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第5話 X-71性能試験


 真新しい艦内用戦闘服に身を包んだ山田技術大尉が、吉田少尉と連れ立って、無重力のなか手すりを伝わり艦の指令室に入って来た。二人はおのおのに割り振られた座席に座り、X-71の発進に備える。


 X-71の定員はわずかに指令室6名、機関室4名だが、現在搭乗しているのは艦長の俺、副長の吉田、その他担当の山田技術大尉の三名だけである。もとより性能試験は性能試験計画書に沿ってX-71を運転するだけで、試験結果は自動記録されるたぐいのものなので、試験そのものは二名で事足りるといえばそうなのだが、試験中、何か問題が発生した場合、二名だけでは全く対応が出来ないのも事実である。


 俺の趣味を他人にとやかく言われたくないので、俺と吉田少尉の二人だけでこれまでやって来て、ここに来て一名増員した格好だ。


 普通なら無茶が当たり前の実験部でさえここまでの無茶はあり得ないのだが、実は無茶を押し通すだけの力を俺は持っている。


 いや、力ではないか。要は実験部でのお荷物扱いの俺をていよく辺境に押し込めるにあたり、適当なおもちゃを与えておけば、おとなしくしているだろうという上層部の判断もあったようだ。従って、実験部では実験艦《X-71》の成否など実のところ気にしていないというのが本当のところであったりする。


 では、なぜそこまで連中が問題児を自認している俺をクビにもせず好きなことをさせているかというと、俺の実家は、皇国の建国時の重臣の家柄で、いまの当主が俺だからだ。そう、おれは何をかくそう、皇国12家の1つ、皇家にも覚えめでたい村田侯爵家のご当主さま、大資産家の村田侯爵閣下なのだ。いまでも、俺の資産は秒速で増大しているはずだ。この実験艦にしても、俺のポケットマネーがふんだんに投入されている。



「これより、X-71の性能試験を始める。係留索解放」


「係留索解放しました」


「係留索解放確認。X-71、後退微速」


「X-71、後退微速」


 二重反転するシリンダーの間の大型艦専用桟橋に係留されていたX-71が係留機から解放され、ゆっくり後退し、URASIMAから遠ざかっていく。十分URASIMAから距離を取ったところで、


「X-71、停止」


「X-71、停止しました」


「X-71、取り舵、前進微速」


「取り舵、前進微速」


「舵中央。X-71、前進半速」


「舵中央。前進半速」


「このまま、速度計測点まで向かう」


……


「速度計測点通過、加速度計測開始……」


「X-71、増速」


 ぐっと座席に体が押し付けられる。加速耐性を強化した体はこの程度の加速度は問題ない。スクリーンに山田技術大尉を映してみたが、彼女も強化済みだったようで問題ないようだ。確認せずに試験に付き合わせてしまったが、加速耐性を強化していないと多少内出血したり不快な思いをする。命には別条ないはずなのでどうってことはないはずだ。もっと言えば、吉田少尉が事前に確認をしているはずなので心配はもとよりない。


 俺がこういった試験とは直接関係なさそうなことを考えていても試験は続いている。


「X-71、原速、……、強速、……、第一戦速、……第二戦速、……第三戦速、……、最大戦速、……、X-71、一杯」


「……速度計測点通過、加速度計測終了」


「設計加速度を達成しました。燃料、推進剤の消費量計算値と合致します」


「こんなものだな」


「艦長、感動薄いですね。今の加速度は艦隊の高速駆逐艦を軽く超えた加速でしたよ」


「この艦は装甲がなくて丸裸。加速性能が他の艦に劣っていたらそれこそダメだろ。しかも、動力系は特別製だ。俺がいくら自費をつかっていると思ってるんだ? それじゃあ、次の試験行くぞ。次の試験は何だったかな?」


「次は、回頭性能検査です」


「どうもパッとしないな。一発、主砲を撃ってみないか?」


「回頭性能試験を完了していませんと、主砲の軸線の照準調整が出来ませんよ」


「そうだったな、面倒だな」


「あのう、村田艦長?」


「どうした、山田大尉」


「今回この艦に積み込まれた中央演算装置ですが、かなり特殊なものでして、回頭性能試験をすることなく、この艦の現在の状況から結果をかなり高い精度で予測できると思います。主砲の照準も含め、この艦の中央演算装置に任せてみませんか?」


「この艦の中央演算装置はたしか中央研究所で特別に作ってもらったものだったな? 要求性能と比べ幾分高い性能のものを寄こしてきたと研究所から言ってきたが、そこまで特別なものだとは思わないぞ」


「じつは、先日取り付けた中央演算装置はその演算装置とは異なるものが取り付けられています。後日経緯を含め詳細を艦長にお伝えしますが、今は私の言葉を信じてください」


「まあ、その程度のことは俺は気にしないから経緯などどうでもいいけどな。そこまで大尉が言うなら、やってみようじゃないか。吉田少尉いいな?」


「予定にはない試験ですから標的を用意していません。射撃目標はどうしましょうか?」


「そこらの小惑星でいいだろ」


「了解しました。目標を小惑星α-36とします」


「X-71、目標に対し回頭開始。主砲弾種通常、弾数3。射撃モード自動」


「主砲1番発砲しました。2番、3番。発砲終了」


「着弾30秒前、28、27、……、3、2、1、今」


「全弾命中。すごいですね。この距離で修正射撃なしで全弾命中とは」



「村田艦長いかがでした?」


「ああ、いい線いってるな。調整なしで軸線砲が初撃から命中することはありえないからな。それくらいは俺でも分かる。山田技術大尉、それで一体どうやったんだ?」


「この艦の精密なデータをもとに艦の回頭特性、軸線誤差、砲身特性、砲弾の飛翔特性などを計算し照準、発砲タイミングなどを調整しました」


「わかった。良くはわからないが、そういうものだと言うことは分かった。要は、この艦の中央演算装置はただものじゃなくて、火器管制は任せておけばいいってことだな?」


「はい、そういったご理解で十分と思います」


「そうか。それなら、試験をしていなくても、この艦の秘密兵器の性能なんかも分かるんだな」


「分かります。この艦は毎分主砲弾2発分の反物質生成能力を持っています。反物質を充てんした特殊砲弾は防御不能の砲弾でこの直撃に耐えうる戦闘艦はこの人類宇宙には存在しないであろうことも分かっています」


「そうか。今の発言だけで山田技術大尉、君は憲兵に逮捕されて連行されているレベルの秘密情報をべらべら喋ったわけだぞ」


「それでは私を逮捕しますか?」


「あいにくこの艦には憲兵を兼ねる陸戦隊員は搭乗していない。フフ。それで、山田技術大尉、他に何か言いたいことがあるのだろう?」


「それでは、この艦の性能を飛躍的に向上させる提案をさせていただきます」


「うん? 先ほどの照準云々(うんぬん)でも相当な性能だと思うが」


「その点については、おそらく艦長のご想像の更に上の性能をこの艦は持っているのですが、その点については、ひきつづき実地で示しましょう」





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