ジャンプ後の艦周辺の擾乱を考慮した計算が可能ですので、こと計算という側面に関してこの艦はジャンプの制約を受けません。しかもこの艦は無駄に大型のジャンプ用コンデンサーと核融合ジェネレーターを多数積んでいますので短時間での連続ジャンプが可能です」


「コンデンサーとジェネレーターは無駄ではないと思うがな。大尉の言うジャンプの話が本当なら、この艦はジャンプ用コンデンサーと核融合ジェネレーターの能力から言って30秒に1回ジャンプ可能になるが、さすがにそれは冗談だろ? そんなことが出来たら、戦術が根本的に変わるぞ」


「それでは試してみますか? ちなみにこの艦に積み込んだ中央演算装置には正式名が有ります」


「それは?」


「試製事象蓋然性演算装置X-PC17、通称ワンセブンといいます。

 ワンセブン、艦長に自己紹介を」


『村田中佐艦長、初めまして。先ほど山田博士、いえ、山田技術大尉から紹介にあずかりましたワンセブンです』


「こりゃあどうも、話せるのか? こいつは驚いた。まさかエセAIってことは無いよな? しかも俺には理解できないような名前だ。意味合い的にはこの世界の出来事の起こりうる確率を計算するってことか?」


『はい、しかし計算するだけでなく、よりよい未来を作り上げる提案を行うことが私の役目です。ジャンプ関連や照準関連などは私の機能をほんのすこし使った余技のような物です』


「それが、余技なのか?」


『はい、ただの余技です。この世界の未来を予測することができる私の目には単純な物理現象などを予測することは簡単なことです』


「簡単なことか。いうな」


『村田艦長に信じていただくために燃料は多少消費しますが、連続短距離ジャンプを行いましょうか?』


「できるのならやってくれ。燃料については気にしなくていい」


「吉田少尉、聞いていたか? これより本艦は短距離ジャンプを行う」


「了解しました。可能とは思えませんが連続ジャンプに備えます」



『それでは、外惑星、SS-72-b、SS-72-c各近傍にジャンプしたのちSS-72-a、乙姫おとひめ近傍に跳びましょう。

 ジャンプ30秒前、27、26、25、……3、2、1、ジャンプ』


 ジャンプ特有の意識が一瞬切り替わったような感覚の後、オペレーティングデスク上のスクリーンに、ガス巨星SS-72-bが映し出されていた。隣のスクリーンに映る3次元星系マップ上にSS-72-bを表す灰色の球の近くにX-71を示す白い紡錘型のマークが見えている。艦内から外部を直接視認することは出来ないが、ちゃんと短距離ジャンプが実行されたようだ。とはいえ1度目のジャンプは、事前に準備していれば可能だ。2度目はそうはいかないはずなのだが、


『30秒前、……15、14、……、3、2、1、ジャンプ』


 再度ジャンプ特有の感覚を味わったあと、先ほどと同じように、SS-72-bとは形の明らかに異なるSS-72-cがスクリーン上に現れた。


『30秒前、……、3、2、1、ジャンプ』


 そして、青く輝く惑星SS-72-a、乙姫おとひめがスクリーンに映し出された。


「ひゅー」


 吉田少尉が、自席で妙な口笛を吹いた。


 やめんか、こら。ここは一応軍艦の中なんだぞ。とはいえ気持ちはわかる。


『いかがでしたか? なお、今回の一連のジャンプに関するデータは航宙軍の星系内監視システムからリアルタイムで消去したうえ、整合性を持ったダミーデータを与えていますので、航宙軍にこの艦の動きが察知されることは有りません』


「ワンセブン、おまえがすごいということは十分理解した。おまえの能力をもつ演算装置の数を揃えることは可能なのか? それが可能なら、皇国航宙軍は無敵になるのだが」


『未来予測レベルの能力を持つものが複数存在した場合、予測される未来の揺らぎが干渉しあい増幅されてしまうため、どのようなオペレーションを行ったとしても収束しません。ようは未来予測が無意味になってしまうということです。そうなってしまわないよう、私のコピーが作成できないようすでに対応しています』


「なるほど」


『しかし、私の生みの親である山田博士がいらっしゃいますので、戦闘関連に特化した、私のダウングレード版なら将来的には製作可能と思います』


「そうか。覚えておこう」


『戦術レベルでのお話が、もう一点』


「なんだ?」


『先ほどの主砲発射はただのお遊びでして、この艦を私が操った場合、X-71の主砲の命中精度は、皇国の標準戦闘艦の主砲命中精度の1000倍と考えてください」


「極秘だが、皇国の標準的戦闘艦の主砲の命中精度は、敵艦が戦闘行動中の場合は1%前後と聞く。その1000倍とはどういう意味だ?」


『現在の砲戦距離の限界であるといわれています120万キロ程度では、この艦の主砲弾はどのような状況であれ(・・・・・・・・・・)必ず敵艦に命中します。しかも、命中個所も任意の個所を選ぶことができます』


「むかしの偉い軍人さんが『百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る』とかいって後で批判を受けたとか受けなかったとかいう話を聞いたことがあるが、おまえさんの言うことが真実なら、一撃で敵を粉砕可能なこの艦の主砲をもってすれば、あながち間違いではないな。どのみち、この艦の主砲のことはおまえも知ってるよな? ワンセブン」




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